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「大半がワクチン未接種」成田空港で五輪関係者の応対をするスタッフたちの“ホンネ”《胸にはパソナ、JALSKYの名札が...》

「大半がワクチン未接種」成田空港で五輪関係者の応対をするスタッフたちの“ホンネ”《胸にはパソナ、JALSKYの名札が...》

  • 文春オンライン
  • 更新日:2021/07/27

7月13日、筆者はオリンピック取材のために久々に日本に帰国した。

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成田空港に到着すると、まず一般入国者が先に飛行機を降りるように指示があり、15分ほど経ってからオリンピック関係者が降りるアナウンスが流れた。

ゲートを出ると、待っていたのは防護ガウンに身を包んだ空港スタッフたち。同じ飛行機に乗っていたオリンピック関係者が一列に並び、スタッフが1人ずつ書類の確認を行う。来日しているオリンピック関係者から複数の陽性者が出ていることもあり、マスク、防護ガウン、そして人によっては使い捨てゴム手袋やフェイスシールドをつけている。

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千駄ヶ谷にある新国立競技場 Ⓒ文藝春秋 撮影・宮崎慎之輔

「東南アジア系の職員が多い」

その光景にも驚かされたが、何より気になったのはスタッフに外国人が多く含まれていたことだ。

筆者よりも先に帰国した日本人の友人から「東南アジア系の職員が多い」と聞いてはいたが、実際に目の当たりにすると見慣れない光景にやはり驚く。コロナ前には空港職員に東南アジア系の方はほとんど見かけなかった。

オリンピックを前に日本の水際対策が強化されていると聞いていたが、実際の空港を通過して、懸念は一気に膨らんだ。

筆者は普段はアメリカでスポーツ取材をしているが、東京オリンピックの取材申請もフリーランスで申し込んだので、当初は一般入国の手続きで帰国しようとしていた。しかし窓口で書類の職業欄を見たスタッフに「オリンピックですか?」と聞かれ、「取材です」と答えたところ、海外在住でオリンピック取材のために帰国する日本人のケースは少ないようで、一般入国者のレーンとオリンピック関係者のレーンをたらい回しにされて2往復し、結局入国までに6時間を要した。

その際、一般入国者レーンのスタッフはほとんどが日本人で、オリンピック関係者のレーンのスタッフは日本人と外国人スタッフが半々ほどなことに気がついた。

オリンピック関係者レーンで手続きを待ちながら担当してくれた20代の東南アジア系の女性と話をしていると、彼女は昨年、就労ビザを取得して来日。現在はオリンピック・パラリンピックのために派遣スタッフとして雇われた120~150人ほどの1人であることがわかった。彼女の他にもバングラデシュや台湾、中国など多くの外国人スタッフや留学生が集められているという。

「空港のアルバイトは時給が1200円と少し高いので」

「以前はデータの入力ばかりでスキルが身に付かなかったので、空港のアルバイトは時給が1200円と少し高いので応募しました」

時給が高く設定される仕事には大きく分けて2つある。1つは特別なスキルが必要な仕事、もう1つはリスクを伴う仕事だ。

1200円の時給が高いか安いかはさておき、今回の空港でのケースは明らかに後者だろう。

変異株が猛威をふるい始めた4月中旬頃から、空港検疫でのコロナウイルス陽性率は上昇している。渡航前検査や空港検査で陰性でも、入国後に陽性と判明したケースもある。

しかも7月からはオリンピック関係者の来日が激増し、渡航前に2回のPCR検査を受けているはずの関係者の中からも、空港の検査で陽性が出るケースも少なくない。空港は、日本のコロナ対策のまさに最前線だ。

オリンピックやパラリンピック、そして日本の安全を支える最前線では、多くの外国人を含む派遣スタッフが働いている。水際対策の行方は彼らに委ねられていると感じた。

「ワクチン接種は受けていません」

関係者の来日が増えた7月14日には、夜中12時までのはずの勤務時間を超過して、自宅に戻ったのが深夜2時近くだったスタッフもいるという。激務で体調が悪くなれば、当然免疫力も落ちてコロナウイルスに感染する確率も上がってしまうのが心配だ。

入国手続きの途中で最も驚いたのは、スタッフの多くが「ワクチン接種は受けていません」と言ったことだ。

「五輪関係者をはじめ、一般の旅行者からもコロナの陽性者が出ているので、早くワクチンを接種したいと要請しています。ただ、まだはっきりした日程は決まっていません。それにいま打てたとしても、2回目の接種が終わるのは五輪の閉会式の頃ですよね」(成田空港でオリンピック関係者の応対をする日本人スタッフ)

彼らが成田空港での派遣業務に応募して、採用が決まってから勤務が始まるまではあっという間だったという。「名札につける証明写真を翌日までに用意するように言われたので、昔の写真を使いました」と苦笑いするスタッフの証言からも、ドタバタの採用だったことがわかる。

