「ここは人口減の最先端」 かつての“日本一のミニ村”を訪ねた

「ここは人口減の最先端」 かつての“日本一のミニ村”を訪ねた

  • 毎日新聞
  • 更新日:2023/01/31
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「帰省の度に村が寂しくなっている」と語る安井恵里花さん(右)と父敏博さん(中央)、母恵さん=愛知県豊根村富山で2023年1月12日午後0時55分、川瀬慎一朗撮影

大都市・名古屋を抱える人口750万人の愛知県に、かつて「日本一のミニ村」と呼ばれた旧富山村(現・豊根村富山地区)がある。隣接自治体に吸収合併されて約20年。子どもたちの声が消えた地区を訪ねた。

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駅から徒歩45分、住民に会えた

名古屋駅から北東へ在来線を乗り継ぎ約4時間。標高1000メートル級の山々に囲まれた富山地区の玄関口・JR大嵐駅(浜松市天竜区)に着いた。地区唯一の飲食店「栃の木」は、駅からさらに歩いて約45分の場所にあった。ここまで住民とは一人も会わず、野鳥のさえずりだけが耳に届いた。

店を経営する安井敏博さん(50)は「自分の店を持ちたい」と村観光協会の募集に応じて2004年、脱サラして愛知県豊田市から移住した。長女恵里花さん(20)は浜松市中心部に住み、看護専門学校に通う。長男豪さん(17)は電車や徒歩で約1時間かけ静岡県内の高校に越境通学する。

「学校もなく、働く場所もない。ここは人口減少問題の最先端。富山(地区)を見れば過疎地の将来が分かる」。安井さんは言う。

学校から子どもの声が消えた

林業や養蚕が盛んだった富山地区は1955年、愛知と静岡の県境に計画された佐久間ダム建設に伴い中心集落が水没。3割が村を去った。これといった産業は育たず、村は05年、財政危機を回避するため隣接する豊根村に吸収合併される道を選んだ。

合併前は200人台を維持していた人口は合併後、減少に拍車がかかる。地区唯一の富山小中学校は15年3月に閉校。都市部の子どもたちとの交流を目指し村が85年に始めた「山村留学」事業も富山小中の閉校で消滅した。

豊根村によると22年12月現在、富山地区の人口は59人。65歳以上は5割を超え18歳以下は豪さんただ一人だ。安井さんによると、住民票だけ残している人もいるため、実際の人口は40人程度だという。

七つの仕事を掛け持ち

富山地区は合併前まで、東京都青ケ島村と最少人口を競い、離島を除き「日本一のミニ村」として知られた。店で地区の特産品ユズを使った「ゆず味噌(みそ)かつ定食」などを提供する安井さんは「ネーミングのインパクトもあり、合併前は観光客も多く、お店だけで生活できた」と話す。だが、人口や観光客の減少に伴い飲食店だけでは生活が支えきれなくなった。今は新聞配達、村営バスの運転手、温泉施設の管理、水道メーターの検針、宿泊施設への食事の提供、ATM(現金自動受払機)のトラブル対応と七つの仕事を掛け持ちする。

愛知県では22年まで3年連続で人口が減少している。22年は全54市町村のうち43市町村で減少。豊根村の減少率は県内トップの3・97%。同村は22年7月に初めて人口が1000人を切った。村は現在、チョウザメの養殖でまち起こしを目指すが、県東部の東三河地域の自治体が共同作製した「チョウザメが、村の人口を超えましたので、食べに来てください」との自虐的なポスターがSNS(ネット交流サービス)上で話題を呼んでいる。

投票率80%

そんな富山地区で住民挙げて参加するのが選挙だ。昨夏参院選の投票率は県全体で52・18%だったが、富山地区は80・65%。19日に告示された愛知県知事選の前回投票率も県内最高の80・88%(県全体35・51%)と住民の関心は高い。

「近い人同士で呼びかけ合って投票に行っている」と話すのは、結婚を機に24歳で地区に来た女性(75)。安井さんは「投票は当たり前になっている。自分の1票で劇的に何か変わるとは思っていないが少しでも良い方向になればと皆投票に行っているのではないか」と言う。愛知県は過疎化対策として長期的・総合的な山村振興ビジョンを策定し、起業支援や移住定住促進を打ち出す。先の女性は「若い人に富山に来てほしい。学校があった時は子どもの声がうるさいほどだったが元気な声をもう一度聞きたい」と願う。

2045年に455人

富山地区で唯一の商店は15年に閉店。元富山村役場にある豊根村役場富山支所について今、向かい合う郵便局に一部委託する計画が浮上する。「日本創成会議」の分科会は14年、全国896自治体で40年までに20~39歳の女性が50%以上減り、将来消滅する可能性があると指摘。国立社会保障・人口問題研究所は豊根村の人口が45年には今の半数の455人に減ると予測する。

安井さんはそれでもこの地を「水や空気がきれいで、都市部と比べてごみごみしておらずのんびりできる」と愛し、離れることは考えていない。

恵里花さんは来年、看護師として就職予定だが、実家から通えるへき地の医療機関も選択肢の一つとして考えている。「自分の育った場所がこのまま無くなるのはさみしい。国や県には、富山が活気付いて若い人がやってくるような施策を少しでもいいので考えてほしい」【川瀬慎一朗】

毎日新聞

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