
英語版ウィキペディア(Wikipedia)の記事「VTuber」のトップ画像は、バーチャルライバーグループ・にじさんじの伏見ガクさんになっています。
(より正しくいえば、伏見ガクさんとは似て非なる存在なのですが、ここでは置いておきます)
なぜ彼の画像が使われているのでしょうか。

英語版ウィキペディア(Wikipedia)の記事「VTuber」/画像はスクリーンショット
その理由は、スクリーンショットの元となった配信のアーカイブに、クリエイティブ・コモンズ著作権表示必須ライセンスが適用されているためです。
よりかみ砕いていうと、出典元であるこの配信のURLさえ示せば、この配信アーカイブ全体が、伏見ガクさん本人および、にじさんじ運営のANYCOLOR株式会社の許可を取ることなく、利用できる状態なのです。
2つあるYouTubeのライセンス
上の配信アーカイブの概要欄の下部をご覧ください。「ライセンス クリエイティブ・コモンズ著作権表示必須ライセンス(再利用を許可する)」とあります(記事公開時)。
YouTubeでは、標準のライセンスと、この「クリエイティブ・コモンズ著作権表示必須ライセンス(以下CC BY)」の2つが選べます。後者を選ぶと、無許可で作品の改変や商用利用が可能です。
だからこそ、英語版ウィキペディアのVTuberの記事のトップ画像が伏見ガクさんなのです。ウィキペディアに限らず、どこでも使えるライセンスでアーカイブが公開されているからなのです。
また、おそらく、コメントの流れる様子や時間表示、そして中央に本人がバストアップで表示されており、配信画面としてよくある見え方なのも、理由として考えられます。
にじさんじ、ホロライブのVTuberのスクショが使用可能
他にも、「Category:Screenshots of Virtual YouTubers」というページ(外部リンク)には、同様にCC BYで公開されたYouTube動画のスクリーンショットが集まっています。
明らかにANYCOLOR社やカバー社(ホロライブ運営)が権利を持っているVTuberたちのスクリーンショットもありますが、出典元を明記すれば許可なく使えます。
また、このライセンスは取り消すことができません。クリエイティブ・コモンズのよくある質問のページ(外部リンク)には、以下のようにあります。
CCライセンスは、取り消せません。(中略)許諾者としてあなたはCCライセンスに基づく配布を、いつでも停止することができます。しかし、コピーした作品を利用できる人は、CCライセンスに基づいて作品を再配布し続けることができます。(筆者訳) CC licenses are not revocable.(中略)As a licensor, you may stop distributing under the CC license at any time, but anyone who has access to a copy of the material may continue to redistribute it under the CC license terms. (from What if I change my mind about using a CC license?クリエイティブ・コモンズのよくある質問のページから
配信アーカイブを削除したとしても、すでにスクリーンショットはウィキメディア・コモンズにあります。CCライセンスに基づく限り、その配布・利用を止めることはできません。
クリエイティブ・コモンズを活用するVTuberたち
このクリエイティブ・コモンズを活用する企業勢VTuberもいます。例えば、ロート製薬の公式VTuber・根羽清ココロさんです。
彼女のチャンネルではライセンスが使い分けられており、ロート製薬および同社の製品を紹介する動画にはクリエイティブ・コモンズを適用し、ゲーム実況や雑談動画には通常のYouTubeライセンスを適用しています。
もう一人、株式会社ゆにクリエイトが運営する事務所「ライヴラリ」所属するVTuber・餅月ひまりさんも挙げられます。

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Himari_Mochizuki_2020.jpg via wikimediacommons(CC BY 3.0)
とあるウィキペディアンが株式会社ゆにクリエイトと交渉し、彼女の画像を1枚、クリエイティブ・コモンズのライセンスの下、提供することとなったのです。
日本語版ウィキペディアの本人の記事(外部リンク)にもその画像が使われています。
もとより彼女はウィキペディアに載ることを希望していました。一度は記事ができたものの、削除され、その悔しさを動画にまとめました。
その動画にCC BYを適用することで、自らの肖像をウィキメディア・コモンズに提供することが可能になり、再び記事が作成されたのです。
もちろんこれは企業側の協力や同意があってこそです。そしてこの例のように、クリエイティブ・コモンズは、仕組みを把握して活用すれば、とても使い勝手のいいライセンスです。
もしあなたがYouTubeに動画をアップする時は、先の展開までよく考えてライセンスを選ぶことをお勧めします。
(※編集部)記事初出時、一部記述に誤りがございました。お詫びして訂正いたします。