ミッツ・マングローブ「滲み出まくるヒップホップのいじらしさ」

ミッツ・マングローブ「滲み出まくるヒップホップのいじらしさ」

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  • 更新日:2021/09/15
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ミッツ・マングローブ

ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、ヒップホップ界について。

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愛知県で開催されたヒップホップの野外フェス「NAMIMONOGATARI」。サウンドが「いきものがかり」に似ていますが、かつてのNHK御用達バンドのように「品行方正に」とはいかなかったようです。いずれにしても、いつか起きると思っていた事がついに起きたといった感じですが、まさかヒップホップ方面でそれが起きるとは意外でした。

とかく「不良」「暴力」「タトゥー」といったイメージが付きまとうヒップホップ。「悪」のレッテルを貼れる対象物を見つけては責め立て、「自分は常識人である」ことを確認し安心したがる傾向は、いつの時代にも蔓延る世間の性(さが)です。いつまで経ってもユッキーナを放っておけないように、ヒップホップもまた彼らにとって恰好のターゲットになりながら、今日まで発展を遂げてきました。

だからこそヒップホップ界の当事者たちは、自分たちの世界を「世間」と上手く共存させるべく刻苦精励し、今回のような暴発の先陣を切るようなことだけはないよう神経を尖らせ、相当な我慢をしてきたはず。なのに何故? 世間から聞こえてくる「やっぱりね」の声が無性に悔しい。エイズの話題が出ると「どうせゲイの病気でしょ?」と言われる感覚とどこか似ています。

そんな中、イベントにも出演した日本ヒップホップ界の重鎮やスターたちが、すぐさまSNSを通じて声明を出しました。その対応たるや、どの不倫芸能人よりも迅速かつ誠実。礼儀と仁義を重んじる彼らのスピリットを垣間見た気がします。

特にZeebraさんとAK‐69さんの声明には、どちらも『ヒップホップシーンを牽引していく立場として』という文言が含まれていて非常に興味深い。「シーン」というのは、単なる「業界」だけでなく、客(ユーザー)も含めた仲間意識、共通のマインドやバイブスなどを表す言葉であり、そこには「みんなで盛り上げて、さらなる高みを目指そうぜ!」的な志(こころざし)も多分に含まれています。そしてそれを「牽引する」という表現。シーンや仲間に対する彼らの強い責任感が込められており、これまたヒップホップならではの「熱さ」を感じさせられます。一方で、ビッグネームふたりがそれぞれ自らを「ヒップホップの牽引者」と謳っているのを見るにつけ、その揺るぎない自尊心の高さに感心するとともに、何か抗争でも始まるのではないかとドキドキするのは私だけでしょうか。これらすべてひっくるめて、「ヒップホップの性(さが)」の真骨頂を見せつけてもらった気がします。

残る課題は「ユーザーを躾ける」こと。今や日本の音楽業界におけるヒップホップは、立派なメジャーシーンです。とは言え、ヒップホップを好む人たちというのは、往々にして「ヒップホップ的な人種」に限られている節があります。どんなジャンルにも「客層」というのは存在しますが、ことヒップホップのユーザーは他と比べてスタンスが画一的である故、今回のように歯止めが利かなくなることも常に予測しておく必要があるでしょう。客の質は、「板(ステージ)」を作る側・立つ側の意識と徳を映す鏡です。

ちなみに今回いちばん面白かったのは、一連の騒動をラップで釈明(アンサー)した般若さんです。

ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

※週刊朝日  2021年9月17日号

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