土佐市移住者カフェ「ニールマーレ」のSNS炎上に見る“地方町おこし”のリアル

土佐市移住者カフェ「ニールマーレ」のSNS炎上に見る“地方町おこし”のリアル

  • 文春オンライン
  • 更新日:2023/05/26

高知県土佐市でカフェ「ニールマーレ」を運営していた崖っぷちカフェ店長が、施設の利用を巡って現地NPOの理事長と揉めて、SNSに告発をぶちまけ大炎上となった事例がありました。どうしてこうなった。

【画像】SNSが大荒れになっている移住者カフェ「ニールマーレ」

なんじゃこりゃと思っていたら、俺たちのヨッピーさんが現地に飛んでくれて詳細なレポートが上がってくると、読むものが皆涙を流す「町おこしあるある」だったことが判明しました。ありがとうヨッピー。

SNSで大炎上の土佐市移住者カフェ、現地で起こっている事の総括と問題点
https://news.yahoo.co.jp/byline/yoppy/20230524-00350545

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カフェ「ニールマーレ」が入居する土佐市の観光交流施設「南風(まぜ)」(土佐市観光協会サイトより)

綺麗事ではない田園暮らしの実態が続々と

ちょっと前にも、北海道で女性YouTuber「りんの田舎暮らし」、地域おこし協力隊で愛媛県の別子山地区に移住していた柳生明良さんら、ネットで活躍しているクリエイターなどが地方移住に憧れ、行ってみたら住民とのトラブルに見舞われるケースが相次いでいます。どうしてこうなった。地方衰退のリアルそのものであって、そう綺麗事ではない田園の暮らしがどんどん出てきたのは興味深いことなんですよね。

「もう限界」移住失敗した男性の後悔 限界集落で起きた「うわさ話」:朝日新聞デジタル
https://www.asahi.com/articles/ASR1S0DJNR1KDIFI00S.html

10年ほど前、現地に来ていた医師が地域住民とのトラブルで続々と村を離れて無医村になっていた秋田県上小阿仁村では、少しは落ち着いたのかと思ったら今度は村の歯科・口腔衛生を担当していた男性医師が、「村の意向」で辞職届を出させられていたことが秋田魁新報に報じられ、相変わらずの状況のようであります。どうしてこうなった。

可視化されるようになった地方社会の「闇」

実際、これらの「街づくり」や「町おこし」の美名と共に都市生活に疲れた移住者を田舎にマッチングする仕組みは、定番として地元に古くから住む地域の有力者によって排除されるケースが少なくありません。結果として住みづらくなった若者は生まれ故郷を捨て、地方には老人だらけになり、地元の主たる産業がお役所と警察と郵便局ぐらいしかないという状況になるのも致し方のないことです。

地方経済に詳しく『まちづくり幻想 地域再生はなぜこれほど失敗するのか』などの名著を上梓されている木下斉さんら有識者もかねて指摘してきたことで、ネットでこれらの失敗事例が広く出回るようになったのも、SNSが国民社会に深く溶け込む中でこれらの地方社会の「闇」が可視化されるようになったからだとも感じます。いままでは町内で閉じていた人間関係が、トラブルをきっかけにSNSで地名と顔出しで表現されるようになると、一気に隠されていたものが表出しちゃうわけですね。

国はあくまで自治体に使っていただくシステムを構築するだけ

今回の土佐市の事例では、政治の問題も明らかになっています。人口2万5000人ほどを擁する土佐市の市長・板原啓文さんは3期連続で無投票当選。減退する地方政治のテンプレみたいな状況になっています。

民主主義ですから、市長になりたいやつが何人か出てきて政策で争わない限り、一般論としてはなかなか政治は良くならんでしょう。市長は地元有力者のただの利益代表であっては困るわけです。それってゴッサムシティみたいなもんですから。田舎だけど。

人口動態が歪になり、地元経済だけではもはや回らなくなっているので、国家から降りてくる地方交付金やまちづくり事業や地域活性化事業に活用できる助成金をアテにしながら、何も育たない土壌にせっせと水をやるかのような事態になってしまっているのだとしたら残念なことです。ある意味、地方衰退する衰退すると叫んで無駄と分かってて合法的に公金チューチューして、やりたいようにやってるようなものですから、真面目に頑張ってるよそ者を追い出したら上手くいかないのも当然です。

また、最近の新型コロナや子ども関連の補助金事情でも地方の声を聴くことは良くありますが、そこでは「地元にもう助成の対象となるような子どもがほとんどおらず、子育て世帯が全員出て行ってしまった自治体」と、兵庫県明石市や千葉県流山市のように「周辺自治体から大量の人口流入が起こり子育て政策をどんどんやらないと市政が回らない状態となっている自治体」とが峻別されて行きます。

