怒鳴らずに生きていけるようになったDV加害者が「生まれ変わった」と言える理由

怒鳴らずに生きていけるようになったDV加害者が「生まれ変わった」と言える理由

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2021/11/25
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暴力的な態度でしか気持ちを伝えられなかった

コロナ禍で注目が集まった、家庭内暴力(DV)。内閣府の男女共同参画局の令和3年度公表の調査(※1)によれば、女性のおよそ10人に1人が、配偶者(事実婚や別居中の夫婦、元配偶者の相手も含む)などからくり返し暴力を受けている。

暴力によって、被害者やその子どもには、心に深い傷が残り心身の健康障害が引き起こされることもある。「加害者を絶対に許せない」「DV加害者は更生するはずがない」といった厳しい言葉が向けられるのは当然のことだろう。一方で、被害者が逃げるだけの対策には限界があり、DVを防ぐには加害者への対応こそ重要という指摘もある。

DV当事者は、そうした声をどう感じているのだろうか。引き続き、DV離婚の経験がある池田光一(39歳・仮名)さんに、加害者としての想いを聞いていく。第3回目の最終回は、DV加害者プログラムの実際や、DVはどうしたらやめられるのか、DVをなくすには何が必要かについて聞いた。

「相手に何かをして欲しいと思うとき、私は暴力的な振る舞いでしか気持ちを伝えられない人間だったと思います。その後、自分の加害性に気づけたことで、穏やかな気持ちで人と接することができるようになりました。元妻に会って謝りたい、でももう遅いのです」

池田さんは、父親になり子育てをすることが夢だったこともあり、最初はなかなか離婚に応じられなかった。その後何度目かの協議を経て離婚。結婚生活は約10年間。家族3人で暮らしていた家に今は1人で暮らし、後悔と反省の日々を送っている。子どもとの面会は月に1度。妻とは離婚以来、ほとんど言葉を交わすことはない。

※1:身体的暴行、心理的攻撃、経済的圧迫及び性的強要のいずれかの被害経験についての調査(内閣府「男女間における暴力に関する調査」令和2年度)

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池田さんはひとり、過去との自分と向き合っている。photo/iStock

第1回目の記事はこちらへ
『DV加害夫の告白「楽しいはずのキャンプ、私は子どもの前で妻を蹴り飛ばした」』

第2回目の記事はこちらへ
『包丁を持ち出す母、罵声を浴びせ暴れる父。親のDV見て育った過去』

※文中にはDVの具体的なシーンが出てきます。DV被害に遭われた方やフラッシュバックの可能性がある方はお気をつけください。

「妻との連絡はNG」でも送った言い訳メール

新婚当初から元妻へ繰り返された池田さんの暴力は、不機嫌になる、無視する、ものを投げる・壊す、顔に唾を吐くというものだった。最終的には、肩を強く押す、蹴るという身体的暴力に至った。子どもの前での面前DVもあった。別居する前に妻から「あなたはDVをしている。加害者プログラムを受けてほしい」と言われたが、反発した。池田さんの気持ちが変わったのは、妻子が出ていってから数週間が過ぎた頃だった。

「すぐに戻るだろうと思っていたら、一向に戻ってこない。これはまずいとようやく気づいて、週に1度のDV加害者プログラムに通い始めました。ただし、最初のころは、別居という事実や、離婚になるかもしれないという恐怖に向き合うので精一杯。自分が変わりたいというよりも、元妻に戻ってきてほしい一心でした。

妻から、『直接、連絡を取らないでほしい。弁護士を介してほしい』と言われていました。けれど、最初の頃は自分を抑えきれず、言い訳めいた思いを伝えたりして、何度もメールを送ってしまいました。その後、妻からDV加害者プログラム主催者に連絡が入ったようで、『やめてください』と言われました。今思えば、妻にさらなる恐怖心を与えてしまい、本当に申し訳なかったと思います」と、池田さんは打ち明ける。

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妻とコンタクトしてはいけないというのに、送ってしまったメール……。photo/iStock

DV加害者プログラムとは、一般的に加害者の不健全な価値観や思考を変えていくための教育プログラムのことだ。受講したプログラムは、週1回2時間のグループワーク。1時間は、夫婦間のDVの事例が書かれたプリントを読んで、背景にある夫や妻の気持ち、子どもへの影響などを学んでいき、感じたことを話し合う。もう1時間は、前週の振り返りとして1週間をどう過ごしていたかを、他の受講者の前で話す時間に充てられた。そのほか、個人で予約を取りカウンセリングを受ける機会もあった。

プログラムを受講してどう変わったか聞くと、池田さんは「すごく大きいのは、初対面の人にも、普段の自分の状態で自分の経験を話せるようになったこと。以前なら、動悸やめまいがして、クラクラするような状態になっていたと思います」と答えた。

内面でくすぶっていた自己否定が暴力の引き金に

以前の池田さんは、人前で自分のことを話すことが怖くてたまらなかったそうだ。大学時代のゼミでのこと、半年以上一緒にやってきた仲間内で原稿を読むだけなのに、声の震えが止まらなかった。加害者教育プログラムで発言するときにも、ひどく緊張して落ち着かなかった。

