豊かさの意味を知る、どんな場所で、どう暮らしていきたいのか。年齢もキャリアも重ねてきたプレシャス世代にとって、それは豊かな人生を送るための、大切な選択のひとつ。雑誌『Precious』6月号では、南仏の小さな街で暮らすことを選んだ3人の穏やかで、より自分らしく過ごす日々を取材しました。
今回は、テキスタイルデザイナーのアンジェリカ・ステゥデルさんのお住まいをご紹介します。
アンジェリカ・ステゥデルさん
インテリアデザイナー
(Angelica Steudel)ドイツのアートスクール卒業後、ドイツ版『VOGUE』のグラフィックデザイナーとして活躍。数年後パリに移り『ELLE』『FIGARO』などでアートディレクターを務める。現在はユゼスでギャラリー「ARTWORK」を経営。自身がデザインした服や小物、セレクトしたアイテムを扱っている。
「パリの喧騒から離れ、文化と歴史、自然の中でストレスフリーに。穏やかな時間を過ごしています」
ユゼス城やマルシェが立ち並ぶ広場にほど近い、街の中心地に佇む3階建ての一軒家。コロナ禍にパリのアパルトマンを引き払い、この家に移住を決めたアンジェリカさん。

アンジェリカさんの家とギャラリーは、共にユゼス市街に。「毎日、歴史的建造物が立ち並ぶ、石畳の路地を行き来するのも楽しいんです」。愛猫のキウイ君と。階段を登り降りする姿もかわいい。
「パリの人の多さや騒音が気になって、静かで自然豊かな場所にもうひとつ拠点が欲しいと思ったとき、ふとイギリス人の友人が住んでいたユゼスを思い出したんです。物件を探し始めてから1年後、この家と出合いました。1626年に建てられた歴史的建造物で、室内の石壁の美しさにひと目惚れし即決。街の中心地にもかかわらず、静かでたっぷりと光が回る構造も気に入っています」

明るくモダンなサロン。もともとの石壁と、白い壁を生かして、ライブラリーも白に。家具はほとんど、パリのアパルトマンから持ってきたもので、北欧家具が中心。「ミッドセンチュリー家具でも1960年代のものが好み。イサム・ノグチの照明も好きですが、どちらもシンプルで飽きのこないデザインだからこそ、パリでもユゼスでも合うのだと思います」
4年前から、この家と、パリのアパルトマンとの二拠点生活をスタートさせましたが、コロナ禍を機に完全移住を決意。パリでは30年にわたって『ELLE』や『FIGARO』などのモード雑誌でアートディレクターを務めていましたが、現在は趣味のクリエイション活動として行っていたテキスタイルデザインや服のデザインなどを中心に、ユゼスで自身のギャラリーを経営しています。

石畳の路地
「パリでは会社勤めでしたが、ユゼスへの移住をきっかけに独立。好きなことを仕事にしたことや、自分の時間を自分でつくることができたことで、仕事中心の生活から解放され、ストレスが軽減されました」

愛猫のキウイ君
朝、自宅のマシンでエクササイズ後、サロンで新聞に目を通したら、10時過ぎに近くのギャラリーへ出勤。ランチ後、アポイントがなければ一度自宅に帰ってシエスタ(昼寝)後、再びギャラリーへ。18時には帰宅、ヨガをしたり、絵を描いたり…。
「ディナー後は、夫と映画鑑賞や散歩を楽しみ、0時前には就寝。穏やかでクリエイティブな日々です」
「豊かな自然と文化的な側面が共存。そのバランスのよさがユゼスの魅力かもしれません」

家で唯一、手を入れたのがキッチン。「毎日使う場所ですから使い勝手を考えて、全面的に改装しました。天井の低さが気にならないよう壁と天井は真っ白にして、対面式カウンターで抜けをつくり開放的な印象に。ハリー・ベルトイアのチェアとテーブル、モダンなアートで軽やかな空間にしました」
間口が狭くて奥行きがあるという、ユゼスの典型的な建築様式の一軒家。その構造を生かし、キッチン以外大がかりな改装はいっさいなし。3階まで続く階段の壁や踊り場をアートやオブジェを飾るスペースとして有効活用しています。
また、随所に施された趣のある石壁を引き立てるのは、アンジェリカさんが長年愛用する、シンプルかつニュートラルな色とデザインの北欧家具たち。さらに、朝、昼、夜で表情が変わるサロンや仕事部屋、ゲストルーム、テラスなどを行き来しながら、一日を過ごしています。

アートディレクター時代から、山本耀司氏や三宅一生氏との仕事を通じて、日本の文化に興味をもち始めたというアンジェリカさん。「日本の職人の高い技術やものづくりの姿勢、洗練された仕上げ、時代を超えても褪せない普遍的なデザイン。すべてのエッセンスが好きです。日本の古い家具やイサム・ノグチの照明など、随所に日本的な香りをアクセントにしたスタイルを楽しんでいます」

壁の墨絵アートは、アンジェリカさんの作品。

シンプルで機能的な仕事部屋
「ユゼスは、イギリスやアメリカ、オーストラリアなど、海外からの移住者が多く、国際色豊かです。地方都市とはいえ文化的な意識が高く、南仏なのに海沿いの避暑地のようなバカンス客も少なく、とても静か。路地を少し歩けば、自然公園のユールの谷があり、散歩するだけで気持ちが整います。豊かな自然と文化的な側面がバランスよく共存している点が気に入っています」

石壁の階段や踊り場のスペースには、旅先や蚤の市で手に入れたオブジェやアートを飾って。モノトーンの作品が好み。

ドットのボックスは、真っ白なものにアンジェリカさんがペイント。

踊り場のスペース

日本の茶箪笥はパリの蚤の市で購入。こちらの照明もイサム・ノグチ。

ギャラリーにて。絞りのような大きな柄のテキスタイルもアンジェリカさんがデザイン。

愛猫キウイ君の憩いの場、テラスではお茶をしたり読書をしたり。植物の手入れは旦那さんが担当。

ゲストルーム。鎧戸を閉めれば静かな空間になるため、午後のシエスタはこちらで。
アンジェリカさんのHouse DATA
●場所…ユゼス市街の中心部。
●建物…1626年に建てられた歴史的建造物。3階建て。
●間取り…ダイニングキッチン、サロン、主寝室、ゲストルーム、仕事部屋、テラス、バスルーム、トイレ。
●家族構成…夫と保護猫のキウイ。
●訪れる頻度…4年前からパリと二拠点暮らし。コロナ禍を機に、完全移住。
●ここに決めたいちばんの理由…自然豊かで静か、文化的意識が高い場所だから。建物は、室内の石壁の美しさと、光がたっぷり入る明るさに魅せられて、即決。
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