古さや新しさを超越するジョン・カーペンター独自のスピリット...『ニューヨーク1997』が提示する映画本来の楽しさとは?

古さや新しさを超越するジョン・カーペンター独自のスピリット...『ニューヨーク1997』が提示する映画本来の楽しさとは?

  • MOVIE WALKER PRESS
  • 更新日:2022/01/14
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ジョン・カーペンターの名作『ニューヨーク1997』の色褪せない魅力を紹介 [c] 1981 STUDIOCANAL SAS - All Rights Reserved.

ジャンル映画の鬼才にして巨匠であるジョン・カーペンターの名作3本を4Kレストア版でスクリーン上映する「ジョン・カーペンター レトロスペクティブ2022」(1月7日~27日)。この特集上映において、『ザ・フォッグ』(80)、『ゼイリブ』(88)と合わせて、コロナ禍が続く2022年初頭のいま、『ニューヨーク1997』(81)という題名の映画が上映されると聞けば、「時代物か?」とうっかり勘違いする人もいるだろう。もちろん、そうではない。カーペンターが1970年代半ばに構想し、1981年に完成させ、1997年のニューヨークへと観る者を誘うSFアクションである。

【写真を見る】「メタルギア」シリーズの基になったとも言われる、若き日のカート・ラッセル演じる『ニューヨーク1997』の主人公、スネーク

つまり約40年前にアメリカで作られた“近未来映画”なのだが、いま観ても決して古くさくない。それは最近続編が作られた『ハロウィン』(78)や、今回の特集上映で甦る『ザ・フォッグ』、『ゼイリブ』にも共通することだが、カーペンターの作品には製作当時の流行などとは関係ない独自のスピリットがみなぎっており、古さや新しさといった概念を超越した固有の存在感を主張しているからだ。

物語はテロリスト集団にハイジャックされた大統領専用機エアフォース・ワンが、ニューヨークに墜落するところから始まる。大統領はからくも脱出用ポッドによって一命を取りとめるが、マンハッタン島は無数の凶悪犯罪者を収容する巨大な監獄島になっており、軍や警察は現場に近づくことさえできない。警察本部長は終身刑を宣告された元特殊部隊の囚人スネーク・プリスケンに、24時間以内に大統領を救出するミッションを託すのだが…。

「メタルギアソリッド」にも影響を与えた主人公、スネークのアウトローな魅力

本作の最大の魅力は、主人公スネークのキャラクターにある。左目に黒いアイパッチを着け、くたびれた革ジャンにブーツという装いでスクリーンに登場するスネークは、不機嫌そうな顔つき、ニヒルでふてぶてしい態度といい、まさに“アウトロー”を絵に描いたような男だ(アウトローとは、なんらかの理由で社会の枠組みに背を向けて生きるならず者のこと)。

一匹狼のため単独行動を好み、己が定めたルールにのみ従い、あらゆる権力を敵視して反逆行為を繰り返す。そうしたアウトローの特徴が凝縮されたスネークの人物像が、人気ゲーム「メタルギアソリッド」のクリエイター、小島秀夫に多大な影響を与えたことは有名な話である。

チャールズ・ブロンソン、トミー・リー・ジョーンズ、ジェフ・ブリッジスといった名だたるスネーク役の候補を押しのけ、カーペンターと相思相愛の形で主役を射止めたのは、若き日のカート・ラッセル。これが本格的アクション初挑戦だったラッセルは、クリント・イーストウッドをイメージしてスネークを演じたが、実は劇中のスネークはたいして強くない。

かつてイーストウッドがマカロニ・ウエスタンや『ダーティハリー』(71)で演じた無敵のタフガイには遠く及ばず、特筆すべきスキルや必殺の武器もない。行く先々でゾンビのようなギャングの群れに襲われるスネークは、そのたびに身を隠しては逃げ、たまたま通りかかったタクシーに救ってもらうという行き当たりばったりの男だ。

その半面、夜のマンハッタンの荒廃したストリートをスネークが悠然と歩く姿には惚れ惚れとさせられるし、彼にこの重大任務を委ねた警察本部長が「奴が死ぬはずがない」とつぶやけば、問答無用で「そうなのか」と納得するほかない。おまけに「プリスケン」と語りかけてくる相手を、「スネークと呼べ」と叱りつけるシーンなどセリフがいちいち味わい深い。

裏社会の有名人であるスネークは、ことあるごとに彼を知る者たちから「あんたは死んだと聞いたぜ」と言われるが、間違ってもそんな言葉をスネークに投げかけてはいけない。なぜなら、ついそのセリフを口にしてしまった者には、例外なく死亡フラグが立つからだ。

昨今のハリウッド映画に対するアンチテーゼとも言える“ほどよい”さじ加減

こうしたスネークの特異なキャラクターに加え、自由の国アメリカが強権的な管理国家に変貌し、マンハッタン島そのものを脱獄不可能な監獄に仕立てたディストピア的世界観も秀逸だ。スネークの首に仕込まれた時限爆弾(ニトログリセリン入りのマイクロカプセル)、スネークがマンハッタン島潜入時に活用するグライダー、物語を動かす重要な小道具となるカセットテープを収納したブリーフケースなど、細部のおもしろさも尽きない。カーペンター自身が作曲した、無機質なのに不思議とエモーショナルなシンセサイザー音楽にも高揚感をかき立てられる。

そして本作がすごいのは、これといった圧倒的なスペクタクルが盛り込まれているわけではなく、なにもかもが緩やかにあっけなく展開するのに、なぜか画面からひと時も目が離せないことだ。ほどよい長さ、ほどよいスケール感、ほどよい描写のさじ加減によって堅固に仕上げられたこの娯楽映画は、2時間半超えのオリジナルタイムが当たり前になり、過剰な視覚効果で塗りたくられた昨今のハリウッド映画に対するアンチテーゼと見なすこともできる。

はたして映画本来の楽しさ、スリル、興奮、感動とはなんなのか。どこからともなく現れ、またどこかへ去って行く永遠不滅のアウトロー、スネーク・プリスケンこそが、その答えを提示してくれるのだ。

文/高橋諭治

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