アイスクリーム・ウォーズ「シャリシャリの覚醒」

アイスクリーム・ウォーズ「シャリシャリの覚醒」

  • PRESIDENT Online
  • 更新日:2020/09/16

2020年夏、アイスクリーム業界はどんな動きを見せるのか。ウィズコロナのアイス・バトルロイヤルが今ここに開幕!

アイスクリーム・ウォーズ

この10年で1.3倍に伸びた市場がある。「アイスクリーム」市場だ。2019年は「5151億円」(メーカー出荷ベース。日本アイスクリーム協会調べ)と微減だったが、18年まで7年連続で過去最高金額を更新した。

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この数字には、家庭用と業務用のアイスクリーム・氷菓が含まれるが、全国各地の小売店で買える「家庭用アイス」は100円程度の品が多く、手軽なおやつとして消費者の人気が高い。

新型コロナ感染拡大防止で、日本中が外出自粛となった20年5月や6月も好調だった。「学校に通学できない子ども、在宅勤務の親、それぞれが楽しんだ」といわれる。

近年は「冬」の需要も強く、データによっては夏アイス(定番品+春夏向け商品)7割、冬アイス(定番品+秋冬向け商品)3割になると聞く。

本来なら、夏は旅行需要も活発で外出機会が多いが、20年は様子見の人も多いだろう。ウィズコロナで仕事のリモートワークも続きそうだ。

そんな「夏の巣ごもり」に向けた注目商品を、各ブランドの新商品を中心に探ってみた。

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「冬の女王」が夏に勝負

20年6月23日、ハーゲンダッツ(本社・東京都目黒区)から期間限定で「アーモンド&ミルク」「ゴールデンパイン&マスカルポーネ」のジェラート(カップアイス)が発売された。

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ハーゲンダッツ ジャパン ブランド戦略本部 渡辺淳巳氏

「お客様がハーゲンダッツに期待される味を、新シリーズのクリーミージェラートで実現しました。アーモンド味は、香ばしくすっきりした後味のアーモンド+豊かな風味とコクのミルク、パイン味は、ジューシーな甘酸っぱさ+甘く濃厚な味わいのマスカルポーネの調和が、それぞれ楽しめます」

ハーゲンダッツ ジャパン・ブランド戦略本部の渡辺淳巳さんは、こう語る。「(食べ方は好みだが、)最初はそのまま、少し溶けたら練って食べるといった違う味わい方も楽しめる」何度食べても飽きがこなそうな商品だ。

生活文化や消費者心理も考察する筆者は、ブランドの中には“TUBE型(夏型)”と“広瀬香美型(冬型)”があると思う。ハーゲンダッツは後者の代名詞といえる。

事実、「1984年の日本上陸以来、年間を通じて12月の売り上げが最も高いブランドです」という。30年以上前から「冬アイス」だった。

つまり今回は、「冬の女王が夏に勝負」というわけで、新商品も「夏に食べたくなるハーゲンダッツ」を掲げている。

ブランドとして「氷菓は出さない」

昔から、アイスクリーム業界では「最高気温が25℃を超えるとアイスクリームが売れて、30℃を超えると氷菓が売れる」と言われる。前述した冬のアイス需要もあるので、一概には言えなくなったが、やはり夏は氷菓が強い。これは「暑さしのぎ」の意味合いもあるからだ。

夏向けの新商品開発では、氷菓への誘惑はなかったのか。

「10年以上前には氷菓系を出しましたが、現在は考えていません。消費者調査をすると、当社の商品に期待するのは『ミルクの味わい』や『濃厚さ』。その軸足を踏まえた商品開発を行います」

夏のフレーバーとして、果実系ではマンゴーや柑橘系が人気だが、今回はパインを選んだ。

「ゴールデンパインの酸味の強さが、暑い夏はすっきりしたい消費者心理に合うのに加えて、濃厚さも実現できたからです」

ジェラート系と並ぶ、同社の夏のオススメが「ラムレーズン」(20年8月4日発売)だ。

「84年の日本上陸時に初めて発売した5つのフレーバーの1つで、今回初めて改良を行い、通年販売商品に加えました。これまでより風味の強いラム酒を使った一方で、製品に占めるアルコール濃度を下げ、夏場にも楽しめる味となっています」

これまでハーゲンダッツには、基幹商品と呼ばれる通年販売のミニカップが7つあり、今回のラムレーズンで“神8(エイト)”となった。人気順は、バニラ・ストロベリー・グリーンティーで、長年ベスト3の顔ぶれは変わらない。新メンバーがこの牙城を崩せるかも注目される。

