ゆたぼんが大炎上する世相が映す「関心経済」の罠

ゆたぼんが大炎上する世相が映す「関心経済」の罠

  • 東洋経済オンライン
  • 更新日:2022/11/25
No image

何かとニュースになることが増えた「ゆたぼん」をめぐるネットコンテンツの本質的な問題とは?(画像:少年革命家ゆたぼんチャンネル)

「少年革命家」を自称する13歳の不登校ユーチューバー、ゆたぼんをめぐる炎上騒動が度々ニュースを賑わせている。最近では、クラウドファンディングで集めた数百万円の支援金で、日本一周に挑戦した「ゆたぼんスタディ号」プロジェクトの内容の賛否から火が点いたようだ。

これまでもゆたぼんとその父親である実業家の中村幸也氏に対する批判はソーシャルメディア上を席巻し、ネットメディアもそれに首を突っ込んできた。これらの現象には、いわゆる炎上商法といえる面があるが、どうもそれだけでは済まないネットコンテンツにおける本質的な問題を孕んでいる。

まず先に論点だけを挙げると「関心経済」「感情の消費」「虚像としてのアンチ」の3つがある。

評価を仲介して「カネ」すらも交換

順を追って説明する。まずは「関心経済」だ。

当たり前だが、ユーチューバーという存在は、人々からいかに継続的に注目してもらえるかが重要な商売だ。1997年に社会学者のマイケル・ゴールドハーバーが提唱した「アテンション・エコノミー(関心経済)」という概念は、世界経済といった大舞台から個人レベルに至るまで「どれだけ耳目を集められるか」が最も重大な局面となり、人々の注意を瞬時に方向付けたり、持続させたりする技術にその覇権が移行することを指していた。いわばアテンション=関心の争奪戦である。

日本では、プロデューサーで評論家の岡田斗司夫が『評価経済社会 ぼくらは世界の変わり目に立ち会っている』(ダイヤモンド社)で、ゴールドハーバーと似た考え方を提唱し、それを「評価経済」と名付けた。岡田は、これからの時代は誰もが情報発信者となり、その影響への評価が重視されると考えた。

既存の貨幣経済社会では、貨幣を仲介して「モノ」「サービス」が交換されていたが、「評価経済社会」では、評価を仲介して「モノ」「サービス」、さらには「金」すらも交換されるようになるのがポイントと述べた。

新しい社会の競争、それは「どれだけ有名になれるか」「どれだけ高評価を集められるのか」です。それはかつて、マスコミにしかできない仕事でした。しかし、今やその競争は私たちの手にゆだねられ、自由競争となりました。その「ツール」が電子ネット=デジタル革命なのです。(同上)

そこでは、「耳目を集めることができた者」が勝者として君臨できる。チャンネル登録者数、再生数が命であるユーチューバーは、その象徴ともいえ、常に話題の中心であることが求められる。

ゆたぼんがTwitterで「10月だけで俺に関するニュースが100本ぐらいあったらしいw」と投稿したのはまさにこのことで、Yahoo!ニュースなどでPV数が跳ね上がり、コメントで批判的な書き込みをする人々が相次いだのは、後述するようにどこまで意図されたものかはさておき「関心経済」の成功例といえる。なぜなら、明らかに本人のYouTube動画やTwitterアカウントの拡散力を超えて人々に知られるようになっているからである。

No image

ゆたぼんのTwitterフォロワーは11月25日時点で約7700人、少年革命家ゆたぼんチャンネル(YouTube)の登録者数は同15.3万人とそれぞれ決して大きな数ではない(画像:YouTube)

ここにおいてネットメディアは、皮肉なことに「関心経済」の申し子であるユーチューバーの奉仕者となっている。炎上しそうな発言の一部を切り抜いたコンテンツ(こたつ記事)を量産し、炎上の拡大再生産に一役買っているが、それはネットメディアもアテンション=関心の争奪戦の只中にいるからだ。

不祥事の報道とは質的に異なり、ここには批判的なコメントやシェアの促進へ積極的に加担している面がある。ネットメディアによって増幅され、社会現象へ格上げされるというマッチポンプ的な構造が見て取れるのだ。

当事者の言動と周囲のリアクションが大きな起爆剤に

2つ目の「感情の消費」は、「どれだけ耳目を集められるか」に直接関わることで、ゆたぼんの炎上騒動の場合、ゆたぼんと父親の言動とそれに対する周囲のリアクションが大きな起爆剤となっている。そもそも不登校自体が賛否を呼ぶテーマだが、特に日本では近年、時代の変化や多様性への配慮などの潮流があり、学校教育はどうあるべきかについての議論が沸騰している。

