映画助成で最高裁判決 「表現の萎縮」を重くみた

  • 福井新聞ONLINE
  • 更新日:2023/11/21

【論説】薬物使用事件で有罪が確定した俳優の出演を理由に映画への助成金を交付しなかった文化庁所管の独立行政法人「日本芸術文化振興会」(芸文振)の処分は違法として、製作会社が交付を求めた訴訟の上告審判決で、最高裁は「不交付は違法」との判断を示した。

問題となった映画は「宮本から君へ」で、完成した2019年3月に出演した俳優のピエール瀧さんがコカイン使用の容疑で逮捕された。製作会社は4月に芸文振から内定していた助成金1千万円の辞退か出演シーンの編集を求められ、いずれも拒否。執行猶予付きの有罪判決が確定した7月になり「公益性の観点から適当ではない」と不交付決定の通知が届いた。

裁判で芸文振側は、交付は国が薬物に寛容との誤ったメッセージになる恐れがあるとし「公益」を損ねると主張していた。判決では公益について「そもそも抽象的な概念であって、助成対象の選別基準が不明確になり、表現行為に萎縮的な影響が及ぶ可能性がある」と指摘。芸術文化の振興という助成の目的を害するとした上で「憲法で保障された表現の自由の趣旨に照らしても、看過し難い」と厳しく批判した。

映画やテレビドラマで出演者に不祥事があった場合代役で撮り直ししたり、出演シーンをカットしたりするケースが相次ぐ。主役の不祥事なら放映や公開をやめ、過去の作品も配信中止にすることがしばしばある。この点に関しても、判決は「出演者の知名度や役の重要性にかかわらず、公益が害される具体的な危険があるとは言い難い」とした。その上で、この映画で誤ったメッセージが広がる事態は想定しがたく、薬物使用者が増加する根拠も見当たらないと指摘し「違法」と結論付けた。

芸術文化の公的助成の在り方を巡り、過剰反応による表現活動の萎縮を重くみて、芸術の自主性や創造性を損なわないよう戒めた点では、作り手側から「画期的」との声が上がるのは当然だろう。

芸文振の助成などを巡っては過去に混乱もあった。靖国神社を題材にした中国人監督の映画「靖国 YASUKUNI」(08年公開)は自民党保守派の要請により国会議員向け試写会があり「反日的」と助成を疑問視する声が噴出。各地の映画館で上映中止が相次いだ。愛知県で19年に開催された国際芸術祭では展示に抗議が殺到し助成を巡りもめた経緯は記憶に新しい。

作品や展示は見る人により評価は異なる。不祥事を大目に見るということではなく、芸術支援に当たり芸術性をきちんと評価し、作者が社会に忖度(そんたく)することなく打ち込めるような環境こそが求められている。

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