「ようこそ! ジャンキーの巣窟へ!」2年ぶり開催、コミケの前日設営に参加してきた

「ようこそ! ジャンキーの巣窟へ!」2年ぶり開催、コミケの前日設営に参加してきた

  • 文春オンライン
  • 更新日:2022/01/15

「ようこそ! ジャンキーの巣窟へ!」。昨年の暮れ、筆者らが新たな世界の扉を開こうとした瞬間に投げかけられた祝福、あるいは呪いの言葉である。これだけでは何のことかサッパリだろうから、順を追って話をしよう。

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多くのボランティアスタッフにより成り立っているコミケ

昨年末、世界最大級の同人誌即売会「コミックマーケット99」(コミケ)が、2年ぶりに開催されたことは多くのメディアでも報じられており、目にした方も多いだろう。

コロナ禍によってしばらく開催が見送られてきたが、予約型チケット制と入場者数制限、ワクチン・検査パッケージの導入など、厳密な感染症対策の上で開催され、大規模なイベントということで大きな注目を集めた。

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コミックマーケット99の様子(撮影:コミックマーケット準備会)

通常、年2回行われるコミケは、多くのボランティアスタッフにより成り立っている。スタッフは成人であること、過去にコミケに参加したことがあるなど、いくつかの条件を満たす人がコミケ準備会に登録し、その活動を行っている。その数は、登録ベースでおよそ3000人という。

また、コミケ開催前日に行われる設営作業やコミケ終了後の撤収作業では、スタッフ以外に多くの参加者が自主的に参加して人海戦術で行われている。

近年はコミケについての報道も多く見かけるようになったが、サークル参加の創作者が中心で、こういったコミケを支える人々の活動についてはそう多くない。そこで本稿では、コミケの前日設営に筆者自身が参加し、大規模イベントとなったコミケを支える人々の活動の一端をお伝えしたいと思う。

2年のブランクが空いたコミケを記録したい

本論に入る前に告白するが、筆者はコミケ一般参加歴は24年、サークル参加歴は9年ほどであるが、この間にスタッフ登録をしたこともなければ、前日設営に参加したことも一度もなかった。しかし、サークル参加でスタッフに助けられたことが多々あり、参加者として少しでもコミケに貢献すべきでないかとの想いがあった。そして、コロナ禍によって2年のブランクが空いたコミケを記録したい想いもあり、設営への参加とその記事化を行うことにした。

なお、コミケの設営などの準備や当日の様子等はネット上に写真付きで個人のレポは多くあるが、メディアによるものは準備会への取材申請が必須であり、本稿も申請の上で執筆されており、潜入レポといった類のものではないことをお断りしておく。

前日設営にはおよそ1000人が参加

コミケ開催を翌日に控えた12月29日朝、会場となるビッグサイトの入口に向かうと、コミケ設営の受付ができていた。例年であれば前日設営は集合時間に集まるだけでよいのだが、今回はコロナ禍の中ということもあり、設営参加もチケットサイトで事前登録を行う必要があり、事前登録の段階で参加者にも上限が設けられていた。

前日設営には朝9時集合の測量と、11時30分集合の設営の2通りがあり、筆者は測量から参加している。チケットで定められた上限は測量が300人、設営が700人となっており、前日設営にはおよそ1000人が参加することになる。

検温とチケットのQRコード読み取りを済ませ、参加証となるリストバンドを受け取って館内に入る。エントランスホールには既に多くの人が集まっている。ざっと見回したが、コミケの参加者平均よりやや高めの年齢層が多く、力仕事であることもあってか男性の比率が高いようだ。皆から2年ぶりの開催への期待と熱気が伝わってくる。

9時を過ぎると、設営マニュアルの配布が行われ、スタッフの挨拶と説明に入る。準備会の筆谷芳行共同代表も挨拶に立ち、「今までのコミケットに戻す。そのためにちゃんとやっていく」との開催に向けた決意表明がなされた。また、質疑応答の中で本日の参加者数について問われると、測量の300人は満了。設営も600人以上が参加しており、例年通り1000人近い参加者となるという。

説明後、エントランスホールから設営するホールへ向かう。筆者は東館の設営を行うことにして東館へと向かうが、ここまで人気のないビッグサイトは初めての経験であった。

とんでもない所に来てしまったのではないか

東館に着くとまだホールのシャッターは閉まっており、シャッター前でベテラン参加者が説明を行っていた。ベテラン参加者は集まった参加者に設営経験の有無をたずね、筆者を含む初参加者が手を上げるとこう切り出した。「ようこそ! ジャンキーの巣窟へ!」。