センシティブな問題も多く、極論は馴染まない。とりわけ「学校に通わなくていい」「不登校は良くない」といったアナウンスは、不登校になった理由も事情もさまざまであり、個人の置かれた状況を抜きには語れないからだ。学校教育は誰もが経験しているがゆえに共通前提になりやすく、共感も得やすい半面、それぞれの複雑な思いと特殊性が絡み合う個人史に差し障る事柄でもあるため、もともと強烈な感情が呼び起こされる可能性が高いイシュー(争点)なのである。

ゆたぼんの「学校に行って洗脳されて思考停止ロボットになるな!」といった発言の子どもへの影響を懸念し、批判の声を上げている人々は、多くの場合、それが自己の体験を一般化する暴論にしか聞こえないために憤っている。つまり、真面目に義務教育を受けることをバカにされていると感じられているのだ。

一方、ゆたぼん側は、不登校も選択肢の内という生き方を推奨しているだけなのに(動画における「学校に行きたい子は行って、行きたくない子は行かんでいい」などの発言)、いまだ世間の常識に囚われている人々の猛反発を引き起こし、バッシングに発展していると思わずにはいられない。事実、そういった反応は少なくなく、単なる誹謗中傷も目立つ。そのため、自己の体験そのものが否定され攻撃されているとみなすしかなくなる。父親の「やりたいことをやって生きている人に嫉妬してるだけ」というツイートはそれを裏付けている。

このように両者が平行線を辿った末に、二項対立が先鋭化してしまう。感情の中でも怒りがネット上の拡散に強く影響することが多くの研究で分かっているが(“Anger Is More Influential than Joy: Sentiment Correlation in Weibo”などを参照)、アンチと称される人々が親子を揶揄(やゆ)する書き込みをし、父親がアンチを意識して「洗脳」や「奴隷」という言葉で学校教育を批判する応酬が繰り返され、それをネットメディアが取り上げることで、事態はより悪化していく。

無視されるよりはまし

ニュース記事で引用された発言だけを読み、脊髄反射的なネガティブな感情に支配された人々が続々とコメントをしたり、「いいね」をしたりしてしまう。もはや不愉快なコンテンツに対する意思表明があるばかりである。だが、「関心経済」のロジックから見れば無視されるよりはましとなるだろう。

3つ目の「虚像としてのアンチ」は、ユーチューバーが作られたキャラクターで、コンテンツを供給する側であることと表裏になっている。ユーチューバーは、自身の物語を共有してくれるファンやオーディエンスとの双方向性で成り立つ。友敵図式をもたらすアンチという存在は、むしろ物語を盛り上げる刺激剤になりうる。

テクノロジー・アントレプレナーのオリバー・ラケットとジャーナリストのマイケル・ケーシーが述べているように、「コンテンツ消費者は劇の中で言えば、こちらに共感的な脇役にもなれば、完全な敵対者にもなる。どちらにしても、私たちと彼らとの相互作用が物語に肉づけをし、その印象を完成させる」からだ(『ソーシャルメディアの生態系』森内薫訳、東洋経済新報社)。ファンやオーディエンスにとって、アンチとの闘争は物語上の危機や山場として機能する。

とはいえ、コンテンツを供給する側も消費する側も、最終的にそれらをコントロールすることは不可能で、結果の予想も難しい。1つ言えることは、今後情報量がどれだけ増えたとしても、わたしたちの時間や神経活動には限界があり情報処理能力が進化することはないということだ。

「関心経済」がわたしたちを形作る

そうなると、ますますアテンション=関心の争奪戦は熾烈化し、巨大資本から個人までコンテンツ制作者は躍起になるだろう。「バズる」ことこそが至上の価値を持ちえるからだが、持ち上げるにしろ、叩くにしろ、特定のコンテンツに何がしかの反応を返すことは、ゴールドハーバーのいう「関心」、岡田のいう「評価」に与することである。

すでにわたしたちは、このようなダイナミズムが強力に作用するネットワークの中に生息しており、多かれ少なかれその価値基準が半ば無意識にまで浸透しつつある。

メディア論の泰斗であるマーシャル・マクルーハンは、いみじくも「私たちはツールを形作り、次にツールが私たちを形作る」と主張した。それにならえば、「関心経済」を形作ったのはわたしたちだが、今度は「関心経済」がわたしたちを形作ることになる。ネット上の「虚像」に神経を逆なでされ、自らも「虚像」の敵になるのは、そのごくごく一端の瑣末な現象に過ぎない。

「注目は金なり」が支配的になりつつある世界で、わたしたちは何に本当に関心を持つべきかを見極めねばならない。なぜなら、その浅くて早急な関心によって失われるのはほかならぬ自分自身の思考であるからだ。

No image

(真鍋 厚:評論家、著述家)

真鍋 厚

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

  • このエントリーをはてなブックマークに追加