調理の流れに沿って無駄なく動けるのは、収納など台所の工夫と段取りの知恵、両方があればこそ。ある日の夕食作りを実況中継します。
撮影・柳原久子 文・黒澤 彩

「2人分の夕飯作りにかける時間は15分ほど。ご飯と味噌汁は必ず食べるので何も考えずに作れるようにしておき、あとは主菜と副菜を用意します」
わずか15分。牛尾理恵さんの効率のいい台所仕事の秘密をひもといていこう。まずは、毎日食べるご飯。一度に3合を炊き、1食分ずつ量ってラップで包み、冷凍しておく。食べるときは電子レンジで温めるだけ。
「きっちり7等分に小分けします。毎日同じ量のご飯を食べる習慣にすれば、食べ過ぎ防止にもなりますよ」
味噌汁の出汁はまとめて2L分をとり、400mlずつに小分けして冷凍する。ある程度の量をまとめてとったほうが安定した味にしやすく、2Lの水に対して昆布1枚とかつお節20gといった割合も自然に定まってきたそう。
具材は季節の野菜ときのこ類。中途半端に残ったものを食べやすいサイズに切ってミックスした野菜を、ジッパーバッグに入れて冷凍保存している。使うときは手でひとつかみ分を取り出して直接鍋に入れればいい。
「冷凍野菜は柔らかくなるのが早く、さっと火を通すだけで味噌汁が完成します。献立の中に、ごく簡単にできるものが1品でもあると助かりますよね。忙しいときも、『ご飯と味噌汁はあるから、なんとかなる!』と思えます」
となると、一から作るのは主菜と副菜だけ。メニューにもよるが、まな板を汚さない野菜から順に切っていく。
段取りのよさもさることながら、調理台と流し台が常にすっきりしていることに驚く。ボウルやらスプーンやらが流しに溜まらないのは、使い終わったそばから洗っていくから。特に、まな板と包丁は使うたびに手早く洗って水切りカゴへ。汚れたまま放置せず、少しの間だけでも乾かしておけば、数分後の出番にまた気持ちよく使える。
「限られたスペースでいろいろな作業をしなければならないので、料理の流れを止めないためにも、使い終わったものはどんどん洗います」
使うときの手間が省けるよう、整えて冷凍保存する。調理を進めながら次の作業をするスペースを空ける。片づけを積み残さず、洗えるものは洗ってしまう。一歩先を想像しながら先回りする工夫が、後の自分を助けてくれる好循環。実におみごと!

台の上に物を置かず、いつも片づいていて掃除しやすい台所。
普段のご飯作りは、こんな流れで。
いつものように冷凍のご飯と出汁、味噌汁の具材を活用した本日の献立は、鶏の照り焼き(主菜)とトマトもずく酢(副菜)。一切の無駄がなく、始末のいい料理の手順を追っていこう。
●エプロンを締めて料理スタート!
「白いシャツが多いから(笑)」、エプロンは必須。いつも流しの脇にかけてある。

●使う食器を全部棚から出しておく。
食器類は高い位置の棚に入っているので、調理を始める前、脚立に上がって取り出す。

●冷蔵・冷凍庫から食材を取り出す。
肉などを常温に戻す意味でも食材は早めに出しておく。冷蔵庫最上段は予備のスペース。

【台所の工夫】冷凍庫に出汁、ご飯、ミックス野菜を常備。
出汁は保存容器に。ラップに包んだご飯は玄米が牛尾さん、白米が夫と決まっているので見分けやすい。味噌汁の具材になるミックス野菜は青菜、大根、きのこなど。大きめの袋にどっさり入れて、使う分だけ取る。

