“飯テロ”エッセイ『きょうの肴なに食べよう?』『キッチハイク!突撃!世界の晩ごはん』、日常のなにげない「おうちごはん」が愛おしくなる

  • サイゾーウーマン
  • 更新日:2021/02/23

――本屋にあまた並ぶ新刊の中から、サイゾーウーマン読者の本棚に入れたい書籍・コミックを紹介します。

どの国に住んで、どんな暮らしをしていても、生きていれば欠かせない「食」。食事は世界共通の楽しみだ。外食もままならないこの時期、自宅で作るなにげない日常の食事とあらためて向き合った人も多いだろう。今回は、海の向こうの“日常の食事”を通して、読後には日々の食事がもっと愛おしくなる“飯テロ”なエッセイ3作を紹介したい。

■『きょうの肴なに食べよう?』(著:クォン・ヨソン、翻訳:丁海玉/KADOKAWA)

【概要】

韓国の人気女性作家がつづるリアルな韓国の食エッセイ。腸詰め、ギョウザ、ノリ巻き、お粥と塩辛、水冷麺、激辛青唐辛子……。どんな食べ物にも、味の中には人と記憶が潜んでいる。韓国の人気作家が綴る韓国の食エッセイ。

韓国好きは必見の『きょうの肴なに食べよう?』

『きょうの肴なに食べよう?』は、ソジュ(韓国焼酎)をこよなく愛する韓国人女性作家による、日々の食にまつわるエッセイ。日本でも定番的人気を誇る韓国料理だが、本作に出てくる食事は、韓国料理店に出てくるようなメニューよりもっと日常に根差したものだ。ごく普通の韓国女性が、自宅の冷蔵庫に置いてある食材で作ったり、普段着で出かけるような飲食店で食べる、飾らない食事の様子が季節を追って生き生きと綴られている。

もともと病弱で偏食家だった著者の食生活は、大人になり酒を覚えたことで急速に発展する。今まで食べられなかったものが、「酒の肴」として愛すべき食材に変わっていったのだ。彼女にとってすべての「家ごはん」(=家で作って食べる食事)は、ソジュをおいしく飲むための酒肴だ。料理好きの著者による派手ではないが豊かな食生活や、食べ物にまつわる思い出はどれも食欲をそそられる。

美しい大人の女性がかぶりつく、切り分けられていないノリ巻き(キムパプ)、夏場に母を思い出しながら調理する作り置きメニュー、中学生の時に友達とケンカしたまま食べたピビン冷麺とオムク麺、選挙の時だけ必ず作って食べるスルメの天ぷら――日本では聞きなれない料理や食材も頻出するが、著者が食を通して紡ぐ思い出と見知らぬ味は不可分に絡み合い、不思議と鮮やかな印象を残す。韓国料理に詳しくなくても、著者とともに食べたような感覚を覚え、知らず知らずのうちに読者自身が眠らせていた食の思い出も掘り起こしてくれるだろう。

そんな少女時代の食卓の幸せもふんだんに語りつつ、単純に家庭食の礼賛では終わらないところも本作の魅力だ。「家ごはんの時代」の章では、幼少期に著者の味覚を育ててくれた母親が宗教に傾倒し、戒律によって肉類や香味野菜が食卓から消えた経緯が淡々と綴られる。著者が日々の食卓を再び愛せるようになったのは、20代後半に一人暮らしを始め、半地下の部屋で小さな自分の台所を持つようになってからだ。

「家ごはんは絶対おいしい。そう信じる人は幸せな人に違いないが、正しくはない」と語る彼女にとって、「家ごはん」の幸せはよくある“おふくろの味”を意味しない。そこには自分で食べるものを自身でコントロールする喜びが含まれているから、彼女のエッセイにはからっとした自由があり、国境を越えて普遍的な共感を呼ぶ。食にまつわる甘い思い出も苦い思い出もまとめて、複雑な深い味わいを楽しめる1冊だ。

【概要】

「あなたの家のごはん、食べさせてもらえませんか?」そんなお願いを世界中でくり返し、インターネットや知人を介して世界各地の一般家庭におじゃまして、見て食べて体験した、普段のおうちごはんと人々の暮らしを綴った紀行エッセイ。2017年に単行本化されたものを文庫化に当たり分冊化。エピソードを厳選し、未収録コラムも加えて再編集されている。

『キッチハイク! 突撃! 世界の晩ごはん』シリーズは、約1年半をかけて世界120都市をめぐった著者が、各国の「ふつうの人が暮らすふつうの食卓」を訪ねて食事を共にした探訪記だ。キッチハイクとは、「旅先の見知らぬお宅を訪ねてごはんを食べる、言語や国籍、宗教の違う人たちと食卓を囲む、いわばキッチンをヒッチハイクする」行為を指す、著者による造語。『アンドレアは素手でパリージャを焼く編』には16カ国、『ソフィーはタジン鍋より圧力鍋が好き編』には15カ国を巡ったエッセイが収録されている。

世界各地に旅行すれば、その国の名物料理を口にする機会は多いものの、意外と「家庭では何を食べているのか」については知らないことも多い。多くの日本人が普段寿司や天ぷらばかり食べているわけではないように、アメリカでは、ボリビアでは、フィリピンでは、ポルトガルでは……などなど世界各国では日々何が食べられているのか――その実際が、著者の「突撃」によって明らかになっていく。

モロッコで「タジン鍋は盛りつけ用。だって、時間かかっちゃうもんね」と圧力鍋で調理された料理を供されたり、ブルネイでは無味無臭の水あめのようで、噛んではいけない料理「アンブヤット」に困惑したり、オーストリアの高級住宅地に身構える著者を、全身真っ黄色のスーツを着てレッドブルを持ったハイテンションな男性が出迎えたり――。

料理も人も、前知識や見た目から連想する先入観通りの時もあれば、イメージを覆すようなケースもある。旅行が続くにつれ著者は次第に「○○人はこんな性質だ」という先入観を外していく。「現地の人と交流して、暮らしのど真ん中を知れば知るほど、『この国はこうだ! この街はどうだ!』なんて、決めつけられなくなる気がする」「先入観や偏見がすべて間違いとは言わないが、事実と異なることは山ほどある。皮肉なことに、目で見て確かめて知れば知るほど、物事をひと言で語れなくなる」という彼の知見は、いくつものエピソードを経て説得力を持って響く。

「同じ釜の飯を食った仲間は、たとえ一期一会でも、尊く深い絆を得る」と信じる著者のエッセイは、どの頁にも食事を共にするホストへの信頼、そして人間そのものへの愛情が詰まっている。そんな著者だからこそ、時には言葉がほぼ通じない国でも初対面から友人のように迎えられ、なんとなく台所に入って共に料理を作ったり、一晩泊まってしまうほど馴染んでしまうのだろう。

食事は栄養を補給する行為だが、同時に人間関係を親密にしてくれるコミュニケーションのひとつでもある。いち家庭に、言わば突然飛び込んだ著者と、それを懐深く受け止めた各国の人々が交わす優しさとユーモアに富んだ会話は、食事以上のあたたかさで読者を満たしてくれる。

コロナ禍で、他人との気軽な会食や海外旅行はしばらく困難な時代になった。けれども、きっと今日も世界中のテーブルにはそれぞれの国の「普通の食事」が並べられていて、私たちの食卓も、その多様な「普通の食事」のひとつだ。本作を読んだ後なら、どんなに今日のメニューがあり合わせで適当だったとしても、何気ない食事の時間を愛おしく感じ、より楽しむことができるだろう。
(保田夏子)

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