コント日本一を決める『キングオブコント2021』(KOC)で、地上波で放送ギリギリのSMクラブを舞台にしたコントを披露し、歴代最高得点で見事に14代目キングに輝いた空気階段。テレビ、舞台と活躍の場が広がる彼らだが、特に“信者”が多いのは、彼らがバイトに明け暮れていた2017年から続くラジオ番組『空気階段の踊り場』(TBSラジオ)だ。

8月2日にその公式本『TBSラジオ「空気階段の踊り場」公式本2017-2021』が発売され、これを記念した取材を行うはずが、鈴木が遅刻魔のイメージ通りに「子どもと一緒に昼寝をしてしまった……」と遅刻。水川ひとりのインタビューから始めることに……。
たくさんの人に単独ライブを見てもらいたい
──KOCで優勝した今、芸能界で掴みたいことはありますか?
水川かたまり(以下、水川):たくさんの人に単独ライブを見に来てもらいたいのと、街中で「面白い人は?」とアンケートを取ったら、空気階段の名前が挙がるような芸人になっていきたいです。あとは、ラジオをずっと楽しくやれたらいいのと、小中高はずっとサッカーをやっていたので、サッカーの仕事がやりたいです。
──まだ叶えていないのはサッカーの仕事ですか?
水川:そうなりますね。自分が総合司会を務めてサッカー情報を配信する『かたまりっちFC』的な番組がやれたら最高です。
──ラジオ番組、爆笑問題との共演、単独ライブ即完、そしてDVD化。掲げていた目標はほとんど叶ってしまいましたね。
水川:コンビ結成当初から単独ライブとラジオをやりたいっていう目標があって。あとはバイトをやめて芸人一本で食べられるようになり、もぐらはギャンブル、僕はサッカー関連とかで、ただただ自分たちが楽しいと思える仕事だけして生活をするっていうところに向けてやってきたので。達成したという感覚はないですけど、そのレールの上を走れているのかなとは思います。
「ここ最近また遅刻が多いんです」

──ラジオでは、もぐらさんが人を嫌な気持ちにすることを“心に石を積む”と表現されていました。最近積まれた石を教えてください。
水川:はい。まさに今ですね。つい2~3週間前にラジオでも同じことが起きたので、これは石です。ここ最近また遅刻が多いんですよ。昔と比べたら、減ったんですけど。
──やっぱり忙しいからでしょうか。
水川:いやあ、関係ないでしょう。今日は16時20分入りだったので、どんなに忙しかろうが、寝坊で遅刻するわけない時間帯なんですよ。
──もぐらさんには何度かご登場いただきましたが、かたまりさんは『SPA!』をご存じですか?
水川:もちろん、知っています。大人向けの週刊誌というイメージです。もぐらは『SPA!』から“クジラの糞集め”という副業があるって話を仕入れてました。
土下座は一番威圧的な謝り方

鈴木もぐら(以下、鈴木):(1時間遅れで到着、流れるように土下座して)遅くなって、本当にすみませんでした!
──大丈夫ですよ、頭を上げてください! すごい、見事な土下座ですね。
水川:……そうなんです。でも、これって一番威圧的な謝り方じゃないですか? 土下座されたら周りはみんな「いやいやいや大丈夫ですよ」って言うしかないじゃないですか。
──確かにそうですね。
水川:あと、絶対場が沸くんですよ。「いやいや、そんないきなり土下座ってー!」みたいになって、うやむやになる。もぐらはそれをわかってて、パフォーマンスとしてやってるんですよ。
鈴木:そんなことないですよ! 本当に申し訳ないと思っています。すみません、(用意されたおにぎりを手に)いただきます。
水川:……。
SPA!のあがいてる感じに共感していた
気まずい雰囲気のなかで、鈴木が差し入れのおにぎりを食べ始める。この男の遅刻や無神経な言動により、収録中にもかかわらず、水川が本気で怒り出す「マジ喧嘩」はラジオではお馴染みの光景だが、この日の取材も例外ではなかった!

