
鴻上尚史さん(撮影/写真部・小山幸佑)
「私はウルトラぼっち」で、恋愛経験がなく友達もほぼいないと吐露する25歳女性。歳を重ねてもこの先大丈夫かと未来の自分を不安に思う相談者に、鴻上尚史が伝えた、相談者の「友達になれる可能性のある人」とは?
【相談203】人と「話す」のは苦手じゃありませんが、人と「仲良くなる」のは、とても苦手です(24歳 女性 ひねくれすぎ代ちゃん)
次の誕生日で25歳になろうとしている会社員女性です。
恥ずいけど、単刀直入に言います。
この歳にして、私は、ウルトラぼっちです。
恋愛経験は一切なく、友人もほぼいません。
恋愛については、単純に、異性から見ると、あんまり見た目が良くないから、モテなかったというのと、めちゃくちゃ捻くれててアレなんですが……恋愛って結局は、自分自身が商品になって、相手に値段をつけてもらう行為だなって思ってて、その……自分の価値を他人に決めさせることに抵抗があり、恋愛市場に並びたくなく、男性に選ばれるための努力を一切してこなかった結果です。
もちろん、人は無意識も含め、なんらかの物差しで他者の価値を決めているものなので、他人が私の価値を決めること自体は否定しようのないことですが、自分自身が、他人が勝手に決めた価値基準に踊らされるのは、あまりにも人生の無駄遣いだなっていう考えです。
一番自分と一緒にいるのは自分だから、自分の価値は自分で決めたいんです。
友達については……こんなにも捻くれてるんだから、できるわけないよね、できても続かないよねってことです(笑)。
そもそも私は、人と「話す」のは苦手じゃありませんが、人と「仲良くなる」のは、とても苦手です。
話す必要があることは話せるし、やたらと人見知りってわけでもないんですけど、一歩踏み込んだ関係性を作れないんです。
また、今のところ、作りたいともあまり思わないんです。
高校時代は少なからず友達はいましたが、友達同士にも力関係があったり、楽しくないのに楽しいふりをしなければならなかったりと苦痛が多く、友達なんかいらないって思ってしまったまま、今に至ります。

本連載の書籍化第5弾!『鴻上尚史のおっとどっこいほがらか人生相談』(朝日新聞出版)
25歳になろうとしている、現在の私は、こんなんでも楽しくやっています。ひとり暮らしですが、両親とはしょっちゅう会い、外食したりしますし、大好きな推しもいて、自分で稼いだお金と貴重な休みを推しに注ぎ込めてることに喜びを感じています。それ以外にも、料理や読書、映画鑑賞など趣味もたくさんあります。
恋人や友人がいないことに負い目を感じることも、昔はありましたが、今はありません。
だから、会社の上司とかにも、聞かれたら平気で「友達はいません」って答えます(ご時世もあり、恋人の有無は聞かれたことはありません)。
……ドン引きされました(笑)。
誰がどう言おうが、皆がなかなか仲良くなれなくて困っている、「自分」とは仲良くなれたから、別に良いって本気で思ってます。
問題は……この先です。
25歳の私は平気でも、35歳、45歳、55歳…と歳を重ねた私は大丈夫かな?ってことです。
両親はいつか必ずいなくなりますし、推しだって、終わりはあるはずです。
両親も、推しも、いなくなったあと、ひとりぼっちの私は、ちゃんと生きていけるのか不安があります。
今の私は、人間関係のしがらみがなく、自由に暮らせていることに、ただならぬ幸せを感じています。
それでも、未来の自分のために、今の自分を犠牲にしてでも、結婚に向け頑張るなり、友達増やすなりをした方が良いのでしょうか。
人生の先輩であることに加え、非常に尊敬している鴻上さんのご意見を伺いたく存じます。
【鴻上さんの答え】
ひねくれすぎ代ちゃんさん。もう、なんというペンネームですか。すぎちゃんにしておきますね。すぎちゃんの前半の自己紹介、「ドン引きされました(笑)」と書かれてますが、ぼくは全然、引きませんでしたよ。
「他人が勝手に決めた価値基準に踊らされるのは、あまりにも人生の無駄遣い」という考えはもっともだと思うし、「自分の価値を他人に決めさせることに抵抗があり、恋愛市場に並びたくなく」という思いをしている人は、一定数、いると思います。自分がモヤモヤと感じていたことを「そう、そういうことなの!」と激しくうなづいている女性も間違いなくいるでしょう。

※写真はイメージです。本文とは関係ありません(iStock / Getty Images Plus) 作家・演出家の鴻上尚史氏が、あなたのお悩みにおこたえします! 夫婦、家族、職場、学校、恋愛、友人、親戚、社会人サークル、孤独……。皆さまのお悩みをぜひ、ご投稿ください(https://publications.asahi.com/kokami/)。採用された方には、本連載にて鴻上尚史氏が心底真剣に、そしてポジティブにおこたえします
「力関係があったり、楽しくないのに楽しいふり」する関係なら、友達なんかいらないと思うのはじつにまっとうな感覚だと思います。
僕には、ぜんぜん、ひねくれてるとは感じません。強いて言うなら、「笑」の文字を使うことがもったいないぐらいです。すぎちゃんの現状は、「笑」ではなく、じつに自然なことだと思います。
さて、とても聡明なすぎちゃんなのですから、25歳の時点で35歳とか45歳のことを心配してもしょうがない、というのは簡単に想像できると思います。
「未来の自分のために、今の自分を犠牲にしてでも、結婚に向け頑張るなり、友達増やすなりをした方が良いのでしょうか」と書かれていますが、自分というものをしっかりと持っているすぎちゃんが、「今の自分を犠牲」にできますか? きっと「なんでそんなことをしないといけないんだ!」と耐えきれなくなると思います。
やがて、一人に飽きたら、ゆっくりと他人に向かって手を伸ばしていけばいいのです。好きな人ができて、その人に向かって、自分を売り込みたいと思えば、そうすればいいのです。好きな人が現れなければ、不特定多数に向かって、自分を商品にすることはない。興味のない人と無理に友達になる必要もない。それだけのことだと僕は思いますよ。
ひとつアドバイスをするとすれば――すぎちゃんの考えを、うまく表現する方法があるといいと思います。「恋愛市場に並ぶ商品になりたくない」とか「楽しくないのに楽しいふりをする友人関係は嫌だ」という言葉に激しく納得する人は間違いなくいます。そういう人が、やがて、友達になれる可能性のある人です。すぎちゃんが、自然に、自分の思いを語れて、相手も自然に受け止めた時に、「ああ、友達かもしんない」と思えるのです。
そのためには、「ひねくれてる」とは思わず、これが「自分の哲学」だと思うことです。すぎちゃんの生き方ですからね。SNSで小さくつぶやくとか、人に聞かれたら、「笑」なしで自然に答える、なんてのがいいと思います。
すぎちゃんは、ひねくれているんじゃなくて、自分にとても正直なのです。それはとても大切なことです。
「人間関係のしがらみがなく、自由に暮らせていることに、ただならぬ幸せを感じて」いる今を、うんと充実させることをお勧めします。はい。
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