単品首位は「横綱相撲」で受ける

18年、近畿地方の企業を訪問した際、好きなアイスの話となり、20代の女性社員と50代の男性社員が、コンビニで「チョコモナカジャンボを目的買いする」と語った。年代も性別も違う2人が別々に、「他のアイスには目もくれない」と話すのを非常に興味深く感じた。

森永製菓(本社・東京都港区)の「チョコモナカジャンボ」は、単品として最も強い。前身の商品が発売されたのは72年、現在のサイズや工法になったのは96年からだ。

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森永製菓 冷菓マーケティング部 村田あづさ氏

「パリパリの食感が商品の最大の特徴で、お客様にも支持されています。商品の鮮度管理にもこだわります。夏場のピーク時にもつくりだめをせず、工場で製造後5日以内に出荷。ご購入者は10代から70代までと幅広く、販売数は19年連続で過去最高を記録しました」

こう話すのは、森永製菓・マーケティング本部冷菓マーケティング部の村田あづささんだ。

「チョコモナカジャンボ」は、商品パッケージにも「パリパリッ!」と大きく表示される。中に入るチョコは板チョコではなく、液体を流し込み固めるなど、喫食時の口溶けにもこだわる。

お菓子メーカーとして知られる同社の業績にも寄与してきた。

「20年3月期の決算では、チョコモナカジャンボが属する『ジャンボグループ』は対前年比109%で冷菓部門全体の売り上げは約407億円(前年比109.5%)。夏場の天候不順もありましたが、好調に推移しました」(村田さん)

改良を継続して行い、実績を積んできたので、この夏も横綱相撲で受けて立つ。

「製菓」と「乳業」でアイスを出す

「最近では『板チョコアイス』が期間限定から定番商品となり、販売も好調。ベルギー産チョコレートを使用したアイスで、商品の約45%がチョコレートです。お客様の中には、夏に本格的なチョコを楽しみたい人がおられ、そうした層に支持されています」

冬アイスもそうだが、近年は「AだからB」という消費鉄則が崩れてきた。送り手側の思い込みもあったかもしれない。

かつて「競合を見ないで消費者を見なさい」と言った名経営者がいたが、「消費者はどんどん変わる」のだ。

もともと「森永ミルクキャラメル」(1914年発売)という百年ブランドから始まった同社は、菓子食品事業が看板で、チョコレート系では「ダース」や「チョコボール」などのロングセラーを持つ。

そして消費者には見分けがつきにくいが、森永乳業という兄弟会社がある。だがライバル明治(明治製菓と明治乳業が経営統合)のように“ONE森永”となることはなく、アイス市場では競合している。製菓は前述の「チョコモナカジャンボ」が絶対的エース、乳業は「ピノ」や「パルム」が看板ブランドだ。

森永製菓には「アイスボックス」のような人気氷菓もあるが、「製菓の軸足」にこだわる。「食感」「口溶け」は、菓子でもよく登場するフレーズなのだ。

禁断の「野菜味」に挑む

「文化と風俗は西からやってくる」という言葉がある。商人の町・大阪は新しもの好き、という意味でも受け取った。

20年3月30日、「パピべジ」というアイスが江崎グリコ(本社・大阪府大阪市)から発売された。人気ブランド「パピコ」の派生商品で、野菜味のアイスとして第1弾は「りんご&にんじん」「キウイ&グリーン」が発売。20年8月12日には第2弾「トマト&オレンジ」が追加投入される。

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江崎グリコ アイスクリームマーケティング部 ブランドマネージャー 上木裕子氏

「厚生労働省は、成人の1日当たりの野菜摂取量について350グラムを推奨していますが、約62グラム不足しているのが現状。この不足分をデザート感覚で補えるのが『パピべジ』です。少し小さいサイズで低価格なので、野菜を無理なく習慣的に摂れます」

「パピコ」のブランドマネージャーである江崎グリコ・アイスクリームマーケティング部の上木裕子さんは、開発の経緯をこう説明する。「商品は20種類以上の野菜とフルーツ入り」ともはや野菜ジュースの域だ。取材班も試食したが「まるでスムージー」(20代の男性編集者)だった。

「『ラクして野菜を摂りたい』という消費者ニーズに応えたいと、グリーンスムージーも意識しました。当社は『おいしさと健康』が企業理念で、『ユニークネス』な社風もある。それを今回の商品にも込めています」(上木さん)

