日中関係冷え込みで、日本企業の関心は「ヒト」から「モノ」へ サプライチェーンの日本回帰は加速するのか?

日中関係冷え込みで、日本企業の関心は「ヒト」から「モノ」へ サプライチェーンの日本回帰は加速するのか?

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  • 更新日:2023/01/25
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コンテナ船のイメージ(画像:写真AC)

懸念強まる台湾情勢

2001(平成13)年の9.11米国同時多発テロをひとつのターニングポイントとして、世界各地で日本人が犠牲となるテロ事件が断続的に発生し、海外に展開する企業の間では「テロから社員を守る」とする「ヒトの安全」への意識が強まった。

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しかし近年、サプライチェーンの安定・確保、経済安全保障や地政学リスクが注目されるようになると、企業の関心は「モノの安全」の比重が高まっているように感じられる。では、2023年、その「モノの安全」を巡って、世界情勢はどう動いていくのだろうか。企業にとってのモノの安全を巡るイシューは多岐にわたるが、ここでは企業の間で最も懸念が強まっている台湾情勢について取り上げよう。

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中国共産党大会の閉幕式に出席した習近平国家主席(前列中央)。2022年10月22日撮影(画像:EPA=時事)

シーレーンに大きな影響

今日、台湾問題は単なる地域問題ではない。国力で米国に迫る中国の習近平国家主席は、2022年秋の共産党大会で「台湾統一を必ず達成する」と主張し、そのためには武力行使も辞さない構えを改めて強調した。

一方、中国を唯一の戦略的競争相手に位置付ける米バイデン政権も、中国による太平洋進出を抑える意味で台湾を最前線と位置付けており、台湾は今日、米中間で最も重要なイシューになっている。双方にとって譲れない問題だ。

そして、仮に台湾有事になるだけでなく、台湾問題で緊張が今後さらにエスカレートすれば、日本企業の経済活動は大きな影響を受けることになる。

まず、有事となった場合、中国軍は台湾周辺の制空権と制海権を握ってくるとみられ、そうなれば日本と台湾との間の物流貿易は停止、もしくは制限を受けることは避けられない。また、影響は日台間にとどまらない。台湾南部と東部には、日本と東南アジア、中東やアフリカをつなぐ経済シーレーンが走る。現時点でどれほど影響が出るか試算は難しいが、例えば制海権を握った中国軍により、シーレーンを通る日本の民間商船や石油タンカーの安全な航行が脅かされる可能性がある。

問題はそれだけではない。安全保障上、日本は米国の軍事同盟国であり、仮に台湾を巡って軍事衝突が生じれば、日中関係が悪化することは避けられない。米軍が「台湾を防衛する」として関与すれば、中国軍が在沖縄米軍基地を攻撃してくることは避けられず、その時点で日本領土が攻撃されたことになる。

そうなれば、日中ビジネスは止まる可能性が高い。中国依存が強い日本企業ほど、大きな影響を受けることになろうが、中国側が率先して日本にとって代替が難しい輸出品目を選定し、優先的に貿易停止や関税引き上げなど、対抗措置を取ってくることが考えられる。

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日中関係のイメージ(画像:写真AC)

ビザ発給停止の真意は?

また、有事になる前でも日中関係が冷え込めば、同様の措置を取ってくる可能性が十分にある。2010(平成22)年9月の尖閣諸島での中国漁船衝突事件の際、中国は報復措置としてレアアースの対日輸出を突然停止し、2023年に入っても、ゼロコロナ政策終了によって中国で新型コロナウイルスの感染爆発が起きる中、日本の水際対策強化に対し、中国は突然ビザ発給停止という行為に打って出た。

これについては日本国内でも動揺が走っているが、現在の台湾情勢や米中対立、そして日中関係の中に今日の力関係など政治の側面からみれば、今回のビザ発給停止もその延長線上で考えられる。

今日、米国は半導体など先端分野で脱中国、国内回帰、また同盟国や友好国とのサプライチェーン強化を進めているが、日本も経済安全保障の観点から米国との結束を強めようとしている。中国は日本のそういった方向性を強く懸念しており、経済分野での日米切り離しを狙っている。今回のビザ発給停止という措置は、それによって日本の対応をうかがう狙いもあったように思われる。

このように、2023年に有事へと発展する可能性は低いと思われるものの、台湾を巡る緊張は続いており、米中対立も影響し、それらによって日中関係が冷え込んでいく可能性がある。今日、国家間の紛争の主たる戦場は経済、貿易の領域であり、緊張が長期化すればするほど、企業にとっての「モノの安全」が脅かされることになる。

こういったことを懸念してか、大手自動車メーカーのホンダは2022年8月、国際的な部品のサプライチェーンを再編し、中国とその他地域を切り離す方針を明らかにした。また、キヤノンや日立製作所はこういったリスクに対応するため、中国にある拠点やサプライチェーンを日本へ回帰させたり、第三国へ移転させたりする方針を明らかにした。おそらく、2023年も日本企業の中ではこういった動きがさらに進むことだろう。

和田大樹(外交・安全保障研究者)

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