「端末購入プログラム」に懸念を示す総務省、プラチナバンドの再割当にも影響か(佐野正弘)

「端末購入プログラム」に懸念を示す総務省、プラチナバンドの再割当にも影響か(佐野正弘)

  • Engadget
  • 更新日:2021/06/11
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前回、総務省の「内外価格差調査」で日本の料金が高いことが、菅義偉内閣総理大臣が携帯電話料金引き下げを求める根拠となっていたと説明しましたが、その菅氏が総理就任前、携帯電話料金引き下げに向け大きな動きを見せたとされる施策が、2019年10月の電気通信事業法改正です。

この法改正によって毎月の通信料を原資とした端末の値引きが禁止され、携帯電話料金と端末代金を完全に分離することが求められたほか、通信契約に紐づく端末代の値引き上限も2万円に制限。さらに長期契約を前提に毎月の通信料を割り引く、いわゆる“2年縛り”の違約金上限を従来の10分の1水準にして有名無実化するなど、従来の携帯電話業界の商習慣をほぼ全て否定したことが大きな驚きをもたらしました。

そして一連の法改正は、契約の縛りをなくすことで、MVNOなどが提供するより安価なサービスに移りやすくして携帯電話料金競争を促進する狙いがあったとされています。ですが改正法が影響するのはあくまで法改正後に提供された料金プランのみで、それ以前に提供されている料金プランを契約している人は、現在も2年縛りなどの影響を受けていることに変わりありません。

そうした古いプランの契約者が縛りを受け続ける状況を武田良太総務大臣が問題視していたこともあってか、法改正から2年近くが経過しようとしている2021年6月9日に実施された総務省の有識者会議「競争ルールの検証に関するWG」の第20回会合では法改正後のプランにどれだけ移行が進んでいるのかという現状の把握と、より移行を促進するための策に関する議論がなされていました。

その内容を確認しますと、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの大手3社において、総務省が「不適合期間拘束契約」とする法改正前の料金プラン契約者は、2021年3月時点で約5300万とのこと。ですが3社の中で唯一、法改正後のプランに移行した後も以前のプランの解約金を留保していたNTTドコモが、2021年秋以降に解約金留保を撤廃すると表明したことから、今後移行が一層加速すると見られているようです。

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▲総務省「競争ルールの検証に関するWG」第20回資料より(以下同様)。携帯大手3社の法改正前プラン契約者の割合。改正前の2019年9月末と比べ、3社とも約1年半で半数近くにまで減らしていることが分かる

その一方で、総務省が問題視しているのが「不適合利益提供等」、要するに通信契約を前提とした端末の値引きによる縛りの存在。中でもKDDIとソフトバンクが法改正前に提供されていた、古い端末購入プログラムの契約が多く残っていることが問題だとしています。

長期間の割賦を組んで端末を購入し、一定期間後に返却することで残債を免除する端末購入プログラムは、現在も高額のスマートフォンを安く利用する手段として提供されています。ですが、法改正前の2社のプログラムはその適用に回線契約を求めていたことに加え、割賦期間が48か月と長く、端末返却した上で機種変更することが残債免除条件に含まれていたことから、当時の総務省の有識者会議では、実質的に4年以上契約を縛り続ける“4年縛り”と呼ぶなど強い批判を集めていました。

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▲KDDIやソフトバンクが法改正前に提供していた端末購入プログラムの仕組み。回線契約が必要な点や割賦期間が48カ月と長いこと、機種変更が必要なことなどから契約を長期間にわたって縛り続けるとして、総務省は強く批判していた

そして今回の総務省の報告によりますと、その古い端末購入プログラムの契約が、2021年3月末時点で約1405万契約があり、法改正直前の2019年9月末時点の契約数と比べてもKDDIで75%、ソフトバンクが56%と高い割合で残っているとのこと。この契約が残り続ける限り乗り換えの妨げとなることから、総務省は「競争上問題が大きく、極力早急に解消することが強く求められる」としています。

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▲旧端末購入プログラムの契約者(下のグラフ)は、2019年9月末の契約数を100とした場合、2021年3月末時点でKDDIが75、ソフトバンクが56と高い水準にとどまっているという

ですが法改正前になされた契約は電気通信事業法改正後も違法ではなく、新しい契約に移行させるかどうかは事業者の考え方次第。NTTドコモが解約金留保を撤廃するとしたのも、あくまで自主的に新プランへの移行促進へと舵を切ったに過ぎず、総務省が強制できるものではないのです。

そこで旧端末購入プログラムの契約が多いKDDIとソフトバンクに対し、総務省が切ろうとしているカードが“電波”です。実際総務省は今回の会合で、法改正後のプランへの移行促進状況を、今後の周波数割当の審査に活用することが「検討に値する」としていました。