勤務を開始する前にワクチンを打っている人はほとんどおらず、PCR検査も受けていない人が多いというが、それでも続々とやってくるオリンピック関係者の応対はしなければいけないのだ。

感染した場合の補償も不明瞭

7月23日のオリンピック開会式まで2週間を切った頃からようやくワクチン接種の申請が始まったというが、ワクチンの効果が完全に発揮されるのは一般的に「2度目の接種から2週間後」と言われている。開会式の2週間前に1度目の接種が出来たとしても、8月9日の閉会式にはとても間に合わない。

さらに、万が一コロナウイルスに感染した場合の補償も明確にされていないと前出の女性は不安を口にする。

「入国者の中から、毎日のように感染者が出ていて怖いですが気をつけるしかありません。もし感染したら家で療養することになると思います。貯金があまりないので入院もできないですし……」

安全な空港運営を目指す世界空港評議会(ACI)や国際運輸労連(ITF)は昨年から、各国政府に対して空港で働くスタッフへのワクチン優先接種を呼びかけている。コロナ禍からの回復に向けて、人が移動する窓口になる航空業界の責任は大きく、空港で働くスタッフの安全確保は優先度が高い。

ITFのサイトには、「我々は全ての航空労働者、空港警備員や清掃員から客室乗務員やパイロットまでのワクチン接種と健康・安全の確保を各国政府に求めている。各国政府はこれらの労働者をキーワーカーとして認識し、優先接種の対象とすべきだ」と記されている。

派遣スタッフは職域接種の枠外

しかし、日本の空港スタッフへのワクチン接種は大きく遅れている。

報道によれば、日本航空と全日空が国際線に乗務するパイロットや客室乗務員を中心にワクチン接種を開始したのが6月中旬。

6月21日からは、羽田空港と成田空港で出入国管理や検疫にあたる職員約6000人への職域接種がスタートした。しかしその初日に1度目の接種を受けられたとしても、ワクチンの免疫効果が発揮されるのは開会式を過ぎてからになる。

そして、オリンピック関連のために雇われた派遣スタッフはその職域接種の枠にすら入っていないのだ。

入国手続きをする机では間隔が2m以下

東南アジア系のスタッフが多く働いているオリンピック関係者のレーンの現状は上記のようだが、一般入国者用レーンもアメリカの空港などと比べて対策が行き届いているとは思えない場面も多かった。

入国の際や昨年7月に米国内で飛行機を利用したが、どの空港のコロナ対策もかなり徹底されていた。人が触れたり座ったりする場所には常に清掃スタッフがいて、トイレや待合エリアの椅子も定期的に消毒されていた。空港の建物に入った瞬間に、消毒の匂いが漂ってきたほどだ。

しかし成田空港では、入り口などに手指用のアルコールは置かれていたが、あくまでもその使用は個人に任されている。

入国手続きの書類を確認するブースでも、入国者とスタッフの間にはアクリル板が用意されているものの、隣に座る他の入国者との間には仕切りがなく、間隔は2m以下だった。

紙の書類で手続きをすることにも、不安を感じた。出国前にオンラインで必要事項を記入しているにもかかわらず、それを紙に印刷して複数の係員に何度も手渡しで確認してもらう作業は、コロナ禍ではリスクが高い。しかも一連の手続きは、PCR検査の結果が出る前に行われる。つまり陽性の乗客がいた場合、現場で働くスタッフは陽性者と何度も近距離で対面することになるのだ。現場スタッフの胸元にはJAL Skyやパソナの名札がついていた。乗客よりも何倍も疲弊した表情を浮かべていた。

検査後の書類確認場所や、検査後に1時間ほど待機する部屋の椅子や机を消毒している様子がないのも気になった。部屋の隅には空気清浄機が置かれていたが、湿度も高く汗のような匂いも漂い、十分な換気がなされているようには見えない。

検査自体は厳密に行われているが…

「陽性者が空港での検疫をすり抜けた」という報道もあるが、検査自体はそれなりに厳密に行われていると感じた。しかし、書類確認や検査待ちの場所で他の乗客や空港スタッフと何度も間近に接するため、空港で感染して入国するケースがあってもおかしくない。

現場のスタッフの方々は、本当に懸命に働いていた。限られた空港のスペースの中で、最大限距離が取れるようにという配慮も感じられる。しかし、それが十分とは言い難く、何よりワクチン接種を受けずに働くスタッフたちの心中を想像すると胸がつまる。

オリンピックと日本のコロナ対策の最前線で働く人々が安心して働ける環境ができることを願わずにはいられない。

(及川 彩子/Webオリジナル(特集班))

及川 彩子

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