パリ市奨励。血の繋がりのない高齢者と若者が共に暮らす「異世代ホームシェア」とは?ロックダウン以降、利用者が増加中

パリ市奨励。血の繋がりのない高齢者と若者が共に暮らす「異世代ホームシェア」とは?ロックダウン以降、利用者が増加中

  • 婦人公論.jp
  • 更新日:2023/05/26
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若々しいマダムと落ち着いた若者の同居(写真:『70代からのパリジェンヌ・スタイル フランス女性に学ぶ、幸せなシニア暮らし』より)

少子高齢化が社会問題となっているのは、もちろん日本だけではありません。フランスのパリで一人暮らしをしている75歳以上の高齢者は、約8万4000人いるといわれています。そんななか、高齢者や生活困難者に美を提供するソシオ・エステティシャンとしてパリで活躍しているのは、ゴダール敏恵さん。そのゴダールさん「家族の形は変化してきている」と言いますが――。

【写真】同居中のジュリエット・ラフォレさん(88歳)とアントワーヌ・ベイヤさん(22歳)

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血のつながりだけではない、新しい家族の形

家族の形は変化してきている。血のつながりだけでなく、文化、感性の共有や心のつながりによって、幸せの形をつくり上げることができる。

これまで取材した5人の方たちから教えられたことだ。

そしてそれは、フランス全体にも広がっている考え方かもしれない。

そう確信したのは、最近フランス社会で話題になっている、高齢者と若者が共に暮らす「異世代ホームシェア」を知ったからだ。

フランスでも高齢化は深刻な問題だ。特にパリでは一人暮らしの高齢者が増えていて、75歳以上の一人暮らしは約8万4000人。

彼らが自宅で安心して暮らし続けられるためのひとつの手段として、パリ市は異世代ホームシェアを奨励している。

きっかけは2003年の猛暑。例年になく厳しい暑さが続き、およそ1万5000人の方が熱中症で亡くなった。

そしてその大半は、一人暮らしの高齢者だった。

この悲劇を引き起こしたのは厳しい暑さだけでなく、高齢者が社会から置き去りにされていることも一因であるとの反省から、高齢者の孤立を防ぐ対策として、すでに1997年よりバルセロナで開始されていた異世代ホームシェアが、2004年にパリにも導入されたのだ。

若者、高齢者、その家族、それぞれの困りごとを解決

高齢者と同居するのは、主に大学生を中心とする若者だ。

パリの家賃は高額で、就学や就職のために上京してくる若者が手頃な住まいを見つけることは難しく、数名の若者同士で1軒のアパルトマンをシェアすることはめずらしくない。

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『70代からのパリジェンヌ・スタイル フランス女性に学ぶ、幸せなシニア暮らし』(著:ゴダール敏恵/主婦と生活社)

一方、一人暮らしのパリの高齢者は、自宅に使っていない部屋を持っている場合がある。

さらに、離れて住む家族にとって一人暮らしの高齢の親は、介護施設に入居するほどではないにしても、一人で大丈夫なのか、淋しい思いをしているのではないかと心配が尽きない。

そのような、三者の望みに応えるために、非営利団体が立ち上がり、若者と高齢者間の社会的連帯によるホームシェアの仲介をしている。

2018年には、異世代ホームシェアに関する法的措置が制定された。

異世代ホームシェアが認められるのは、30歳以下の若者と60歳以上のシニアのみと定められ、パリ市もこの事業に補助金を出している。

高齢者と若者をつなぐ非営利団体の活躍

営利団体のひとつ、Ensemble 2 generations(二世代一緒の意、以下E2G)に聞いたところ、同団体では、若者に次の3種類のホームシェアを提案している。

(1)在宅プラン 月額10ユーロ

夕方から夜間は、在宅義務があり、週1回のみ夜間外出が可能。1か月あたり週末2回は外出自由。9月から翌年6月までの間に4週間の休暇取得が可能。

(2)助け合いプラン 月額120ユーロ

(1)のような在宅義務はないが、買い物や外出の付き添い、パソコン操作の手助け等、高齢者の日常生活の援助をする。

(3)共同生活プラン 月額200ユーロ~住宅賃貸の市場価格より30%割安の設定

特にルールはなく、双方が気分よく楽しく共同生活をできるように配慮する。

(1)(2)の場合、若者は月間の費用のほかに、年間390ユーロ、(3)は年間300ユーロをE2Gに収める。

(1)(2)は利用する高齢者の年齢が高めで85歳から98歳。(3)は、まだ手助けを必要としない元気なシニア世代の利用が多いという。

(1)と(2)は、ご家族の介護に要する時間が増え、自分たちだけでは対応しきれなくなって申し込まれるケースが多いため、最初のうちは、高齢者が若者との同居に気が進まないことも多い。

そのため、E2Gの担当者は必ず高齢者に会って時間をかけて話し合い、信頼を得ることから始める。

ロックダウン以降、高齢者の利用者が増加

若者にも事前に面談し詳細な聞き取りをしたうえで、相性のよさそうな二人を選ぶ。

「活動目的の一つは、世代の異なる二人の間の絆を紡ぐことです。オンラインで両者のプロフィールをマッチングさせることではありません」と担当者はいう。

2020年3月から約2か月間、新型コロナウイルスによる1回目のロックダウンがあったが、この間も30%の若者は高齢者との同居を続けたそうだ。

E2Gも手厚くサポートした。担当者はいう。

「経験のない事態で私たちもとても心配でした。毎日のように電話連絡を取り続けました。あのような緊急事態のなかで、両者は世代を超えた友情や思いやりを深め、これまで以上に良好な関係を築き上げることができました」

ロックダウン以降、高齢者の利用者が増えたともいう。

「ロックダウンの間、外出も禁止され、人気のない静寂の中、一人きりの高齢者はそれまで以上に孤独感を強く認識し、孤立から抜け出す必要性を感じたからだと思います」

※本稿は、『70代からのパリジェンヌ・スタイル フランス女性に学ぶ、幸せなシニア暮らし』(主婦と生活社)の一部を再編集したものです。

ゴダール敏恵

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