「国際男性デーなんていらない」とは思わない。女性たちの100年の闘いは男性社会ゆえのものだから

「国際男性デーなんていらない」とは思わない。女性たちの100年の闘いは男性社会ゆえのものだから

  • mi-mollet(ミモレ)
  • 更新日:2022/11/28

時代の潮目を迎えた今、自分ごととして考えたい社会問題について小島慶子さんが取り上げます。

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11月19日は、国際男性デー(IMD=International Men’s Day)でした。と言っても100年以上の歴史を持つ国際女性デー(3月8日)のように国際社会で広く公認された日ではありません。今年は日本のメディアでもたくさん記事が出ていましたが、まだまだ認知度が低いですね。

中には、国際男性デーなんて不要だという人たちもいます。男性は女性よりも経済的社会的に優位に立っているのだから、男性をわざわざケアする必要なんてないと。構造的に男性の方が圧倒的に有利な社会であることは確かですが、だからこそ彼らが自らの強者性や加害性に無自覚な現状を変える必要があります。それには、彼ら自身が耐えて順応している男性社会の歪みについて自覚することが第一歩です。

国際男性デーの歴史は浅く、誕生したのは1999年。提唱者はトリニダード・トバゴの西インド諸島大学教授、ジェローム・テラクシン氏です。11月19日はテラクシン教授の父親の誕生日なのだとか。より良いジェンダーリレーションや男性のロールモデルを模索・推進し、分断されがちな男性の運動の連帯を目指して創設されました。トリニダード・トバゴのほか北米、イギリス、オーストラリアなどで積極的に展開されています。

イギリスでは、中でも男性の自殺率の高さに注目しています。全自殺者に占める男性の割合は75%ほど。議会では国際男性デーにちなんで、男性や少年の教育・健康・自殺・メンタルヘルスなどの課題を議論しています。

コロナ禍で減った男性の自殺。男性のしんどさは女性・子供へのDVに転嫁

日本でも男性の自殺率の高さは以前から問題視されてきました。経済的に追い込まれた末の自殺が90年代末から激増。全体の自殺者数が3万人台だった当時よりも減って2万人台となった現在でも、男性の自殺者数は女性の2倍です。

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写真:Shutterstock

また、コロナ禍での収入源やいわゆる巣篭もりによってDVが増加。男性の自殺者はわずかに減少した一方で、女性の自殺が急増し、中でも若い女性の増加が顕著です。女性の自殺増加の背景には、家事育児介護などの負担の大きさ、DV被害、雇用の不安定さ、経済的な立場の弱さなど複数の要因があると見られています。 「男が稼ぎ、女は男と子供の世話」という男女の役割を前提にした制度が男女格差を生み出し、職場や家庭内での女性の立場を弱くしてきました。

多くの人が不安に襲われたコロナ禍では、「稼がない男は価値がない」「女は男の世話係」という旧来の価値観が精神的・身体的暴力となって、人々の逃げ場を奪いました。中でも最も弱い立場に置かれた女性たちの自殺という形でそれが表れていると言えます。「強い男、弱い女」をよしとする価値観は男性を自殺へと追い込むだけでなく、非常時にはこうした形で女性を犠牲にするのです。

男性の生きづらさを軽減するのは社会の歪みを変えるため

絶え間ない競争に晒され、同質性が高く同調圧力の高い男性社会で、大半の男性は“負け組”になります。その劣等感や恨みの矛先は自身を負け組に追いやったシステムや強者男性に向かうことはなく、支配や暴力となってより弱い立場の女性や子供に向かいます。あるいは他者ではなく、自分自身に向かった結果、孤独に苦しみ、命を絶つことも。女性たちが100年以上かけて戦ってきた女性蔑視や女性差別、性暴力やDVをなくすためには、その源となっている既存の男性社会を変えることが不可欠です。

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写真:Shutterstock

私はそうした観点から、国際男性デーの取り組みは有効だと思っています。信頼していた身近な男性からの性加害の被害体験を持つ身としても、二人の息子たちには「有害な男らしさ」と言われる典型化された男性像に感化されて欲しくありません。

いわゆるマッチョな男らしさの押し付けや、生き方の選択肢の少なさに悩む「男性の生きづらさ」。その軽減への社会的な取り組みは、息子たちの豊かで幸福な人生と、彼らと関わる人たちの幸福を心から願う私にとっても、切実な問題です。

男性の生きづらさを軽減するのは、男を甘やかすことではありません。むしろ逆で、思考停止で競争社会に順応するのをやめ、自分の頭で考えて生きるように促すことです。他者と関わりを持ち、胸の内を言葉にして可視化し、自らその感情や思考を扱い、無知を認め、学び、変わり続ける勇気を持つのです。そして自分と他人を、ケアすること。一方的に尊敬を求めるのでなく、互いに敬意を払うこと。これはなかなかに手間のかかる、エネルギーを使う生き方です。弱い立場の人をいじめて、世間に文句を言いながらシステムに流される方が、幸せじゃなくても遥かに楽でしょう。

「自己を開示する技術」は失敗から学んでまた前進するための技術

男性学を研究している社会学者の田中俊之さんによれば、男性は弱みを人に見せられず、辛い時に他人に相談できない傾向が女性よりも強いのだそうです。「男はこうあるべき」という自身の思い込みや世間からの要求に縛られ、自身の弱さを認めることができない。これはしんどいですよね。

若い頃からの「自己を開示する技術」、つまり「言語化する技術」「助けを求める技術」「建設的な解決策を考える技術」の習得が重要です。

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写真:Shutterstock

そう、心掛けではなく、技術なのです。場数を踏んで身につけるしかありません。だから私は息子たちにことあるごとに「困ったらいろんな人に相談してみるといいよ。もちろん私はいつでも力になるよ。自分の脳みそは一個しかないから、一人で考えることには限度がある。だから、他の人の複数の脳みその知恵を借りた方がいい方法が見つかるんだよ」「困っている人がいたら、君にできることがあれば助けてあげなね」と話しています。試行錯誤して時には失敗しながら、人と繋がる体験をして、自分を開く技術を身につけてほしいです。

失敗や敗北なんて、誰にでもあることです。そこから学んでまた前進できる道を探せばいい。失敗や敗北を認められずに殻に閉じこもると、誰とも繋がりのない、最も脆弱な立場に追いやられてしまいます。その不安が身近な人への暴力に変換されることもある。だから社会が「人生はああもこうも生きられる、何度でもやり直せる」という選択肢を用意することもまた、非常に重要なことです。

11月19日は、国際男性デー。知らなかったという人は29日の「いい肉の日」に、牛丼でも食べながら身近な男性と話してみるのもいいかもしれません。

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前回記事「「お願い、私を人間でいさせて」Siriに邪険にしてしまう日々に思う技術と人間性の難しいバランス」はこちら>>

小島 慶子

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