「プログラムでは、私の犯した加害と生育歴とのつながりなどについて考える授業もあって、自分自身が両親から虐待を受けていた過去にも向き合うことができました。そこでわかったのは、親から虐待を受けた(第2回の記事参照)ことは多少なりとも私の性格や態度に影響し、私は自己否定がとても強い人間になったということです。そんな自分を認められず、常に虚勢を張って生きていた。『自分を良く見せたい』と、過剰に反応してしまっていたのだと思います。

どんなに親密な間柄にも、境界線は必要です。処理できない感情を他人にぶつけることは、モラハラやDVにつながると、今ならわかります。ですが、結婚生活では『なぜ、妻なのに自分を否定するんだ』という、被害者意識すら感じていました。私は妻を一人の人間として大事にできなかった。妻が感じていた怖さや苦しみついてもわかっていませんでした。

このプログラムを受けなければ、自分の正直な気持ちを知ることや、気持ちに蓋をしていることにも気づかないまま生きていたでしょう。他者との良好な関係をなぜ築くことができないのか。その原因がわかったことは、すごく大きいと思っています」

許す・許さないは相手に委ねるしかない

プログラムを通じて、自分を否定する気持ちが次第に薄らいでいくと、周囲の人に対する態度も変わっていったという。

「例えば、夜中にコンビニに行き、コロッケを買おうとしたけれど売り切れていたとします。昔の私だったら『コロッケをください』と言い、『作れない』と言われると不機嫌な態度を店員さんにぶつけていました。それが『今からお願いしたら作ってもらえますか』と聞けるようになりました。その際『作れない』という返事だったとしても、『そうですかわかりました』と受け流せるようになりました。私自身の経験からも、加害者向けのプログラムや学ぶ場はあったほうがいい。いや、もっともっと必要だと思っています」

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怒りや不機嫌な態度をコントロールできるように変わってきたという。photo/iStock

今なら、以前のようにすぐに腹をたてたり、感情的になったりすることはない。元妻と話しても、きっと穏やかに対応できるだろうという自信がついたという。

「ただ今の状況は、一人壁打ちテニスをしているようで、少し寂しいです。許されるなら妻にきちんと謝りたい。でも、許す・許さないは相手が決めること。それを相手に求めるのは間違っていると思えるようになりました」と、池田さんはいう。

加害者にも相談窓口を。当事者だからこその想い

DVは、被害者やその子どもを大きく傷つけ、加害者を含む関係者の一生を大きく変えてしまう。DVによって家族が崩壊しそうになった時、加害者への対応はどうあるべきなのか。DVをやめさせることはできるのだろうか。

子どもを愛していた池田さんにとって、子どもに思うように会えない現状は耐え難い。人の内面をもっと深く知りたい、心理学も学んでいきたいと考えている。今も立ち直りの真っ只中にいる中で思うのは、「DVは絶対に間違っている。でも『加害者は絶対に変わらない、変わろうともしない』と決めつけてしまうのも間違いなのではないかと思うようになった」ということだ。

「なぜなら自分もそうでしたが、親密な関係だからこそ、自分の思い通りになってほしいと相手に望むことはよくあるからです。その結果、激しい暴力はなくても、相手を正そうとしたり、精神的に追い込むといったことをしてしまう、という関係性はよくあると思うんです。

現状では、主に女性のDV被害者用のシェルターや相談ダイヤルなどが主な支援となっていますが、まだまだ支援の手が足りていないと思います。同時に、DV加害者が相談でき、カウンセリングなどにたどり着ける場所も必要だと感じています。私がそうだったように、誰にとっても生きづらさや苦しさがあって、それに対して何もしないことが、さらなるDVを産むことにつながってしまう。

DV加害者の多くは私と同じく男性で、男性用の相談先が用意されていないということは、裏を返せば、社会の中に『成人男性は相談を必要としていない』、または『相談先は必要ない』『他人に相談するなんて、弱い人がするものだと』という、思い込みがあるからではないかと思うのです」

DVは、当事者間での話し合いだけでは解決にはなかなかいたらない。
「私はとても後悔しています。私のような思いを繰り返さないためにも、別れると決める前に、第三者の助けを借りることが大切だと思います。そして、当事者が自分のDV的思考に気づいて、それに陥らないように訓練を積むしかありません。そのためにも、まずは悩みを打ち明け、心を開くことができる場所や相談できる先を作ることが、新たなDV被害を受ける方を減らすことにつながると思うのです。それは同時に、子どもを両親間の暴力や争いから救うことにもなると信じています」

「DV加害者を助けるなんて」という批判の声もあるかもしれない。被害者を守ることがもちろん第一優先であるべきだと思う。でも、それと合わせて、加害者が二度と加害者にならないようにすることも重要だ。さらにいえば、加害者となりうる人たちが支えられて、加害行為に及ばないような環境も大切だ。

加害者側がDVをやめていくには、気づくことができる場が必要なのだ。「誰かとつながること」が、この世で生きづらさを抱えているすべての人に必要な支援になるのは確かだ。

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被害者も加害者も助けを求め、相談できる環境を作ることDV撲滅には必要だ。photo/iStock

第1回目の記事はこちらへ
『DV加害夫の告白「楽しいはずのキャンプ、私は子どもの前で妻を蹴り飛ばした」』

第2回目の記事はこちらへ
『包丁を持ち出す母、罵声を浴びせ暴れる父。親のDV見て育った過去』

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