『ジャンキーとはとんでもない所に来てしまったのではないか』と、四半世紀コミケ通いしている筆者も自分のことを棚に上げて不安になったが、その後にベテラン参加者は挨拶を交え、コミケが開催されなかった2年間を振り返り、自身が前年結婚したことを報告すると、周囲からは拍手が起きた。人間的な温かみのあるジャンキー集団だ。

小学生以来のラジオ体操

シャッターが開き、東館内部へと立ち入る。コミケから企業の展示会まで、何度も足を運んだ東館だが、机一つもないがらんどうの光景は初めてだった。この何もない状態から、サークルが設営を行える状態にまで持っていかなくてはならない。

参加者が東館に集まると、先程のベテラン参加者がYouTubeのNHKチャンネルからラジオ体操第1を再生し、作業前の体操がスタートする。真面目にラジオ体操第1を完走したのは、小学校の夏休み以来だろうか。

体操が終わるとゴミ袋が配布され、まずはこの広大な空間のゴミ拾いが始まる。どれだけゴミがあるのかと思ったものの、探し始めると色んなものが落ちている。落ち葉やプラスチック、配線の切れ端、そしてネジだ。特にネジは危険なので慎重に探したが、自分だけでも10本ほど回収した。

テーブルを設置する印を貼り付けていく作業「測量」

ゴミ拾いをしている中で測量が始まる。測量はテーブルを設置する印となる赤いテープを貼り付けていく作業で、何十メートルもあるメジャーを用いて広い空間の測量を行っていく。本来は測量がこの時間帯の主な作業だが、人は足りているとのことで、筆者は引き続きゴミ拾いを行った。

測量が一段落しても、仕事が残っている。次々とやってくるトラックから、備品を運ぶ作業だ。トラックから荷降ろしされた箱には、それぞれの配置場所が記載された紙が貼られており、定められた場所に箱を積み上げていく。

今回は例年の備品に加え、感染症対策の備品が目立ったのが印象的だった。特に会場各所に設置される消毒用エタノールは、重量・容積ともに結構な量が山積みにされていた。

がらんどうだったホールに…

12時頃になると、業者のトラックから長机が収納された台車をホールの各所に配置する。ここから人海戦術で机を設置する設営になる。設営組が東館に現れ、人がまばらだったホールもだいぶ賑やかになった。ビッグサイト全体で600人以上だから、100人は下らないだろう。測量組よりも平均年齢は若めに見えた。

設営組の体操が終了後、机の設置にかかる。台車から1人につき1つの机を受け取り、測量で貼られたテープに基づいて設置を繰り返す。人海戦術で行われていくが、設置のスピードは速く、もたもたしていると近くの設置場所がいっぱいになり、遠くの設置場所まで机を運ぶ羽目になる。

がらんどうだったホールにまたたく間に机が整然と並んでいく。途中、業者の車が出られなくなるため、机の設置を見合わせたりもしたが、1時間もかからないうちに机と椅子の設置は完了した。

コミケに参加したことのある方なら上の写真でおわかりいただけると思うが、通常は机を隙間なく並べているのに対し、今回はコロナ対策のために余裕をもって配置されている。その分、配置できるサークル数は少なくなるが、コロナ禍でようやく開催に漕ぎ着けたコミケだ。共同代表の挨拶にあったように、今までのコミケに戻る日が来るまでやることをやるしかないのだろう。

13時頃にはほとんどの作業が終了した。例年では共同代表らによる反省会等が行われるのだが、今回はそのまま流れ解散という形になった。筆者を含む参加者は帰途についたが、スタッフは設営終了後もサークルの前日搬入といった作業を続けていく。

コミケのもう一つの楽しみ

前日設営を終えてみると、今までサークル参加で当たり前のように使っていた机が、これほどの労力を要して設置されたという当たり前のことに改めて気付かされた。頭では分かっていても、実際にやるとやらないとでは実感が違う。この苦労を知り、なるべくスタッフの手間とならぬよう、手続きや準備も念入りに行うよう心がけるようになった。

そして、そうした気持ちとは別に、純粋に楽しかったのだ。もともと、コミケは中高の文化祭との類似性がよく言われているが、前日設営は文化祭前日の雰囲気に近い。来る祭に向けた高揚感というものは成人後にはなかなか味わえるものではない。

筆者は成人後に町内会の祭を担当したこともあるが、地域住民や子供に向けた祭ではこうした高揚感は得られず、気疲れだけが残った。やはり、自分たちが楽しむ祭を、自発的に立ち上げていくことがキモなのだろう。コミケ歴四半世紀にして、また新たなコミケの楽しみを知ってしまった。

前日設営は今後も参加したい。それも今までのコミケの形で。その日が来ることを願ってやまない。

写真=石動竜仁

(石動 竜仁)

石動 竜仁

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