実は、野菜味のアイスには成功事例がない。2014年にはハーゲンダッツが「スプーンべジ」として投入したが不発。消費者の支持は広がらなかった。

「甘さで幸せを感じたい」アイスでの野菜訴求は、なかなかむずかしい。だが、これも「AだからB」という消費鉄則かもしれない。「甘いアイス」(快楽)と「健康維持の野菜」(禁欲)。微妙な消費者の琴線に触れられれば面白い。

5ブランドが支えるアイス事業

「パピコ」の発売は46年前の1974年。当初は「乳酸サワー味」で、77年に現在でも主力の「チョココーヒー味」が登場した。チューブ型の容器で手に持って食べられるのが特徴だ。2本入りで小分けできるのも、細切れ時間をこなす現代に合っている。

かつては、ガリガリとした食感だったが、90年代後半に「なめらかな食感」に変えた。2015年以降、それを強く訴求してから売り上げも拡大していった。19年、東北に出張した際、パピコのファンという50代の県会議員にも会った。

「当社冷菓部門のアイスクリームには、『パピコ』をはじめ、『アイスの実』『ジャイアントコーン』『牧場しぼり』『パナップ』の重点5ブランドがあり、それぞれの訴求が異なります。最近はアイスの実が好調です」

安定した大黒柱(パピコ)に支えられながら、子ども(パピべジ)は伸び伸びと育てる方針か。“コロナ太り”で健康面が気になる消費者を見据えた訴求も行う。

津軽海峡を超えた「北海道の特産」

コンビニ業界で独自の取り組みが注目されるセイコーマートを運営する「セコマ」(本社・北海道札幌市)。近年、同社が力を入れるのが、自社ブランド「Secoma」(セコマ)だ。これはメーカーとしてグループ外へ販売する取り組みで、北海道産の原料にこだわったアイスで訴求する。

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セコマ 執行役員 広報部 部長 佐々木威知氏

「この夏のオススメは『北海道メロンソフト』です。メロンの産地としても知られる北海道産の赤肉メロンを使い、06年に発売。当初はメロン1トンからのスタートでしたが、現在は100トン以上に拡大しています」

セコマ執行役員広報部部長の佐々木威知さんはこう話し、開発の経緯を明かす。

「発売の2年前、道内・苫前町のメロン農家さんから『規格外なのでそのままでは出荷できないが、味はおいしいメロンを1人でも多くの人に食べてもらいたい』と相談を受けたのがきっかけです。札幌冬季五輪の前年、1971年に創業した当社は北海道に育ててもらい、道内の特産品を盛り上げたい思いもある。その理念にも合う取り組みでした」

こだわるのは、メロンのおいしさに加えて、ミルクのおいしさだ。

「道内のサロベツ原野に育つ牧草を主食にした乳牛から搾る生乳を、近くの豊富町(とよとみちょう)の牛乳工場で原料乳に加工。クルマで約1時間半の羽幌町(はぼろちょう)の工場に低温配送しています。生乳から加工まで、製造工程で鮮度を閉じ込めているのも自慢です」(佐々木さん)

実は、首都圏や近畿地方など本州の小売店でも買うことができる。筆者の事務所近くにもドラッグストア「ウエルシア」があり、同商品を売っていた。「スーパーには幅広く卸していますが、ドラッグストアはウエルシアだけ」だという。

「コロナ自粛中の20年4月から6月のアイスの売れ行きもよく、対前年比で約120%でした。同時期の関東圏では当社のワインとサワーが非常に伸び、家飲み需要だと思います。アイスでも似た傾向が見られ、まとめ買いも多かった。現在も好調です」

自粛中は同社商品の中でも「北海道クリーミーソフト」(バニラ、チョコ)が好調だったという。「北海道牛乳ソフト」(バニラ、チョコ)もあるが、よりクリーミー度が高い。

この夏、政府が主導する「Go Toトラベルキャンペーン」も、コロナの感染拡大で雲行きが怪しくなった。北海道に憧れていた人が、観光旅行の代わりに、少しリッチなメロンソフトで「いながら北海道」を楽しむことができる。

今も健在「浪速の町アイス」

大阪・ミナミ。難波の戎橋(えびすばし)商店街に店を構えるのが、「アイスキャンデー北極」だ。

創業は1945年。以来、75年にわたり現在の場所に店舗を構える。今回登場している各社が大手なのに対して、いわば「町アイス」。いつの時代も浪速っ子の暮らしを彩ってきた。当時と製法は変わらない。この夏も、棒が斜めに刺さったアイスキャンデーで勝負する。

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アークティック 代表取締役 久保田光恵氏

「初代が、敗戦で焦土と化したこの地で『せめて子どもたちや女性には冷たくておいしいアイスキャンデーを』とつくりはじめ、当時は貴重な砂糖を使って1本20円で販売し始めました。現在も当時と同じ手づくりで人気味は変わらず、ミルク、あずき、パインの順です」

