妹が降格、党大会で見えた金正恩「孤独と権力低下」

妹が降格、党大会で見えた金正恩「孤独と権力低下」

  • JBpress
  • 更新日:2021/01/13
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1月6日、ソウル駅のモニターに映し出された、北朝鮮の朝鮮労働党大会のニュースを眺める人々(写真:AP/アフロ)

1月5日から平壌で行われている第8回朝鮮労働党大会は、厳粛かつ神々しく進行している。だが冷静に分析いくと、実に空疎なイベントだ。

1月9日、朝鮮労働党の党規約が改正され、金正恩(キム・ジョンウン)委員長が金正恩総書記に変わった。5年ぶりに書記局制度を復活させ、父親の故・金正日(キム・ジョンイル)総書記と同じ肩書きにしたのだ。「党を代表し領導する首班として、全会一致で推戴された」と朝鮮労働党中央委員会機関紙『労働新聞』は報じている。

思えば、2011年の年末に父親が急死し、後継者となった金正恩氏は、翌年に朝鮮労働党中央委員会の第一書記になった。その後、2016年には委員長を名乗るようになり、今度は総書記だ。

だが、第一書記が委員長に変わり、委員長が総書記に変わることに、一体何の意味があるというのだろう? これまでの独裁者が、これからも独裁者でいるというだけのことではないか。

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妹・与正氏が降格

実は党大会前に、一つの噂が立っていた。それは、第7回朝鮮労働党大会以降の5年間の成果があまりに乏しいので、現在、金正恩氏の朝鮮人民軍における肩書きである元帥を、大元帥に格上げするのではないかというものだ。「党と軍を代表し領導する首班として、全会一致で推戴された」として、党大会を盛り上げるのではないかというわけだ。

だがこれは、あまりに軍における金正恩氏の実績が乏しいとして、軍幹部たちが難色を示した可能性がある。それでも強引に大元帥になることもできたろうが、ここまで国内経済が悪化した上に、軍幹部たちまで敵に回しては、自らの地位も危うくなるというものだ。それに、この9年あまりの金正恩氏の執政を見ていると、朝鮮人民軍に強い関心があるようには思えない。そこが父親と、決定的に違う点だ。

(参考記事)金正恩、国内疲弊なのに党大会開かざるを得ない事情
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/63341

また同日、注目された妹の金与正(キム・ヨジョン)氏は、党中央政治局員候補から外されてしまった。この人事は、金正恩氏の本意ではなかったはずで、ここにも正恩氏の権力低下が見て取れる。

父親の金正日総書記は、妹の敬姫(ギョンヒ)氏を、党軽工業部長というお飾りのポストに就け、妹婿の張成沢(チャン・ソンテク)党行政部長と二人三脚で、政権を運営してきた。ところが金正恩氏の場合、妹の与正氏に直接、自分を補佐させている。崔竜海(チェ・リョンヘ)最高人民会議常任委員長の次男である妹婿は一切、表舞台に立たせていないのだ。

この世で信じられるのは自分の妹だけとは、何とも哀しき性(さが)である。だがその妹も今回、降格させざるを得なくなった。与正氏の降格は、2019年2月にハノイで開いた第2回米朝首脳会談の決裂の責任を取らされて以来、2度目のことだ。

金正恩の空疎な演説

今回の第8回朝鮮労働党大会の初日、金正恩委員長が9時間にもわたって、党中央委員会活動総括報告(以下、報告)を行った。9時間の演説というのは、尋常でない。スピーカーの金正恩氏も大変だが、聞いている出席者たちも、さぞかし苦役だったに違いない。壇上の正恩氏が一息つくたびに、出席者たちは一糸乱れぬ大仰な拍手を送らねばならないからだ。つい居眠りでもしようものなら、即刻、会場から教化所送りになってしまう。実際、過去にはそのような幹部がいたと聞く。

今回の報告は、第7回朝鮮労働党大会で決議した5カ年計画の総括であると同時に、今後の内政と外交の指針を述べたものだ。1月9日に朝鮮中央通信がその要旨を報じたが、A4用紙で24枚にも上る膨大なものだった。

私はその全文に目を通したが、やはり「空疎」のひと言に尽きた。社会主義国には、「文書屋」とでも呼ぶべき一群の人たちがいて、金正恩氏や朝鮮労働党の偉大性を、修辞法を駆使して書き連ねてくれる。その点、北朝鮮は「金正恩教」に支配された宗教国家と見るべきだろう。だから金正恩氏の肩書きが変遷しても、変わらないのは「3代目教祖様」であることだ。

今回の報告は、4部構成になっていた。①総括期間に成し遂げた成果、➁社会主義建設の画期的な進展を目指して、③祖国の自主統一と対外関係発展を目指して、④党活動の強化発展を目指してである。

