敗色濃厚の五輪に看護師「動員令」、悲しきかな大戦末期に瓜二つ

敗色濃厚の五輪に看護師「動員令」、悲しきかな大戦末期に瓜二つ

  • JBpress
  • 更新日:2021/05/03
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4月23日、首相官邸で記者会見を開き、25日から東京、大阪、兵庫、京都の4都府県に緊急事態宣言を出すことを発表した菅義偉首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

(作家・ジャーナリスト:青沼 陽一郎)

『釣りバカ日誌』という漫画がある。シリーズ映画化もされて大ヒットした。そのタイトルにもあるように、本当にそのことが大好きで熱中してしまう、肯定的な意味で「バカ」を使う例だ。一方で、熱中するあまり、社会的な常識や一般的な配慮に欠ける側面もあわせ持つ。同作ではそこが笑いを誘った。

東京オリンピックまで3カ月を切って、3回目の緊急事態宣言が発出されているいま、どうしても東京オリンピックを開催したい「五輪バカ」の暴走が目立ってきた。もはやその言動が失笑を買っていることにも気付いていなようだ。

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「選手やコーチに毎日検査」で安全確保実現の腹積もり

東京オリンピック・パラリンピックに参加する選手などに、新型コロナの感染防止に必要なルールをまとめた「プレーブック」が更新されたのは、大型連休に入る前日の4月28日のことだった。国際オリンピック委員会(IOC)や東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会が作成したものだ。

それによると、日本への出国前96時間以内に2回の検査を行うことや、入国後は選手、コーチのほかに帯同する関係者も、原則として毎日、検査を受けることなどが明記されている。今年2月に公表されたものより、検査体制が強化されている。それで菅義偉首相が標榜する「安全安心な大会」を実現するつもりらしい。

だが、そもそも「安全安心な大会」だったら、毎日の検査は必要ない。安心できないから、毎日の検査を義務付ける。もはや「安全ではない」ことを示しているに等しい。

いつの間にか消えた「新型コロナに打ち勝った証」の宣言

今年1月には、菅首相が国会における施政方針演説で、こう明言していたはずだった。

「夏の東京オリンピック・パラリンピックは、人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証として、また、東日本大震災からの復興を世界に発信する機会としたいと思います」

それが、4月の日米首脳会談のあとに公表された「日米首脳共同声明」では、「バイデン大統領は、今夏、安全・安心なオリンピック・パラリンピック競技大会を開催するための菅総理の努力を支持する」とある。いつの間にか「安全安心な大会」に置き換わっている。それでシラを切っている。

休んでいる看護師をも「動員」

大会組織委員会が日本看護協会に、大会の医療スタッフとして看護師500人の派遣を要請していたことを明らかにしたのは、4月26日の会見でのことだった。3回目の緊急事態宣言が発出されている現状からすれば顰蹙を買っても仕方ない。現場の看護師からもSNS上などで反対や批難の声があがった。

ところが、この件について菅首相は、4月30日に記者団の問いかけにこう答えている。

「看護協会の中で、現在、休まれている方もたくさんいらっしゃるというふうに聞いていますので、そうしたことは可能だというふうに思っています」

だったら、緊急事態宣言が発出されて、大阪府が医療崩壊の危機に直面しているいまこそ、協力を求めるべきではないのか。休んでいる看護師にもそれぞれ事情はあるはずだ。これは明らかに「動員」を示唆している。

「安心安全を最優先」でも「中止」や「延期」は選択肢になしか

そうした中でも、聖火リレーは続けられている。だが、各地で公道を走ることが中止され、観客もなくひたひたと聖火が渡っていくだけ。いったい、どこの誰のための聖火リレーが日本を縦断しているのだか、まったくわからない。

そもそも、今年2月に女性蔑視発言で森喜朗・前組織委員会会長が辞任して、橋本聖子氏が後任の会長に就任すると、理事会における女性の割合を40%以上にすることを提唱し、新たに12人の女性理事が就任した。これにあわせて組織委は定款も変更し、理事数の上限を35人から45人に引き上げた。それで女性の比率は20%から42%となった。

だが、それだけ人が増えたことで、それまでの1人当たりの発言時間が短縮される。以前の発言時間を維持しようとすれば、会議が長くなる。それで充実した議論が尽くせるのか。ただ増やせばいいというものでもない。中身の問題だ。人が増えたところで、現状に異論や批判が出ないとすれば、首を傾げたくなる。

その橋本会長は、看護師500人要請を認めた直後の28日、IOCなどとの5者会談で、「医療に支障を来すような状況になったら、安心安全を最優先するため『無観客』を決断しないといけない」と発言したとされる。

いや、「安心安全を最優先」なら「無観客」ではなく、延期や中止だろう。

無観客で、海外から来た選手は関連施設に隔離して毎日、検査を実施する。北朝鮮のように新型コロナ対策を理由に選手を派遣できない国も増えてくるはずだ。出場国は限られ、規模は縮小され、当初の経済効果も見込めず、オリンピックとも呼べないような大会を日本で開催する大義が見えてこない。新型コロナウイルスの感染拡大で苦役を強いられる現状で、国民がいっしょになんて喜べない。それとも、3カ月後には新型コロナウイルスが消えてなくなるという保証でもあるのか。ないから毎日の検査が必要とされる。

敗色濃厚を察知しながらも泥沼に突っ込んでいった大戦末期と同じ道ではないか

「五輪バカ」には、中止という選択肢はない。主催者側に立てば大会を実行することが目的となる。とにかく「やった」「やってみせた」という実績と歴史を残すことに意固地になる。それがあちらこちらでハレーションを生む。

かつての日本が敗戦へと突き進んだ道。奇襲攻撃に成功して歓喜したまではいいが、やがて戦局が変わり、本土が空襲され国民の多くが犠牲となっても「戦争バカ」の指導者たちは戦争を止めるとは言い出さなかった。領土と国民の生命、財産を守るという軍隊の本分を見失っていた。敗色濃厚となっても、学徒を動員し、特攻で多くの若者の命を引き替えにした。

それどころか、看護師500人の動員をこの期に及んで求めながら「休んでいる人がいるから大丈夫」とは、「食料は現地調達できるから大丈夫」と兵站を甘く見た敗因に通じる。最前線で戦っている人間だけが、その過酷さを知る。

国民が昨年に引き続き、この大型連休中も我慢と苦難を強いられながら、それでも東京オリンピックはやるというのなら、その決意は「戦争バカ」と変わらない。

青沼 陽一郎

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