出産の時期、選択肢を広げる「卵子凍結」。妊娠率は?仕組みは?費用は?産婦人科医に聞く

出産の時期、選択肢を広げる「卵子凍結」。妊娠率は?仕組みは?費用は?産婦人科医に聞く

  • 朝日新聞telling,
  • 更新日:2022/08/06
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いますぐには妊娠できないけれど、いつかは子どもがほしい。もちろんパートナーが必要だし、妊娠のタイミングをコントロールするのは難しく、いざ「ほしい」と思ってすぐに妊娠できるとは限りません。そうした出産の選択肢の1つとなるのが、卵子凍結。その仕組みや妊娠率、費用などはどうなっているのでしょうか? 近年、急速に技術が進歩している生殖医療の現場。自身も不妊治療の経験者として患者目線での診療を心がける産婦人科医の船曳美也子医師(医療法人オーク会)に話を聞きました。

卵子は生まれる前から減り続けている

「卵子の老化」――そんな言葉を聞いたことはありますか。私は長く生殖医療の現場で医師として働いていますが、卵子の性質をしっかり理解している女性はまだまだ少ないと感じています。

卵子の数は母親の胎内にいるときが最も多く、年を経るごとに減っていきます。排卵とともに毎月卵子が排出され徐々に数が減少し、やがて閉経を迎えます。毎日作られる精子と違って、卵子が増えることはありません。

日本生殖医学会によると、妊娠5カ月まで700万個ほどあった卵子はその後減少し、出生時には約200万個になります。さらに、初潮の時期には30万個まで減少すると言われています。卵子の減少と質の低下に伴い、妊娠率も下がっていきます。もちろん、40歳を過ぎても問題なく妊娠できる人もいます。大きく個人差があるため、時々ニュースなどで高齢で出産する芸能人らが紹介されていますが、必ずしも自分も同じ年齢で出産できるとは限らないということです。

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GettyImages(トップ画像も)

卵子凍結希望者、パートナーありが7割

将来の妊娠に備えて、少しでも若い状態の卵子を凍結しておくのが「卵子凍結」です。以前から、既婚カップルが病気などの事情でいますぐ出産ができない場合に、精子と掛け合わせた「受精卵」の状態で凍結する技術はありました。

一方で、「未受精」の状態の卵子は不安定で、凍結には高い技術を要します。日本生殖医学会がガイドラインを制定し、日本で本格的に始まったのは2013年から。そして、社会的理由の未受精卵子による日本初の40代での妊娠は、当院での凍結治療によるもので2016年でした。

未受精卵子の凍結には2種類あり、1つはがんなどの病気で、治療により卵巣機能が低下したり出産が難しかったりする状態になる人が卵子を凍結する「医学的適応」と呼ばれるもの。こちらは医療機関によっては助成金を申請できる場合もあります。これとは別に、健康な女性が将来の出産に備えて凍結する場合を「社会的適応」と呼びます。こちらは自費診療になります。どちらも、技術としては同じものです。

当院では2014年から社会的適応の卵子凍結を始め、希望者は年々増えています。多いのは30代後半で、結婚はしていないけれど、パートナーがいる方が7割程度。中には、卵子残存数の目安であるAMH(アンチミューラリアンホルモン)値が低いことが分かり、卵子凍結に踏み切った方もいます。

卵子は普段眠っており、起きてから6カ月後に排卵します。起きて数カ月経った卵子の周りの細胞から出るホルモンがAMHです。この値が高ければ、たくさん起き出している、つまりたくさん卵子が残っていると考えられます。卵子の数と質に相関関係はありません。1つでも卵子があれば妊娠は可能です。ただし、AMHの値が低い人は早期閉経の可能性があります。閉経すると妊娠はできませんから、妊娠を望むならこの時点で卵子凍結を考えてみてもいいかもしれません。

1回の採卵で40~50万円が平均

卵子凍結にかかる費用や注意点など、よく質問を受ける内容をピックアップしてお伝えしていきましょう。

Q 卵子凍結ができる年齢に制限はありますか?

