『カムカムエヴリバディ』金太が最期に見た“夢”に涙 甲本雅裕が畳みかけた名演技

『カムカムエヴリバディ』金太が最期に見た“夢”に涙 甲本雅裕が畳みかけた名演技

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  • 更新日:2021/11/25
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『カムカムエヴリバディ』写真提供=NHK

そんなニクい演出、誰が予測していただろうか。目を赤くして出勤しなければならなくなってしまった『カムカムエヴリバディ』第19話では、思いがけない別れが描かれた。

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「おっちゃん、おはぎのおっちゃん」

夜、「たちばな」の跡地で金太(甲本雅裕)が小豆を煮ていると、戸を叩きながら彼を呼ぶ声がする。昼間、おはぎを盗み食いした少年の声だ。2円50銭払えと金太が凄むが、少年も「払うものはない」と怯む様子もない。そんな彼に、金太は箱ごとおはぎを託し、自分の才覚で値段をつけて売り、その売り上げからおはぎの代金を払えと言うのだ。両親と一緒にいない、身なりもすすだらけの少年は恐らく戦争孤児だろう。もう頼る相手もいない彼に、金太はこれからの“生きる術”を教えたのだ。金太もまた、菓子作りを再開したことで生命力を取り戻したかのように思えたが、自分のせいで妻・小しず(西田尚美)と母・ひさ(鷲尾真知子)を死なせてしまったという呵責は思った以上に心身を蝕んでいた。

あの少年(金太の言葉でいう悪ガキ)は、戦地に行ったまま帰ってこない息子の算太(濱田岳)の幼い頃に似ていた。だから、少年が帰ってきたら算太も帰ってくる、少年が帰ってこなかったら算太も帰ってこない。そんな賭けをしていた。思えば、商いと菓子作りばかり真面目に取り組んできた金太にとって、人生最初で最後の“賭け事”だったのかもしれない。

戸をひらくと、そこにいたのは算太だった。金太と同じように私も驚いてしまったが、少年が一緒にいるわけではない。彼だけが、そこに佇んでいた。その違和感からくる、拭いきれない嫌な予感をよそに、算太はいつも通りの調子で「寒い寒い」と中にのそのそ入ってくる。そして大金を取り出すものだから、金太は「また借金したのか」と慌てるも、算太は「違う、言われた通りうちの才覚でおはぎ売ってきたんじゃ」と裕福な夫人らに売りさばいた話を得意げにする。そんな彼を、もう金太は叱ることはなかった。息子の無事の帰還を喜びながら、「すまん、みんな死なせてもうた」と首を垂れる金太。

もうこの時点で、戦争から帰ってきたばかりのはずなのに昼の少年と同じことを言っている算太が、算太ではないことが薄々わかるも、どこか信じてしまえそうな雰囲気がずるい。そして徐々に“夢”は、より“夢”らしく。どこからともなく現れたラジオをつけると、一家団欒で聞いたとき、特に金太が気に入っていた漫才が流れはじめる。そして気がつけば、父に、母に、妻に、息子に、娘に、弟子たちに囲まれて、みんなでおはぎを食べながら笑っている。そんな情景を、涙をこぼしながら思い浮かべる金太。彼が亡くなっているという知らせが入ったのは、その翌朝のことだった。

まるで非現実的な出来事を、本当にあったかもしれないと錯覚させる演出に、ティム・バートン監督の『ビッグ・フィッシュ』という作品をふと思い出した。あの作品もまた、父の死を夢物語のように描いた映画である。そんなニクい演出に加えて、先週ずっと素晴らしい“泣き”を見せてくれた甲本雅裕の名演技が私たちの涙を誘う。

結局、あの少年も来ていなければ算太も帰ってきていない。でも、もしかしたら本当に二人とも彼のもとに訪れていたのかもしれない。算太が話したおはぎ売りの話は、もしかしたら少年が本当にやっていたかもしれないし、算太も「寒い寒い」とすぐそこまで帰ってきているかもしれない。なにより、金太にとって娘の安子(上白石萌音)にあんこ炊きを教え、また二人でおはぎを売ったあの時間こそ、“夢”のような時間だったのではないだろうか。

戦争は人々からたくさんのものを奪った。直接的に体に損傷がなくても、心は損傷している。神経が衰弱して命尽きてしまうことも珍しくはなかったが、金太は病み上がりでも寒い「たちばな」で寝泊まりすることにこだわっていた。算太がいつ帰ってきてもいいように、彼を待っていたから。最後、夢の中でした会話から、最後まで算太の金癖の悪さを心配していたことがわかる。だから、息子の姿に重なるあの少年に金に困らない方法を教えたのだ。本当は自分が教えてあげたかった。そして安子には、「たちばな」のあんこを託した金太。いまごろ向こう側で、ようやく再会できた小しずやひさ、杵太郎(大和田伸也)たちと居間でラジオを聞いて、笑っているに違いない。(アナイス(ANAIS))

アナイス(ANAIS)

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