出会いを掴むためのポイント 「もう一人の自分」づくりも有効?

出会いを掴むためのポイント 「もう一人の自分」づくりも有効?

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  • 更新日:2021/07/20
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ボランティアによるバンド演奏会(提供=社会福祉法人奉優会)

定年後に何をすればいいのか。あり余る時間の処し方に悩むシニアは多い。再就職はもちろん、コロナ禍の今ではオンラインを駆使して趣味や趣味仲間を見つける人も。

【自分から居場所を「抜き出す」3つのポイントはこちら】

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オンラインの波は、趣味だけでなく「ボランティア活動」にも広まりつつある。社会福祉法人奉優会は、2014年にシニア向けボランティアコーディネートサイト「YELL(エール)」を開設。現在までに、累計89団体のボランティア活動を斡旋(あっせん)してきた。これまでは花壇の手入れや草むしり、レクリエーションの講師などが多かったが、去年以降はオンライン講座のボランティアが増加。自宅や高齢者施設にいるシニアに向け、Zoomを使って折り紙や英会話、書道などの教室を開いているという。

「コロナ禍でテレワークが普及したことで、場所を問わずボランティア活動に参加できるようになったのはオンラインならではの利点だと感じます」(公共サービス事業部部長・小宮山友宏さん)

シニアと企業をつなげる、新しい取り組みも始まっている。奉優会は今年1月、シニアの就労と社会参加を支援する「北区立いきがい活動センター(きらりあ北)」を開設した。地元企業から事業相談を受け付け、その課題解決にシニアの力を生かすことで、より包括的な地域貢献のスキームを組み立てている。

「この前は、生地開発を手掛ける会社から『開発中の下着の着用感を知りたい』という相談があり、モニターを募集したところたくさんのシニアの方々が応募してくれました。地元企業の課題をボランティアで解決する一方で、今後はボランティア体験から就労につなげる流れもつくっていきたいと考えています」(YELL担当・立花由紀子さん)

きらりあ北センター長の阿波連建世さんは、「延々とタオルを畳むだけなど、単純で労働感が強い作業では自己効力感が感じられず、単なる“作業”になってしまう。シニアが知識や経験、個性を生かしながら、アクティブに取り組めるボランティアを増やしていきたい」と語る。

生かせるのは仕事から得た経験だけではない。

三重県在住の大西幸次さん(65)は、自身の肺がんの闘病体験を伝えることで、同じくがんと闘う人々を励ましたいと考えている。

「肺がんの告知を受けたのが51歳のとき。翌月から抗がん剤治療を始めたのですが、当時はがん患者の相談窓口もなく、治療を続けて本当に良くなるのか確信が持てず不安だった。だから、自分のようにがん治療を乗り越えた人間がいることをオープンにするだけでも、少しは役に立てるかなと思ったのが始まりです」

寛解後、大西さんは12年に「三重肺がん患者の会」を設立。患者同士の交流の場づくりを行うと同時に、17年からは三重県がん相談支援センターの相談員として、月に10日、電話相談や面談に応じている。

「相談内容は、治療方法や患者と家族のメンタルケアが多いですね。がんって、発生部位だけでなく、同じ肺がんでも遺伝子変異の有無で治療の仕方がまるで変わってくる。他の人と苦しさを共有できない、孤独との闘いでもあるんです。だから、自分と同じ治療を受けている人に会って話すだけでも、すごく心の支えになるんですよ」

大西さんは、19年にがんが再発。現在も闘病中だ。「しんどくて、正直やめようかなと思うときもある(笑)」が、「医療は着実に進歩していて、薬剤の効果も10年前とは雲泥の差。がん治療はつらく苦しいものというマイナスイメージだけにとらわれないでほしい」と話す。

「患者会に来て、最初は泣きながら話していた人が、帰るときは笑顔になっているのを何度も見てきた。そんなときはやっていてよかったなと思います」

神戸松蔭女子学院大学教授で、25万部超のベストセラー『定年後』(中公新書)や『定年後の居場所』(朝日新書)の著者である楠木新さんは「定年後も居場所がある人は、外に見つけるのではなく、自分の中から“抜き出している”のが特徴」だと指摘する(下の表)。

【自分から居場所を「抜き出す」3つのポイント】(楠木さんへの取材を基に作成)

1.やり残したことを探す

小説や漫画、バンド演奏、そのほかに興味ある学びなど、若いころに「やり残したこと」を再び始める。

2.仕事と社会とのつながり方を変える

営業職の経験と話術を生かして後進育成の講師をするなど、仕事で得た能力をベースに新しいことに挑戦する。

3.苦しかった経験をプラスに役立てる

病気、事故、被災体験、家族問題などに正面から向き合い、そこから新たな自分を知る。

「ただし自分を振り返るだけでは不十分。『本当の自分を探す』という言葉をよく聞くが、固定した自分などはなく、あるのは各自の可能性。新しい居場所を見つけるには、まず行動する。そして自分について人に語ることの二つが鍵になります」

起業は不安、趣味などを始める気力もないという人もいるだろう。そういう場合、楠木さんは「もう一人の自分」をつくることを勧めている。

「私自身、40代後半で体調を崩して休職した経験がありますが、50歳から『楠木新』というペンネームで取材・執筆活動を始めたことが、人生の大きな転機となりました。始めてみて気付いたのが、いかに自分の本名に行動が縛られていたかということ。会社員という唯一の枠組みの中に自分を押し込んでいた。少しずつでよいからその枠組みを取っ払ってみることも大切です」

また、自分のことを語るのは、次のステップの道筋をつくり、新しい人間関係を築くきっかけにもなる。

「出会いの交差点に立つためのポイントは四つ。今いる組織と距離を置き未知の領域に一歩踏み出すこと、自らの意見や主張を発信すること、自分から先に相手に与えること、同じ志を持つ多くの人と出会える場所に身を置くことです」

「山月記」の有名な一節には、こんな続きがある。

「人生は何事をも為さぬには余りに長いが、何事かを為すには余りに短いなどと口先ばかりの警句を弄しながら、事実は、才能の不足を暴露するかも知れないとの卑怯な危惧と、刻苦を厭う怠惰とが己のすべてだったのだ」

後悔しないためにも、まず行動だ。(ライター・澤田憲)

>>【関連記事/ネット上で楽しむシニアも 定年後は“習慣”で居場所を見つける】はこちら

※週刊朝日  2021年7月23日号より抜粋

澤田憲

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