日本人拉致問題、期待できなくなった米国の協力

日本人拉致問題、期待できなくなった米国の協力

  • JBpress
  • 更新日:2021/04/08
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2020年10月24日に砂防会館別館(東京都千代田区)で開催された「全拉致被害者の即時一括帰国を求める国民大集会」(写真:アフロ)

(古森 義久:産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授)

4月2日に開かれた米国、日本、韓国の安全保障担当高官の会議では、北朝鮮による日本人拉致事件の解決に向けた国際協力がこれまでになく小さな比重しか与えられなかった。

米国のバイデン政権の対応は、トランプ前政権と比べると明らかに消極的だった。北朝鮮への対処に関して、米国はこれまでとは異なる姿勢をみせつつあるようだ。

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単に「拉致問題」と記されているだけ

米国のジェイク・サリバン国家安全保障担当大統領補佐官、日本の北村滋国家安全保障局長、韓国の徐薫国家安保室長の三者は4月2日、米国の首都ワシントンに近いメリーランド州アナポリスの米海軍士官学校で、三国間の安全保障協議に臨んだ。北朝鮮情勢やインド太平洋情勢への対処を主題とする協議が行われ、その結果をまとめた共同声明が会談直後に発表された。

これまで日本と米国との安保協議では、北朝鮮工作員による日本人拉致事件の解決が最大ともいえる比重を与えられていた。だが今回の声明では、その重要性や緊急性を後退させる流れが顕著となった。

同声明はまず「三者は北朝鮮の核・弾道ミサイル計画に関する懸念を共有し、非核化に向けた日米韓の緊密な協力を通してこれらの課題に対処し解決するというコミットメントを改めて確認した」として、米日韓が北朝鮮の核およびミサイルの脅威の防止に最大の注意を向け、共同で対処することを誓約していた。

さらに同声明は「三者は、北朝鮮を含む国際社会による関連する国連安保理決議の完全な履行、拡散の防止並びに抑止力の強化および朝鮮半島の平和と安定の維持のための協力が必要不可欠であることで一致した」と述べ、北朝鮮の核とミサイルを主体とする脅威への国際的な対応の重要性をうたっていた。

ところが日本人拉致に関連すると思われる案件については、以下の言明を公表したにすぎなかった。

「三者は、朝鮮半島の南北離散家族の再会および拉致問題の迅速な解決の重要性について議論した」

日本の歴代政権が対外的に、とくに米国の政権に対して、北朝鮮情勢に関して最も強調してきたのは一貫して「核」と「ミサイル」、そして「日本人拉致事件の解決」だった。だが今回の米国、韓国の両代表との北朝鮮関連協議の総括では「日本人拉致」という言葉がどこにも出てこなかった。単に「拉致問題」と記されているだけなのだ。

しかもこの「拉致問題」は、「朝鮮半島の南北離散家族の再会」という記述の後に並列する形で言及されているだけだった。この記述からすれば、「拉致問題」というのは日本人の拉致ではなく、韓国民の拉致、あるいはタイやルーマニアなど他国民の北朝鮮政府による拉致を指しているとも受け取れる。

日本の政府やメディアなどは、北朝鮮政府が日本国民だけでなく他国の国民も不当に拉致していたということを訴えてきた。だからこういう表現になったとする解釈も成り立つだろう。

しかしそれにしても、日本にとって最も重要な日本人拉致問題が公式かつ正面の会談結果にはきちんとあげられていないことは、大いに懸念すべき事態である。

しかも拉致問題に関しては、「その解決の重要性を議論した」にすぎない。この共同声明では、北朝鮮の核兵器開発や弾道ミサイル開発に対して、米国、日本、韓国が「共同での対処」や「協力」といった言葉で実際の行動を伴う対応を誓い合っていた。ところが拉致問題については単に「議論した」というだけである。何をどうするかへの言及は皆無なのだ。

トランプ前政権とは大違い

こうした展開は、日本と米国の政府代表が顔を合わせて北朝鮮情勢を語ったこれまでの状況とは大きく異なっている。トランプ前政権では、「日本人拉致事件の解決」が日米の間で緊急かつ重要な課題として位置づけられてきたのである。

今回のこの三者協議と同時に実施された日米二国間の会議でも、拉致問題は影を潜めてしまっていた。北村長官とサリバン補佐官が1対1で行った会談では、「中国、北朝鮮等の地域情勢や、日米同盟の強化、『自由で開かれたインド太平洋』の実現に向けた取り組み、経済安全保障を含めた安全保障上の諸課題等につき意見交換を行いました」という内容だけが報告された。日本と米国がここ数年、緊密な協力をうたってきた日本人拉致問題の解決にはまったく言及がなかった。

この変化については、バイデン政権が北朝鮮問題全体への政策についてまだ検討中であるということも考慮すべきだろう。だが、同盟国の日本の最大懸案が拉致解決だということは、バイデン政権にとっても明白である。そうでありながら日本への明確な支援を、たとえ声明文だけにしても打ち出せない、打ち出さないという姿勢は、トランプ前政権とは大きく異なっていると言わざるを得ない。

日本人拉致事件に関心を示さない韓国

今回の三者会議で日本人拉致事件が正面から提起されなかった理由としては、韓国の存在が考えられる。韓国政府、とくに文在寅政権は、日本人拉致事件の解決に積極的に協力しようという姿勢をみせたことがない。日本側が拉致問題を提起すると、韓国側は「北朝鮮による韓国人の拉致」や「朝鮮半島での韓国離散家族」という問題を持ち出してくることが定番の流れとなっていた。

だから今回の三者協議でも、韓国代表が日本人拉致事件の解決に前向きな関心を示すことはなかったはずである。その結果、三者協議全体の総括が日本人拉致の軽視につながったとしても不思議はない。

日本にとっての悲願といえる日本人拉致事件の全面解決のためには、これまでのように米国や国際社会に頼ってはいられない。そんな警告が今回の三者協議によって発せられた、とも解釈できるだろう。

古森 義久

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