三浦春馬が遺作『おカネの切れ目が恋のはじまり』で見せた、俳優としての底力

三浦春馬が遺作『おカネの切れ目が恋のはじまり』で見せた、俳優としての底力

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2020/09/16
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「金銭感覚」を軸に進むストーリー

『おカネの切れ目が恋のはじまり』(TBS系)の放送がいよいよ始まった。本作は、松岡茉優主演のラブコメディ。『恋はつづくよどこまでも』『私の家政夫ナギサさん』とヒットの続くTBS系火曜22時枠の最新作であり、7月18日に他界した俳優・三浦春馬が、亡くなる直前まで撮影に臨んでいた「遺作」としても、注目されていた。

日本中から惜しまれつつ亡くなった三浦春馬の遺作ということを差し引いても、非常に優れたドラマだった。特に光ったのが、キャラクター描写だ。脚本を手がけるのは、昨年『凪のお暇』(TBS系)で好評を博した大島里美。優れた作家は、キャラクターを性格の陰陽ではなく価値観で描き分ける。このドラマでは「お金」に対する価値観の違いで、主要なキャラクターの個性を浮き彫りにした。

松岡茉優演じる主人公・九鬼玲子は中堅おもちゃメーカー「モンキーパス」の経理部で働く「清貧女子」だ。店頭で一目惚れした1680円のお皿への想いをずっと胸に温め続け、1年間悩んでから購入に踏み切るほどの節約ぶり。無駄遣いを一切せず、茶碗が欠けたら金継ぎして補修するなど、倹約家タイプのキャラクターだった。

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「清貧女子」九鬼玲子を演じた松岡茉優[Photo by gettyimages]

一方、三浦春馬演じる猿渡慶太は、父親が経営するモンキーパスで働く御曹司で「浪費男子」。バーベキューのためだけに紙皿ではなく陶器の皿を爆買いし、終わったらその場で廃棄する。洋服を買いに行けば、1回で使った金額はなんと111万円。しかしその金額にたじろぐ様子は一切なく、むしろゾロ目であることに歓喜する。

母・菜々子(キムラ緑子)に甘やかされて育ったがゆえに物欲を我慢することを知らず、金銭感覚が崩壊した典型的な「お坊ちゃま」だ。

アメリカ出張で776万円も散財した慶太の金遣いの荒さを見かねた、父・富彦(草刈正雄)は、彼にクビを宣告する。なんとか解雇は免れたものの、慶太は営業部から経理部へ異動になる。そこで新たに教育係を任されたのが、玲子だった。

お金を正しく使い、心静かに生きることを美徳とする玲子は、1回のランチで5800円も使う慶太の金銭感覚に唖然とする。最初は慶太のことを敬遠するも、目に余る浪費ぶりを捨て置けず、その綻びだらけの金銭感覚を「繕う(矯正する)」ことを宣言する。

ふたりのコントラストがコミカルかつわかりやすく描かれているからこそ、正反対の玲子と慶太が今後どのように距離を縮めていくのか、今後の展開に期待が高まる初回だった。

第1話では、実家の町工場の経営が火の車で、奨学金を返済するために交通費を不正に着服する営業部のエース・板垣純(北村匠海)を通じて、昨今多くの若者にのしかかる金銭的な問題にも言及し、何不自由なく見える人たちが、実は貧困に苦しめられているという現代の社会問題を可視化させた。

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板垣純役の北村匠海[Photo by gettyimages]

お酒を飲まないのに無理やり会社の飲み会に参加させられ、「この時間に残業していれば2404円稼げるのに…」と頭の中で計算するシーンでは、家庭の事情で節約せざるをえない純のキャラクターがよく表現されていた。「お金」という誰もが当事者性になりうる題材だからこそ、それぞれの登場人物がぐっと身近に感じられたのではないだろうか。

三浦春馬が見せた演技の巧みさ

そして、三浦春馬という俳優のチャーミングさを改めて感じさせられたドラマだった。浪費家で能天気な慶太は、ともすると視聴者の反感を買いかねない。けれどウザさを感じさせず、くしゃっとしたスマイルでダメダメな慶太に愛嬌を持たせるのが、俳優・三浦春馬の演技の巧みさだ。

随所で口をへの字にするなど、コミカルな表情もお手のものだった。無言でジェスチャーしながら母親からの差し入れを開けるシーンはむくれた表情とメリハリの効いた動きで笑いを誘い、逃げる純を追いかける場面ではまるでアニメのキャラのように走り出す前に小さくジャンプするなど、作品のカラーに合わせて身のこなしまで鮮やかに変えてしまう、俳優としての幅の広さを見せつけた。

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2015年 実写版映画『進撃の巨人』ワールドプレミアでの三浦春馬[Photo by gettyimages]

台詞の緩急も絶妙で、普段の会話では少し高めな声で慶太の天真爛漫な性格を表現している。一方「今でも父さんはことあるごとに会社を辞めろって」「俺、昔からあの人に信用されてないんだよね」など内面がうかがえる台詞はぐっとトーンを落とし、陰影を強調することで、慶太がただのお気楽な御曹司ではないことを印象づけた。

また、別れた恋人・聖徳まりあ(星蘭ひとみ)の肩にもたれかかり、上目遣いで甘えるシーンは、女性視聴者のハートをがっちり掴んだのではないだろうか。現実を忘れて胸キュンできるラブコメの醍醐味も満喫させてくれた。シーンごとに求められている演技を的確に理解し、期待以上の出来で応える三浦春馬の実力が、1話だけでも存分に発揮されていたと思う。

様々な役で光る、三浦春馬の幅広さ

優れた役者は、作品のテイストを選ばない。シリアスなものからコメディまで自在にその顔を使い分ける。先月放送された『太陽の子』(NHK)で彼は陸軍の下士官役を演じ、戦争に翻弄された等身大の若者を見事に演じてみせた。

一方『おカネの切れ目』では、正反対のキュートでライトな役柄だが、どちらも違和感なく馴染んでしまうところが、三浦春馬が演技派と呼ばれる所以だろう。今後も彼が出演する映画は順次公開されていくが、生前最後に撮影されたのが『おカネの切れ目が恋のはじまり』だ。俳優・三浦春馬の実力を証明しているこの作品が、彼の「最後の演技」の場になってよかったと思う。

本作は全4話の予定だ。三浦春馬の出演シーンはそのまま使用し、代役は立てず、一部脚本を書き直したうえで物語を完結させると放送前に発表された。本来の筋書きを変更する以上、物語に何らかの綻びが出てしまうことはやむを得ないかもしれない。けれど、非常に幸先のいいスタートだったため、この世界観が損なわれることなく完結してほしいと願ってしまう。

原作がないオリジナル作品だけにどうやって着地させるかは脚本の大島里美の力量にかかっているが、その点でも最終回まで見逃がせない作品となりそうだ。また三浦春馬の死が突然すぎたため、監督やその他のスタッフ、そして他のキャストたちにも、表には出てこない様々な葛藤や苦労があったはずだ。それでも、この作品を世に残したいと決めた、制作陣の決断に心から感謝したい。

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