●冷凍の出汁を鍋に入れ、火にかける。
味噌汁用の小鍋に、凍った出汁を保存容器からごろっと移し入れて中火にかける。

●付け合わせ野菜の下処理をする。
肉魚と野菜のまな板を分けていないので、初めに野菜を全部切り、後で肉などを切る。

●スナップエンドウの筋を取る。
筋は小さなザルにネットを張った簡易生ごみ入れに。これならシンク内でも小回りがきく。

●大根をすりおろし、残りを冷蔵庫へ。
主菜の付け合わせ用に大根おろしを作り、残りの大根にラップをして冷蔵庫に戻す。

●ごみが出たらその都度捨てる。
ごみ箱は背面の作業台の下に。パックなどのごみが出たら、振り向いてすぐ捨てられる。

●ミニトマトを切って盛り付ける。
加熱しないものは、まな板から直接器に。ボウルなどの余分な洗い物を減らす工夫。

●まな板と包丁を洗って乾かす。
野菜を切り終えたらすぐに洗って水切りカゴへ。肉を切るまでに少しでも乾かしておく。

●調味料を計量し、合わせておく。
常温の調味料は背面の引き出しに。1つずつ出しては量り、瓶を台に置くことなく戻す。

●まな板を再び出し、肉の下処理をする。
フォークで鶏肉の皮目に穴を開け、半分に切り、身のほうに片栗粉をまぶす。

●フライパンで肉を焼き始める。
油を熱し、鶏肉の皮目を下にして鍋蓋などの重しをのせて焼く。脇でエンドウも一緒に。

●包丁、まな板、手を洗う。
フライパンの火加減に注意しながら、肉を切った包丁とまな板、肉を触った手を洗う。

●冷凍ミックス野菜を出汁に入れる。
出汁が沸いてきたら、冷凍庫からミックス野菜を出し、ひとつかみ分を入れて煮る。

●冷凍ご飯を電子レンジで温める。
冷凍庫から出したご飯をラップに包んだ状態のまま加熱。加熱時間は電子レンジまかせ。

●焼き色が付いたら肉を裏返す。
鶏の皮目がパリッと焼けたら裏返す。エンドウは焼き色がついたら塩を振り、器に盛る。

●副菜の仕上げに取りかかる。
冷蔵庫からもずく酢としらすを出し、ミニトマトを入れておいた器に盛り合わせる。

●トマトもずく酢にごまをトッピング。
後ろの引き出し上段から白ごまを取り出してぱらりと加え、ごまはすぐ引き出しに戻す。

【台所の工夫】ラベルがなくても中身がわかる収納の工夫。
「ラベリングが大の苦手」と話す牛尾さん。ジャムの空き瓶に移したスパイスなどの中身が見えるように収納している。「ジャム瓶は上下逆さまに、胡椒類は寝かせておけば一目瞭然」。目当てのものをすぐ取り出せる。

●肉が焼けたら調味料を加える。
鶏肉から出た余分な脂をペーパーで吸い取り、合わせておいた調味料を加えて絡める。

●味噌汁の仕上げに取りかかる。
フライパンの火を止めて余熱で保温しておく。その間に味噌を冷蔵庫から取り出し仕上げに。

●味噌を溶いたら、鍋の火を止める。
おたまとヘラを取り出し、いつもと同じ分量の味噌を溶き入れたらすぐに火を止める。

【台所の工夫】引き出しの中の道具は使う場面で分ける。
調理台すぐ下の浅い引き出しの中には仕切りこそないものの、下拵えに使う刃物などが流し台側、調理に使うトングやお玉などがガス台側と、分けて入れている。作業するときの取り出しやすさを考慮した収納に。

●鶏肉を切って器に盛り付ける。
鶏肉を一口大に切って盛り付け、大根おろしを添え、フライパンに残ったタレをかける。

●使った道具は洗ってすぐ拭く。
まな板など使った道具は、水切りカゴ横の壁に掛けた布巾で洗った端から拭いていく。

●フライパンを水に浸けておく。
使った道具はほぼすべて洗い終わっている状態。フライパンのみ水に浸けておいて食後に。

●温めたご飯を茶碗によそう。
電子レンジで温め、ラップをしたまま置いておいたご飯のラップを外し、茶碗によそう。

●最後に、味噌汁を椀によそう。
味噌汁をよそったら完成。器が準備できているので、すべての盛り付けを手早くできる。

●家庭用の生ごみ処理機でごみ削減。
ザルに集めた生ごみを、生ごみ処理機へ。一晩で乾燥した肥料になり、臭いも残らない。

本日のご飯ができあがりました!

鶏の照り焼きに春野菜、しらすと海藻を添えたバランスのいい献立があっというまに完成。玄米には小豆を混ぜて炊くのが牛尾さん流。
【鶏の照り焼き】
スナップエンドウは筋を取り、大根は皮をむいてすりおろす。
鶏もも肉1枚は、皮目にフォークで数カ所刺し、半分に切って身側に片栗粉をまぶす。
中火に熱したフライパンに、皮目を下にして鶏肉を並べ、空いたスペースでエンドウと一緒に焼く。鶏肉には重しをのせ、3分したら裏返し、さらに3分焼く。
エンドウを取り出し、大根おろしとともに器に盛り付けておく。フライパンの余分な油をペーパーで吸い取り、合わせたしょうゆ大さじ1、みりん大さじ1、砂糖小さじ1、酒大さじ½を回し入れ、鶏肉に煮絡めたら食べやすく切って盛り付ける。
【トマトもずく酢】
ミニトマトを半分に切り、市販のもずく酢と和えてしらすをのせ、白ごまを散らす。
【味噌汁】
冷凍の出汁を鍋で温め、冷凍のミックス野菜袋から、凍ったままの野菜類を適量取り出して加え、温まったら味噌を溶き入れる。
【ご飯】
玄米に小豆を入れ、圧力鍋で炊いて冷凍したご飯(150g)。

牛尾理恵さん(うしお・りえ)
料理研究家
栄養士の資格を持つ。日々のご飯作りに生かせる健康的で作りやすいレシピが人気。近著に『オートミールでスープジャー弁当』などがある。
『クロワッサン』1067号より
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