創業者の長女で、運営会社アークティック代表で3代目社長を務める久保田光恵さんはこう話す。

店名は「北極」なのに、トレードマークは南半球にしかいないペンギンだ。「なぜペンギンなのか」は、創業者が亡くなった現在ではわからない。詮索するのも野暮なのか。

往時に比べて本店の店舗面積は縮小したが、お土産として人気だ。筆者も小学生時代、亡父が大阪出張土産で買ってきてくれた。古くからお土産需要にも対応していたという。今回のコロナで20年4月から営業自粛を強いられたが、副産物があった。

「休業中にネット販売が驚くほど伸びたのです。19年、出演した『がっちりマンデー!!』(TBS系列)が再放送されたこともあり、北海道から沖縄県まで各地から注文が殺到。20年4月は前年同月比で100倍は売れたと思います。『昔、淀屋橋の会社に勤めていた。その後、東京に引っ越してしまったのですが』など、大阪時代を懐かしむお客様も目立ちました」(久保田さん)

20年6月には「父の日」のプレゼント需要も目立ったという。その中には、コロナで老親に会いに行けない子ども世代からのギフト注文もあった。

「昔ながらの味」だけでなく、新商品開発にも力を入れる。現在は十数種類を展開し、ピーチや梅の味も試作した。「手づくりゆえ、釜での製作がむずかしく断念したが、今後も企画開発していきたい」と3代目社長は明るく話す。

アイスと“ノスタルジー消費”

「アイスキャンデー北極」のような、昔ながらの味を楽しむ消費者は一定層いる。いわば“ノスタルジー消費”だ。

そもそも、家庭用アイスの上位ブランドはロングセラーがほとんどで、人間でいえばアラフォー(40歳前後)やアラフィフ(50歳前後)も目立つ。各人気ブランドを、子ども時代から親しんできた中高年や若手世代がそれぞれ楽しむ──という構図だ。

またフレーバーでは、昔も今もバニラが強い。「エッセルスーパーカップ超バニラ」は、同ブランドの2位フレーバー「チョコクッキー」の約4倍売れると聞く。

これだけ食の多様化が進み、世界各国の味も楽しめる現代ニッポンで、「アイスの味は定番が好き」というのも興味深い。

ただし、さまざまな消費者の声を聞いてみると、商品によってさっぱり感や濃厚さなどで、アイスや氷菓を使い分けているのも感じられる。違う味を楽しみながら、定番を押さえているようだ。

アイスクリームで「失敗したくないので」

近年のアイス喫食で目立つのが「ながら食べ」。特に「スマホをいじりながら」が多い。そうなると、片手で食べられ、手が汚れないバータイプ、はさんだタイプ、チューブタイプなどが好まれる。

実は今回の企画段階では、さまざまなフレーバーでの競争もイメージしていた。

だが取材をしてみると、思ったほど奇をてらった新商品はなかった。19年、各メーカーを取材した際も「消費者が保守的になり、失敗したくない気持ちが強い」という話も聞いた。

コロナ禍の中、ずっと考えていた言葉がある。「昔の日本に戻った」という言葉だ。

例えば「都市部の路上で、親子でキャッチボールをする」光景は、コロナ自粛中、本当に久しぶりに目にした。震災や新型コロナウイルスのような、自分ではどうしようもない困難に直面すると、さらに保守的になり、身近な遊びや楽しみに手を伸ばすのではないか。

コロナの影響で、収入が減少した人もいるだろう。その意味ではアイスクリームは財布にやさしく、生ケーキと比べても安い。

先が見えない閉塞感を「手軽な気分転換」で晴らす時代性──。消費者は「今の自分にピンとくるアイス」を手に取るはずだ。

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百花繚乱!?  一番人気はどのアイス?
単品のランキングで首位の座を不動のものとしているのが「チョコモナカジャンボ」だ。商品シリーズ別(フレーバーを分けない)で首位に輝くのが「明治 エッセルスーパーカップ」だ。発売以来、軸足をブラさずに「安い・デカイ・ウマイ」を訴求し続けているのが人気の秘訣。トップシリーズの地位は盤石だ。もう1つ、“別枠1位”がある。それが「ハーゲンダッツ」だ。高級アイスの代名詞として知られ、ブランド全体の売上高は500億円を超える。群雄割拠のアイスクリーム業界では、これら“3つの王座”をめぐって、各社がしのぎを削っている。

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高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト/経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。
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高井 尚之

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