単に市長としてうまくやってるかだけではなく、近くに働き口となる大都市があり、通勤できる交通機関があって、そこに支持される政策が乗ればベッドタウンとして人口は増えるのですが、今度は団地村のように町の老化や財政との戦いが始まります。そう簡単じゃないわけですよ。

日本の地方行政では特にそうですが、我が国の政策上、国家が国民の情報を持っておらず、地方公共団体が住民に対して公共サービスを行うアプローチとなるため、子育て関連の補助金もコロナのワクチン接種も全部自治体がやり、国はあくまで自治体に使っていただくシステムを構築するだけの仕事で終わってしまうのが実情となります。

国も頑張って検討したり予算組んだりしてるけど、実際に住民と向き合って汗をかいているのは都道府県や自治体にお勤めの地方公務員の皆さまなんですよ。マイナンバーでも高齢者福祉でも、主役はあくまで自治体なんですよね。

地域産業のため外国人労働者を受け入れたら

人口が増えて日本全体が若く成長しているうちは国が政策を決め、自治体がその土地柄にあった形で物事を実行するという流れで良かったのでしょう。

しかし、人口が減り、高齢化が進み、地方経済が衰退して地域社会の流動性がなくなることで意思決定者が昔から住んでいた爺さん婆さんばかりになると、これは仕方がないこととはいえ、地域の閉塞感はどんどん強まっていきます。そこへ、地域産業を守るために低賃金で働く外国人労働者を1000人、1万人単位で受け入れるようになっていくと、今度はそういう高齢者のコミュニティと、移住してきた外国人のコロニーとで軋轢が強まっていきます。

これはもう、少子高齢化が進む我が国日本が進むべき道という意味では宿命と言えるものであって、政府が意味のない金を使うのをやめろという(ある種の維新の会が進める新自由主義的な)文脈で言えば、自力では立ち上がることのできない地方に対して無駄なカネを出さないようにしましょうという話になります。

しかし、地方自治体はやはり国の政策を受けて実行する存在ですから、地域経済をどうにかするために「街づくり」でも「町おこし」でも何でも、建前をつけて国からカネを持ってこないと干上がってしまいます。本当に仕事がなくなった地方をどうするのかは、今後の日本の真の課題と言えます。

「広く人権が守られる仕組みを構築すべき」という議員の話

他方で、先日の千葉5区補選で自民党から立候補して当選したえりアルフィヤ議員さんが、米TIME誌での取材に答え、割と広く人権が守られる仕組みを制度的に日本は構築するべきだ的な話をされています。

Meet the Multi-Ethnic Millennial Who Just Might Represent the Future of Japanese Politics
https://time.com/6280816/arfiya-eri-uyghur-japan-parliament-ldp/

地元は年寄りが増えてどうにもならない、移民はどんどんやってくるとなると、住民に対するサービスを回していけるだけの余力のない自治体が出てくるのもまた当然です。北海道夕張市は一足先に破綻しましたが、土佐市も含め、地方自治体の財政力がパッとせず、また高齢化率も35%を超えているような地域(土佐市は2020年に36.80%)は、周辺自治体と再々編もやりながら軟着陸させていかなければならない状況になっていくでしょう。

総務省が頑張っている地域おこし協力隊、取り組みとしてはとても面白いと思うのですが、今回の移住者カフェのような個別事例があっても助からない状況になるのも事実です。まさかカフェ開店にあたって、地元自治体が重要事項の説明をせず、賃貸借契約を結ぶことのできない劣悪な条件であることを知らずに繁盛店を作られたら、どうにもならないじゃないですか。契約書もない、というか結べる場所・施設ではなかったみたいだし。

トラブルの際に頼れる人材や地域の専門職はいるのか

今回は日本人の移住者でしたけれども、日本にあまりなじみのない宗教を信仰する外国人移住者とのトラブルであったら、政府や県、自治体はどうサポートができるのかというのは非常に深い難問になり得ます。そして、こういうトラブルの際に頼れる人材も地域の専門職も、いまの地方自治体には乏しいんじゃないかと思うんですよね。

同じことは、日本全国の過疎で大変な自治体と、田舎暮らしを試してみたい人たちと、地域の経済を支えるために低賃金で外国からやってきた移住民の皆さんと、古くから地元で権勢を誇っていた地元住民との間で起きる、引き返しのできない衰退のドラマとして繰り返し起きていくことになるのでしょう。

(山本 一郎)

山本 一郎

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