さらに有識者からは、移行促進状況をプラチナバンドの再分配の審査に活用すべきではないかとの意見も出ていました。現在総務省では免許期限が切れた周波数帯の再割当に関する方針の検討がなされており、それに関連して楽天モバイルがプラチナバンドの再分配を求めている状況なのですが、それに乗じて携帯各社の“虎の子”でもあるプラチナバンドを失うという危機感を与えてでも、法改正後の料金プランへの移行を徹底したい考えのようです。

ですが今回の会合を見るに、総務省は以前の端末購入プログラムだけでなく、現在大手3社が提供している端末購入プログラムも依然として問題視している様子がうかがえます。現在大手3社が提供しているプログラムは、いずれも自社の回線契約者だけでなく、非契約者にも同じ条件で提供することにより、電気通信事業法の影響を受けることなく2万円を超える値引きなど、消費者への利益提供ができるようになっています。

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▲現在3社が提供している端末購入プログラムは、自社回線契約者だけでなく、非回線契約者にも同じ条件で提供することを前提に、改正法の規制を超えた利益提供をしている

しかしながら以前にもお伝えした通り、総務省は覆面調査によって、3社のショップで1〜3割という高い割合で非回線契約者への端末販売、ひいては端末購入プログラムの提供が拒否されたことを明らかにしています。さらに今回の会議の中で総務省は、3社が非回線契約者が端末購入プログラムを利用できることを積極的に告知しておらず、回線契約者以外の端末購入プログラム利用がほとんどなされていないとも指摘しています。

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▲公正取引委員会が実施したアンケートでは、非回線契約者であっても端末購入プログラムが利用できることを知らない人が87.1%に達しているとのこと

そうしたことから総務省は、各社の端末購入プログラムが「実質的に、改正法の施行前と同様に、『端末購入に係る利益供与をインセンティブとして回線契約に誘引する』という、同法の趣旨に反する、いわば潜脱的な行為を意図していることも疑われる」と指摘。他にも、一括購入より分割購入の方が安くなるのは「長期契約による顧客の囲い込みという目的以外に、合理的な理由が見出し難い」など、一連の仕組みが改正法で排除した「行き過ぎた囲い込み」につながりかねない可能性があるものと指摘しています。

もちろんこちらも旧端末購入プログラム同様、ショップでの販売拒否を除けば直ちに違法となるものではないので、総務省の指摘にどう対処するかは各社に委ねられる形となります。それゆえ当面は、携帯各社に過度な囲い込みにつながらない努力を求める方針のようですが、改善が図られない事業者には「改正法における通信・端末分離の徹底を図ることも視野に入れるべき」としており、先の周波数割当と同様、厳しい対応を求めてくる可能性は十分あり得るでしょう。

一方、今回の会議では法改正後の端末販売動向についても触れられており、携帯4社の売上台数構成比で低価格帯(4万円以下)や中価格帯(4〜10万円)の比率が8割近くを占めることや、「対象設備の購入等を条件とした経済的利益の提供及び端末購入等割引」が減少したことなどのデータが示され、法改正が端末販売の傾向に変化を与え安価な端末の販売が伸びている様子も示していました。

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▲携帯4社における2020年10月から2021年3月までの端末売上台数構成比を見ると、低価格帯が34.5%、中価格帯が44.3%、10万円を超える高価格帯が21.1%となり、総務省は「満遍なく選択されている」と評価している

そうした姿勢を見るに、可能ならば端末購入プログラムは完全に排除し、契約の縛りにつながりかねない高額端末の大幅値引きは一切認めたくない、縛りがなくても安く買える低価格スマートフォンや中古端末の販売を推奨したいというのが総務省の本音であるように感じられます。

ですが5Gがそうであるように、最先端のネットワーク技術がいち早く導入されるのは高額なハイエンドモデルであることが携帯電話業界の常です。契約の縛りがあっても端末の大幅値引きがあり、ハイエンドモデルを多くの人が手にできる環境が整っていたことが、日本に最先端のネットワークやサービスをもたらす土壌となっていたことを忘れてはならないでしょう。

それだけに、携帯料金引き下げにこだわり過ぎている現在の通信行政は、携帯電話産業を育てるという観点からすると多くの疑問符が付くというのが正直なところでもあります。日本政府はBeyond 5Gの時代に向け携帯電話産業の国際競争力を高めることを打ち出しているようですが、国内での競争促進にこだわるあまり、通信料金だけでなく端末価格も下がり続けるデフレを生み出している現状が、国際的な競争力向上に結びつくとはとても思えないというのが筆者の正直な見方です。

佐野正弘(Masahiro Sano)

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