日本生殖医学会のガイドラインでは「採取時の年齢は、40歳以上は推奨できない」とされています。当院では特に制限は設けていません。ご説明した通り、妊娠率は年々下がっていきますので、費用対効果を考えると、できれば30代半ばまでに凍結するのが効果的だと言えます。

Q 凍結卵子を使用して妊娠する際の年齢制限はありますか?

日本生殖医学会のガイドラインでは「凍結保存した未受精卵子等の使用時の年齢は、45歳以上は推奨できない」と書かれています。当院では厳しい年齢制限を設けていませんが、通常の出産と同じように、高齢での出産は流産や早産、合併症のリスクが高まりますので、できるだけ早めに、体調や諸状況を整えた上でと伝えています。

Q 凍結卵子による妊娠率はどのくらいでしょうか?

受精卵と違って、未受精卵から妊娠するには、数が必要です。1回の採卵で採れる卵子の数は、人によって大きく異なります。多い人は15個くらい採れますが、中には1個、2個しか採れない人もいます。10個採卵できても、1個も妊娠につながらない可能性もあります。10個卵子がとれた場合、20代の妊娠率が8割、30代で6~7割、30代後半で5割、40代では4割になります。

卵子1個あたりの妊娠率は、20代で15%、30代前半で10%、後半で7%、40代で5%程度です。「いくつ採れたら100%になりますか?」と聞かれることがありますが、精子の質にも左右されるので、最終的に妊娠率が100%になることはありません。

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オーク会提供

Q 卵子凍結にかかる金額はどのくらいですか?

医療機関によって異なりますが、だいたい1回の採卵と1年間の保管代で40~50万円程度が相場になります。当院では保管は最大2年更新で、更新ごとに追加の保管料がかかります。未受精卵子を保管するには、液体窒素を入れ続ける必要があります。その費用と場所代という考え方になります。保管は45歳までと年齢の制約のある医療機関もあるようですが、当院ではそういった制約は設けていません。

Q 医療機関を選ぶ際に気を付けることはありますか?

「凍結した卵子で妊娠を望む場合、「顕微授精」(顕微鏡で拡大視しながら、精子を注入し授精させる方法)が必要です。そのため、不妊治療をメインで実施している医療機関を選んだほうがいいでしょう。そのほか、数年間卵子を預けるので、保管場所の耐震や経営状況などは確認しておくと安心です。これらは治療前にきちんと説明があると思います」

若いうちに、自分は本当に出産を望むのかを考えてほしい

卵子凍結の技術は急速に進歩して現実的なものになっているので、まずはこういう技術が使えることを知っておいていただきたいと思います。

私自身、不妊治療の経験者です。37歳で結婚し、夫からはすぐに体外受精をしようか?と言われたんです。でも、私自身、産婦人科医として多くの患者を妊娠に導いてきた経験もあったので、まだ大丈夫だろうと思っていました。

忙しく働いているうちに40歳になり、自然妊娠したものの、その時は流産してしまいます。そこから本格的に不妊治療を始めました。2年ほど体外受精を続け、43歳で妊娠、出産しました。

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船曳美也子医師(本人提供)

不妊治療は、うまくいかないことの連続でした。最終的に子どもができなければ、養子も選択肢に入れたいと思っていましたが、どんな形でも絶対に子どもを持つということは決めていました。

治療は月に1回しかチャンスがなく、しかも自分の努力で何とかなるものではありません。1回試したら、結果を待つしかない。だから、1回1回の結果に落ち込まず、これがダメだったら次はこれを試してみよう、と淡々と進めていきました。それは私が産婦人科医で知識があったからできたことだと思いますが、患者さんにもできるだけ、治療法の選択肢をしっかり説明するようにしています。

今振り返ると、「もっと早く動いておけば良かった」と大反省しています。20代、30代の皆さんはお忙しいと思いますが、若いうちに、まずは自分は本当に子どもが欲しいのかを決めることが大切です。欲しいと思うのであれば、今回ご説明した卵子凍結も、出産の選択肢として考えてみるといいのではないかと思います。

文:尾越まり恵

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