
ブルーロック-EPISODE 凪-(1)
アニメ化によってますますの人気を獲得した『ブルーロック』。サッカーW杯優勝に導くストライカーを養成するプロジェクト・ブルーロックに集められた才能の原石たちの成長を描いた作品である。脱落したら永久に日本代表入りの資格を失うという過酷な環境の中、ブルーロックで生き残るために、圧倒的なストライカーになるために、自分自身の弱さを受け入れながらも奮闘する様子はとても熱い。
参考:アニメ『ブルーロック』が“hype”な理由 強調される“個”の哲学と呼応する社会
ストーリーもさることながら、個性的な登場人物ばかりなのも魅力の一つだろう。中でも凪誠志郎は注目したくなる存在だ。サッカー歴半年にもかかわらず、変幻自在のトラップを操る正真正銘の天才。一方、プライベートでは何をするにもめんどくさがりな性格をしており、フィールド内外でのギャップも目が離せなくなる要因の一つである。
そんな凪だが、卓越したトラップスキルや癒し系の側面だけではなく、ワードセンスも秀逸だ。基本的にブルーロックに登場するキャラは総じて口が悪い。特に糸師凛は「ぬるすぎて死にそうだぜ」「お前らのぬるい球蹴りごっこはここで終わりだ」など、実力だけでなく言葉遣いもエグい。もちろん凪も例にはもれず、初登場のシーンでは八百長を提案してきた久遠渉を見て「頑張んなきゃ勝てないなんて弱いやつってめんどくさいね」と口にするなど、なかなかにひどい。
ここだけ見ると嫌味な天才くんという最悪な印象しかないが、その後のセリフ回しを見るとついつい興味がそそられる。例えば、馬狼照英に対しては「俺が勝ってしもべにしてやんよ」「よろしくキング、跪く練習ちゃんとした?」など、挑発するにしても一ひねりされており、声優を務める島﨑信長の演技も相まって頭にヌルっと入ってくる。
また、主人公・潔世一のことは普段は潔と呼ぶが、試合状況によっては「エゴイスト」「ストライカー」と呼び方を変えるところも面白い。凪は直観的な性格をしており、深くは考えずにテンションや雰囲気に合ったセリフを発しているように感じる。だからこそ、その時々の潔の状態によって、最も適した呼び方に無意識的に変えているのだろう。凪がどのような呼び方をするのかに注目することで、周囲の登場人物の態度や変化をより具体的に把握できるかもしれない。
直観的ということは言い換えると噓偽りがないことを意味する。そのため、凪のオブラートに包まない丸裸な言葉によって状況がコロッと変わるケースは多い。
凛たちに負けて蜂楽廻を取られた後、潔と口論になった時に「(御影)玲王がいなきゃ何もできねぇんだな、お前は」と言われ、「お前だって蜂楽がいなきゃ何もできないクセに」と厳しくもあるが確信をつく。そのおかげで、ヒートアップしていた潔は「そうだよ、だからイラついてんだよ」と冷静さを取り戻し、2人での再起を誓うことができた。
他にも、潔の覚醒を目の当たりにして取り残された感に苛まれている蜂楽に対して、「負けても自分が選ばれるとか、まだそんな頭お花畑?」「正直俺は今のお前なんかいらない、勝ったら凛がほしい。潔も多分そう思ってる」と耳を塞ぎたくなるような“事実”を告げる。
ただ、このことが蜂楽の頭の中にあったモヤモヤした不安感を言語化し、明確な危機感を持たせ、それと同時に冷静さも与えることになり、覚醒するキッカケを与えた。敵に塩を送ることになってしまったが、そこも打算ではなくセンスを優先する凪だからこそのうっかりミスなのかもしれない。しかし、「覚醒した蜂楽を潰したい」というエゴが働き、直観的に出たセリフの可能性もありそうだ。
なんにせよ、言葉に力があるからこそ、凪の言葉によって導かれるキャラは今後も増えるかもしれない。プレイだけでなく、今後も凪のセリフ回しにも注目したくなる。(望月悠木)
望月悠木