「油をさそう」“婚期をほぼ逃した”と自認する村の男たちが私に言ったスラングの意味

「油をさそう」“婚期をほぼ逃した”と自認する村の男たちが私に言ったスラングの意味

  • 文春オンライン
  • 更新日:2021/05/05

《失恋を苦にして2人の友人が亡くなった》北タイには「集落が承認しない結婚は不可」という山村があるから続く

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日本に本部を置くNGOの現地担当として、北タイの山奥で調査活動を行う日本人研究者・富田育磨氏が出版したエッセー「北タイ・冒険の谷」(めこん)が話題だ。

富田氏が1年の大半を過ごすという北タイの集落はミャンマーやラオスと国境を接した山地にあり、電気も通じておらず、郵便も届かず、もちろん携帯電話やインターネットも使えない。そこではタイ語とは違う言語を持つ、カレン族やアカ族などの少数民族が、山の斜面で焼畑等を行ない、自給自足的な生活を営んでいる。

彼らが過酷な自然環境を生き抜き、持続可能なかたちで共同体を営むために培った生活の知恵とは一体どんなものか。2008年から10年以上にわたって富田氏が研究に没頭し続ける、現地文化の魅力に迫る。(全4回の3回目。#1から読む)

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収穫されたニンニクを竹竿で担ぐ村人。稲刈り後の田んぼではニンニクが裏作される

「嫁取りの気概のある男」と見なされるために

ここの集落では、三〇代半ば過ぎの独身男性が、ある種の存在感を放っている。好きこのんで独身でいる訳ではない。人柄や見かけはおよそ申し分ない。でも年頃の女性と知り合う機会が少ないのだ。しかも村で「嫁取りの気概のある男」と見なされるには、農作業に熱意を見せ、しかも酒や煙草を控えなければならない。

居候の私は、ぜいたく品の酒や煙草を村内で口にすべきでないと思っている。とはいえ、「婚期をほぼ逸した」と自認する村の男たちからすれば、四〇代で独身の私は、彼らの先輩株らしい。夕方になると「油をさそう」というスラングで彼らから誘いがかかる。以前はよく顔を出した。「油」というのはアルコール度数三五度の安酒で、町の食料雑貨店で入手できる。匂いにクセがある。

悪評を立てられないよう集落から離れた場所で酒を飲む

彼らはまずもって、飲み方が不器用だ。たとえば集落から徒歩5分の作業小屋で小宴を催す(写真)。集落の近辺で村びとの目が届かないところなんてないから、小屋内の様子は外に筒抜けだ。そこへゆくと前途ある若者らは周到だ。悪評を立てられたらかなわないので、集落から三、四キロ離れた森の奥まった所とかを会場とする。

煙草をくゆらせているのも後輩たちだ。こう支度する。──庭先でちぎったバナナの枯れ葉を膝の上へ広げる。ズボンのポケットから刻みたばこ(乾燥した葉たばこの細切り)の小袋を取り出し、好みの量をバナナ葉の上にのせる。砕いたタマリンドの殻をそこに降りかけ風味づけにする。そして吸い口の方がやや細くなるように巻く。味は深い。ちなみに紙巻煙草は高価だから、彼らは口にしない。

酒飲み男が名誉挽回する「冠婚葬祭」「土木工事」

ソツのない村びとなら、酒盛りのあとは寝床に引っ込む。しかし我らがミドル・エイジはそんなケチな振る舞いはしない。たとえば私と同年代のG。農閑期なら朝から赤ら顔だ。シラフのときの押しの弱さが、このときとばかりに逆へ振れるのだろう。村びとが車座になったたき火のそばまでわざわざ出向いて、リクエストもないのにナツメロを歌い、オチのない話をし、見当外れの相槌を打つ。村の女性たちからの評判は、言わずもがなである。

「Gらとの付き合いを控えたら」と、村の長老から遠回しに注意されたこともある。でも私は、判官びいきというか、後輩らの会合をおろそかにしなかった。おかげで私まで酒飲みと陰口を叩かれた。

ところで幸いなことに、Gらには檜舞台が用意されている。たとえば冠婚葬祭や土木工事で助っ人を務めるときだ。彼らはフットワークが軽く、また村びとに対しマメで献身的でもある。荷運び、道具の整理、賄い、獲物の解体を進んで引き受ける(写真)。そして、助っ人の仕事が済めばいよいよ、お約束の酒が依頼主から振る舞われる。人前で堂々と飲む彼らの表情は、いつになく誇らしい。

「異性とは広く浅く付き合います。数年間よく観察して」17歳女性が告白した少数民族の“恋愛作法”へ続く

(富田 育磨/Webオリジナル(特集班))

富田 育磨

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