まず総論は、こんな調子だ。

「党が第7回大会で決定したことを貫徹するための5年間にわたる闘争で成し遂げた最も輝かしい成果は、わが革命を先導する動力である政治思想的な力が、非常に拡大強化されたことだった。党中央委員会は総括期間、人民大衆第一主義の政治を、党の存亡と社会主義の失敗を左右する根本的な問題、基本的な政治方式として前面に掲げ、強力に一貫して実施してきた。党と人民の一心団結をさらに盤石に固めることにより、社会主義の偉業の主体を強化し、その役割を高める上で明確な成果を収めたのだ」(大拍手)

まったく何が「成果」なのだか、さっぱり分からないが、このような「教義」が延々と続くのである。新型コロナウイルスは北朝鮮に入ってきていないことになっているが、「突発的な非軍事的脅威にもさらされた」とも語った。

核と経済の「並進路線」に回帰

また経済については、こう述べている。

「経済建設分野では、あらかじめ予見した戦略目標には到達できなかったものの、今後自力で経済発展を持続していける貴重な元手を得ることができた。ここでの意義がある成果は、われわれ式の社会主義の存立の物質的基礎であり、生命線である自律的民族経済、社会主義経済の基礎部分を堅持しながら、その命脈を固守したことなのだ」(大拍手)

こちらも意味不明だ。

核開発については、「盟友」のドナルド・トランプ大統領が去るいまやアメリカに遠慮する必要などないとばかりに、こう力説した。

「国家の核戦争抑止力と自衛的国防力の強化のための闘争で、目覚ましい成果を上げた。わが党と人民においては、国家の核武力建設の大業を完成させることは、われわれが理想とする強力な社会主義国家建設の行政において、必ずや真っ先にカバーせねばならない戦略であり、支配的な告知なのだ。

世界最初の核兵器使用国であり、戦犯であるアメリカにおいては、国土と民族が分裂している。この侵略勢力と世紀を越えて長期的に直接対峙する朝鮮革命の特殊性と、わが国家の地政学的特性は、人民の安寧と革命の運命、国家の存立と自主的発展のために始めた核武力建設を、中断なく強行推進していく。

党中央は核武力建設の大業の完成のため、強行突破戦を作戦とし、全党と全人民を並進路線貫徹に引き込んでいくとともに、国防科学者たちと核科学者たちを、気高い革命者、愛国者、決死隊として準備させるための一大思想戦を組織し、展開したのだ」(大拍手)

この中にある「並進路線」とは、核建設と経済建設を並行して進めていくという意味だ。トランプ大統領と初めての米朝首脳会談に臨む直前の2018年4月、「核建設はもう完成した」として、「これからは経済建設に専念する」とした。それが再び、並進路線に逆戻りしたのである。そして、そのための5カ年計画を再度作り、実行していくという。

米朝首脳会談を自画自賛

ところで、アメリカの悪口を散々言っておきながら、トランプ大統領との米朝首脳会談については、自慢している。

「敵対的な朝米関係史上、最初に開いた両国最高首脳の直接会談において、党中央は強い自主的立場に立ち、新たな朝米関係を樹立する画期的な共同宣言を作り出した。超大国を相手にして、自身の自主的利益と平和と正義を修好するわが共和国の戦略的地位を、満天のもとにアピールした複数回の朝米首脳会談は、世界の政治史において、特筆すべきこととなった」(大拍手)

おしまいに、来たるジョー・バイデン政権との関係についても言及している。

「アメリカで誰が執権しようと、アメリカという実体と、対朝鮮政策の本質は敵対で変わらない。対外部門で対米戦略を策略的に樹立し、反帝国の自主国家との連帯を引き続き、拡大させていくのだ。(中略)

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『ファクトで読む米中新冷戦とアフター・コロナ』(近藤大介著、講談社現代新書)

新たな朝米関係樹立のカギは、アメリカが対朝鮮敵対視政策を撤回することにある。今後も、強硬策には強硬策で、善意には善意でという原則で、アメリカを相手にしていくのが、わが党の立場であることを、厳粛に表明しておく。

また、わが共和国は責任ある核保有国として、侵略的な敵対勢力がわれわれを狙って核を使用しようとしない限り、こちらが核兵器を乱用しないことを、改めて言明しておく」(大拍手)

こうして金正恩氏の報告を精査すると、バイデン新時代の米朝関係とかいう前に、金正恩体制が相当、ひび割れてきていることが見て取れる。今後は5年ごとに朝鮮労働党大会を開くと言うが、5年後まで果たして、金正恩政権は続くのだろうか?

近藤 大介

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