──もぐらさんには何度も『SPA!』にご登場いただいて。
鈴木:そうですよね。貧困とか健康の企画でお世話になりました。もともと『SPA!』はバイト先の風俗の無料案内所に置いてあって、よく読んでました。なんとか現状から脱出して「カネ稼いでやる!」みたいな、あがいてる感じに共感してました。『SPA!』はグラビアのページも文芸ページもちゃんとある、素晴らしい情報誌だと思います。
──誌面によく登場する“飲む・打つ・買う”はもぐらさんの得意分野ですが、かたまりさんにご登場いただくならどういう特集になりそうでしょうか?
水川:……。
鈴木:……健康じゃないですかね、彼は薄毛治療を受けているので。『SPA!』読者の方も興味があると思いますし。
──……もうちょっと、お二人の会話があるといいなと。
水川:あ、すみません。僕はさっきお答えしたのでもういいかと。
鈴木:(か細い可愛い声で)遅刻してすいませんでした~。
水川:……。
男の欲望を捨てようという感覚になった

──KOC優勝後、金銭感覚は変わりましたか?
水川:そんなに変わってないと思います。もちろん自由に使えるお金が増えたので、何かを買うときに前よりちょっと高いもの選ぶということはあるかもしれないですけど、基本的にこれまでもあんまり我慢してきたことはなかったと思います。
──それはマザコンキャラとして仕送りのなせる業なんでしょうか。
水川:そうなんですかね(笑)。金銭的な欲があんまり強くないのは、「最悪(親からカネが)もらえる」というのが根底にはあるかもしれない。
──「タワマン住みたい!」みたいな欲望はないですか?
水川:いや、高いところが好きなのでタワマンは住みたいです。逆に「タワマン住みたい」くらいかもしれないです。めっちゃお金欲しいとか、女の人にモテたいというのはないかもしれないです。もちろん芸人を始めた当初はあったんですけど、世のままならなさを経験して、逆張りというか、男の欲望を捨てようという感覚になったのかも。意地を張るというか。
鈴木:僕は欲しいものが本当にない。キレイな石とかは欲しいですけど。土産物屋とかにあるじゃないですか。そういう、あってもなくても変わらないキレイなものがパッと目に入ったときとかじゃないと、「欲しい!」ってならないんですよね。
人生で“勝つ”までギャンブルは続く?

ラジオ番組収録の模様
──ギャンブルはお金が欲しくてやってるわけではない?
鈴木:いや、もちろん欲しくてやってますよ。お金がないとギャンブルができないので。僕、小遣い制なんですけど、2年前は一日500円で、今、月10万円くらいもらっていても、タバコで毎月5万円くらいなくなって、残りは缶コーヒーと交通費。
今はギャンブルが小遣いの範囲で解禁になり、もらってから一発目の勝負でその月の暮らしがだいぶ変わってきます。でも、本当の意味で“勝った”ときには変わるかもしれないですけどね。僕は今人生で負けているので、それがプラスになったときは、もしかしたらギャンブルをやらなくなるかもしれない。わからないですけどね。
──“負け”というのは借金があるということですか?
鈴木:総額で今までいくら使ってきて、いくら勝ってるのかを計算したら、ということです。余裕で負けてます。
“袋とじ”で定価を200円上げた
──8月2日にはラジオ『空気階段の踊り場』の5年にわたる放送をまとめた本『TBSラジオ「空気階段の踊り場」公式本2017-2021』が発売されます。どんな内容になったでしょう?
鈴木:『踊り場』はずっと僕と水川、放送作家の永井(ふわふわ)さんとディレクターの越崎(恭平)さんの4人で収録していて。今回の本は、スタッフのお二人がかなり力を入れてくれたみたいです。僕らは収録でも、踊らされているばかりで、ぜんぜん手綱を握っていない。この本も、インタビューや直筆のプロフィール以外、実はまだ全貌を知らされてないんですよ!
水川:それはもう、最高の内容だと思います。ただ、袋とじがなければよかったな、とは……。

鈴木:水川は、撮り下ろしの「ビジュ爆発グラビア」を披露していますからね。袋とじにしたせいで定価を200円上げました。
水川:僕は作家の永井さんの書斎が公開されるのが楽しみです。
鈴木:僕もそれが一番読みたいページです。早く読みたい。
ひたすらネタのブラッシュアップをした
──空気階段も期待を寄せる本になったということですね。自分で編集するなら、やりたかった企画はありますか?
鈴木:僕は歌舞伎町で無料案内所やカラオケバーなど、夜の仕事をしてきたので、風俗情報誌の『MAN-ZOKU』みたいに、付録チケットをつけたいですね。「60分指名料無料」とか「15分延長無料」とか、そういうクーポンみたいなやつ。
──『踊り場』本の付録だと、何をしてもらえるんでしょう。
鈴木:何がいいですかね? 僕に渡してくれたら、番組シールと引き換えるとか。やっぱり本を丸ごと持ち歩くのは、みなさんも面倒くさいと思うので、ページの端っこが点線になっていて、切り取って財布に入れておけるっていう、あの仕組みは素晴らしいです。
──お二人が揃ったので改めてお聞きしますが、「KOC優勝したい」というのがはっきり形になった段階で、ネタ作りでもいわゆるKOCウケを意識しましたか?
水川:そんなこともないですね。もちろん、10回出場して決勝にも3回出て、どんなコントだったら優勝できそうかという感覚や経験は積み重なっていたとは思うんですけど、それに向けて何か変えたみたいなことはないです。尺と、ここのボケはウケないから変えようとか。ひたすらネタのブラッシュアップという感じでした。
コントのキャラは仲のいい人の集合体

