「流水型ダム」完成まで10年超 環境保護、住民合意...課題山積

「流水型ダム」完成まで10年超 環境保護、住民合意...課題山積

  • 西日本新聞
  • 更新日:2020/11/20
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流水型ダムと貯留型ダムの仕組み

再び建設に向け前進する熊本県の川辺川へのダム計画。蒲島郁夫知事は国に、洪水時だけ貯水する「流水型ダム」(穴あきダム)への転換を求め、計画見直しなどを含めて完成までには10年以上かかる見通しだ。ダムや遊水地などを組み合わせた流域治水は、住民の合意形成が不可欠。乗り越えるべき課題は少なくない。

川辺川ダムの従来の形態は、平時から水をためる「貯留型」。放流量を調節できるが、上下流を遮断し、生態系などへの影響が指摘されている。これに対し、流水型はダム下部の穴から常に水が流れ、土砂は堆積しにくく、上下流を魚類が移動しやすいという。

治水機能のある全国570ダムのうち、流水型は2006年完成の益田川ダム(島根県)など五つ。立野ダム(熊本県)など9基で事業が進む。

益田川ダムを巡っては、島根県による06年度の環境調査で、構造物がアユの遡上(そじょう)を一部阻害していたことが判明。県は「08年の調査でアユは確認され、大きな影響はない」とするが、その後調査はしていない。「アユが減った」という住民の証言もある。

穴に土砂や流木が詰まらないよう、ダム上流部に捕捉用の構造物を設置するなど対策も施す。「記録的豪雨で山の斜面が崩壊し、大量の土砂や流木が押し寄せれば穴は詰まる。洪水調整機能を失う」「技術的に解消でき問題ない」…。専門家の見解は割れる。

◇   ◇

国土交通省は08年8月、川辺川ダムを貯留型から流水型に変更した場合、洪水調整機能はほぼ同じで、本体着工後の工期を10年から9年に短縮できるとの試算結果を公表した。概算事業費も100億円縮減し3300億円になるとした。09年の計画中止までに道路付け替えなどダム関連工事はほぼ完了。ただ、すぐに本体着工できるわけではない。

川辺川ダムは農業用水と発電にも活用する予定で国は1976年、特定多目的ダム法に基づく基本計画を策定。農林水産省と電源開発は事業から撤退したが、国は基本計画を廃止していない。蒲島氏が求める新たな流水型の治水専用ダムの建設には、この基本計画を廃止し、河川法に基づいた河川整備計画を策定しなければならない。前段となる基本方針も策定し直す見通しで、トータルで整備計画策定までは1年以上かかるとみられる。

76年時点は制度がなかった環境影響評価(アセスメント)の調査対象になる可能性もある。

蒲島氏は19日、国に環境アセスの実施を求める考えを明らかにした。国交省関係者は「環境アセスは一から事業を始める場合を想定していると思う」と明言を避ける。仮に対象となれば手続きに数年かかり、その間は本体着工できない。

◇   ◇

流域治水は、ダムや農地を活用した遊水地、調整池、農業用クリーク(水路)、堤防の強化などのハードと迅速な避難態勢などのソフトを組み合わせ、防災機能を高める。具体案はこれからで、県幹部は「川辺川の筋にはほとんど調整池がない。『自分の田んぼは守るぞ』だけではなく、自分たちも負担しなければ流域の安全安心は守れない」と話す。

漁業権の議論も残る。アユ漁関係者らでつくる「球磨川漁業協同組合」は過去2回、国が示す漁業補償契約案を否決。改めて契約案が示されれば、組合員(約980人)に賛否を問う。受け入れには3分の2の同意が必要で、堀川泰注(やすつぐ)組合長は「さまざまな考えがあり、結論は見えない」と話す。

(大坪拓也)

自民歓迎、立民も理解

蒲島郁夫熊本県知事のダム建設方針への転換について、もともとダム計画を推進してきた自民党は支持を表明。かつて「脱ダム」を掲げた旧民主党の流れをくむ立憲民主党も理解を示した。共産党はダム回帰を批判した。

自民は防災・減災目的の国土強靱(きょうじん)化に5年で15兆円規模を投入するよう政府に求めており、党内には「景気対策は何といっても公共事業。ダムやインフラ整備が全国的に広がる可能性もある」(中堅議員)と期待の声がある。

地元選出の金子恭之衆院議員(熊本4区)は「流域住民の意見をしっかり聞いて下した知事判断を支持する」と歓迎。同じく地元の松村祥史参院議員(熊本選挙区)も「治水論が決まらないと生活再建の道も定まらない。判断を尊重し支援する」と語った。

公明党の北側一雄副代表も19日の記者会見で「豪雨時にダムの持つ意味は大きい。総合的な治水の中でダムを排除するのはどうなのか」と歩調を合わせた。

立民は2009年にダム建設を中止した旧民主党政権の流れをくむ。泉健太政調会長は会見で「災害状況は変化しており、地元が必要と判断するのは一つの方向性ではないか」と理解を示した。もしダムがあれば浸水域が減少したとする国の検証結果を踏まえ、ダム計画を中止した結果責任をどう受け止めるかについては「それはちょっと違うのではないか」と述べた。

共産の志位和夫委員長は同日の会見で「反対だ。ダムによらない治水の方向だったのに全く逆行している」と批判した。

(郷達也、川口安子、森井徹)

政府、知事判断を尊重方針

熊本県の蒲島郁夫知事がダム建設容認を表明したことを受け、加藤勝信官房長官は19日の記者会見で「まずはしっかりと知事から話を伺った上で、国としての対応を県や流域市町村と一体となって検討していく」と述べた。

政府はこの日、表向きには評価を避けたが、蒲島氏の方針転換は「重い判断」(政府関係者)として尊重する構え。赤羽一嘉国土交通相が20日、上京する蒲島氏との会談で意向を確認する予定で、球磨川流域の治水対策はダムを柱に具体化への動きを加速させる考えだ。

利水目的も含んだ貯留型ダムの現行計画を、蒲島氏の要望通りに、治水目的に絞った流水型ダムに変更するかどうかの検証にも今後、着手するとみられる。新たな計画のダムの規模や治水機能が、7月豪雨で被災した橋や鉄道などの復旧方法にも影響を及ぼすことから、国交省職員は「スピード感を持って対応する」と話す。

(鶴加寿子、一ノ宮史成)

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