──かつてインタビューで、「コントやキャラクターは日常に即して生まれる」とおっしゃっていて。生活が変わると、コントの毛色も変わるんでしょうか。
鈴木:そんなこと言ってましたっけ? 今までの人生に関わってもらった人たちが無意識に出る、ということを言ったんだと思うんですよ。コアの部分は今からどこに行こうが変わらないわけで、これまで関わりがなかった人との交流がそこにのっかるんじゃないか。どんなふうになるのかは考えてやってるわけじゃないのでわからないですけど。
──ラジオで、もぐらさんがお子さんと水泳教室に行ったというお話を聞いたときは、感慨深かったです。これからは“ベビースイミングの先生”みたいなキャラクターが登場したり?
鈴木:ラジオを始めたばっかりの5年前の僕だと絶対に出会わなかった人ですよね。保母さんとか園長先生とか、ママ友、パパ友とか。そういう方と出会って話をしていくなかで、コントが変わっていくとは思います。でも、あんまり嫌いな人がコントに登場することはない。ツラい気持ちを思い出すから、嫌なことをされた人は反映されない。
なので、コントに出てくるキャラクターは、安居酒屋にいた個性の強い常連客や、バイト先の怖いけど人情に厚い社長だったり、そういう僕が仲いい人の集合体だと思ってください。
DVDを見て、興味を持って劇場に来てほしい

──今後、コント師としてやりたい設定はありますか?
水川:CMの撮影現場とか。わからないままでは作れませんでしたが、どういう手順で、どういう役割の人たちがいるというのが出演することが増えてわかりました。大人がたくさんいるような設定は、今なら台本を書けるかもしれません。
鈴木:でも、そうなると“その人たち向け”になっちゃうんですよね、どうしても。知らないことでコントされてもわからないというか。その人たちを接待するみたいな、接待コントは作れる感じになりましたね(笑)。どこがボケになっているか、お客さんからしたらわからない。
水川:僕らとしては「わかる人だけわかればいいや」みたいな感覚はなくて、お客さんが置いてけぼりになるようなコントを作っているつもりもないんです。だから、DVD『fart』は16歳以上の全国民に手に取っていただきたいですね。
鈴木:ちょっと中高生には、お見せしづらいものもあるのでね。『SPA!』読者にこそ、見ていただきたい。そのまま『SPA!』と一緒に手に取ってもらうといいんじゃないでしょうか。
水川:単独公演のDVDを出したいというのはずっとあって。今まで僕らを見たことない人でも、DVDを見て興味を持って、劇場に来てくれたらいいですし。僕はそういうお笑いのDVDをたくさん見てきたので、自分たちのライブDVDがそのうちの一本になるのはうれしいです。
今もやっぱり、一番やりたいのはライブ

『TBSラジオ「空気階段の踊り場」公式本2017-2021』(扶桑社)
──コントや単独公演というくくりで、何かやりたいことや目指しているものはありますか?
水川:見に来てくれたお客さんに、その年で一番面白いものが披露できれば、それが一番いいです。できるだけたくさんの人に届けたい。今もやっぱり、一番やりたいのはライブですね。
鈴木:僕はチケットというものがすごく好きで。ただの一枚の紙を3000円とかで買って、「持っている人だけ堂々と入ってください、持ってない人はダメです」なんて、大人の秘密の塊みたいな券じゃないですか。
チケット持っている人しか入れない場所も好きで。ライブ会場に行くと、チケットを持っている人たちがいっぱいいて、仕事がある人、休みの人、友達と来てる人、いろんな人がいて、共通点は一つ、チケットを持っていることだけ。あの場所を自分が提供できたら、そんなうれしいことはないです。
<取材・文/小西 麗 撮影/鈴木大喜 小林恵里>
【空気階段】
1987年生まれ、千葉県出身の鈴木もぐらと、1990年生まれ、岡山県出身の水川かたまりが2012年に結成したお笑いコンビ。DVD『空気階段 単独公演「fart」』が発売中。番組初の公式本『TBSラジオ「空気階段の踊り場」公式本2017-2021』が発売
【週刊SPA!編集部】
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