“イカれた番組”はどのように生まれたのか 『ここにタイトルを入力』首謀者・フジ原田和実の流儀

“イカれた番組”はどのように生まれたのか 『ここにタイトルを入力』首謀者・フジ原田和実の流儀

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  • 更新日:2022/05/14
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●視聴率の話が1回も出ない会議

バイきんぐ小峠を再び襲うカオスの世界…『ここにタイトルを入力』が仕掛ける笑いの伏線回収

バイきんぐ・小峠英二を縦分割して2番組に同時出演させ、監視カメラからロケ番組を作り、マジシャンがCMまたぎでトランプを切り続け、エリートサラリーマン役がパンツ一丁になり、恋の買い取りに芸人が感涙――毎週様々な企画が放送されるたびに「ヤバい番組」「イカれてる」とSNSをザワつかせるフジテレビのバラエティ番組『ここにタイトルを入力』。企画・演出を務める原田和実氏が、企画提出時入社2年目の若手だったということで、業界内でも注目を集めている。

この奇抜な企画はどのように発想して生まれたのか。また、「分かりやすさ」を追求するテレビの世界の中でどう割り切っているのか。そして、今後への展望とは。制作の舞台裏を含め、その流儀を聞いた――。

○■「どれだけ変化球を見せられるか」で6回に集中

フジの企画開発枠『水曜NEXT!』で、昨年11月25日・12月2日に2週連続の番組として誕生した『ここにタイトルを入力』。原田氏は企画募集で5本を提出すると、編成からGOサインが出て、収録済みのひな壇とリアルタイムのMCが掛け合う『バイきんぐ小峠の今夜もグダグダ気分』、番組放送中に視聴者意見を反映する『バカリズムの恋のお悩み解決TV』の2本が放送された。

これ以前に、『めちゃ×2イケてるッ!』総監督で知られる片岡飛鳥氏が企画構成を務めた特番『567↑8』で放送された劇団ひとりのフェイクドキュメンタリー『ハイパーハードボイルドひとリポート』や、『ただ今、コント中。』でディレクター経験はあるものの、番組全体を仕切る「演出」を務めたのは、その時が初めて。「裁量権の大きさもそうですが、何もかも全部自分で決めていくところの面白さがありました」(原田氏、以下同)と、その魅力にとりつかれた。

この好評を受け、4月に新設された深夜のチャレンジ枠『月曜PLUS』の第1弾として、6回限定レギュラーに昇格。バラエティではあまり例がない枠組みだが、「話を聞いた段階で、6回全部違う角度から面白さを提案できたらと思って、この番組向きの枠でラッキーだなと思いました。ゴールがある分、ひたすら詰めて詰めて、どれだけ変化球を見せられるかというところで頑張って考えました」という心境で臨んだ。

『月曜PLUS』は、SNSで話題になる企画などでブランディング向上を目指しており、そこまで視聴率が求められない枠という位置づけ。「正直、会議では視聴率の話は1回も出ないですし、Twitterの反響とか、TVerのランキングの話を少ししたらもう中身の話に移るくらいなので、そういう意味では“面白い”だけを考えられる環境で、すごく恵まれているなと思います」と充実の表情で語る。
○■「とんでもないカロリー」で制作したフワちゃんの街ブラロケ

毎回手の込んだ仕掛けで見るものを驚かせているが、特に大変だったというのは、レギュラー2回目の『フワちゃんの浅草のんびりツアー』。フワちゃんの街ブラロケの撮影データを消してしまい、監視カメラや野次馬の動画など映り込み映像で取り繕うというもので、「とんでもないカロリーがあったなと思います」と回想する。

「下見はめちゃくちゃ行きました。監視カメラの映像も全部こっちが仕掛けているものなので、『この角度からこう狙って…』『ここでこういうことが巻き起こって…』とか、ボケと場所の組み合わせなどを全部細かく計算して綿密に積み上げていって、編集も含めて本当に大変でした」

この中で特にSNSをザワつかせたのが、「マジックミラー号」で撮影しているカメラに、ロケをしているフワちゃんとナイツが映り込んだシーン。実は、レンタルする「マジックミラー号」がロケ当日に急きょ本業稼働することになってしまったため、このシーンだけ別日に収録している。監視カメラの日時から、ロケは3月28日に行われた設定だったが、4月7日に亡くなった藤子不二雄(A)さんの話を塙宣之がしていたのは、そのためだ。

思わぬアドリブで辻褄が合わなくなってしまったが、「あの画は絶対入れたいと思っていたんです。おかげでTwitterでもめちゃめちゃ反響が大きく、計算通りに行けて良かったなと思いましたし、労力をかけた分だけ反響があったのかなと思います」と、改めて絵力の強さを実感。

取材に協力してくれた店には、解像度の悪い映像や紙芝居で紹介することになることを念入りに説明しており、「こんなことに協力してくださった浅草という街の懐の深さはすごいなと思いますね」と感謝した。
○■伊集院光のアドリブに震えた恋愛バラエティ

「収録していて一番楽しかった」と挙げるのは、レギュラー5回目の『その恋、買い取ってもいいですか?』(TVer見逃し配信中)。「一般人の恋の告白に値段をつけて買い取る」なる番組に、1人だけ内容を理解していない霜降り明星・せいやが放り込まれ、何度もとんでもない空気にしてしまうもので、「スタジオの全員で長尺のエチュード(=即興劇)をするというヒリヒリ感があって、僕はめちゃくちゃ笑ってただけでした」と振り返る。

特にこの回では、タレントたちの力量のすごさを見せつけられた。せいや以外のメンバーには、「伊集院光:今までそんなに恋をしてこなかった分、きれいな恋愛が好きなので、ピュアな告白に高値をつける」「野々村友紀子:恐妻家な一面があるので、現実的な路線や将来性を見て査定する」といった裏設定や、「LOVE STOPを使うのはものすごい決断」「ラブモニュメントが光らないのは極めてレアケース」といった肌感を資料として渡し、それぞれの役割を演じてもらったのだという。

「伊集院さんの『ここはラブストかかってるんで』とか、『せいやくんはこの番組を分かってるのと同時に、ちょっと残酷だよね』とか、1個乗せてきてくださった発言は震えましたね。ホランさんの長コメントとかもそうですけど、この回は皆さんが自分の役割をひたすらまっすぐ演じてくださって、すごくしびれる収録でした」

●「テレビのテンプレートを崩して再構築する」
限定レギュラー化後は、(1)ダブルブッキングのバイきんぐ小峠を縦に分割して2番組同時出演、(2)ロケの撮影データを消失して街中の映り込み映像で取り繕う、(3)マジックのコンプラ見落としで1つのテーブルマジックを延々遠回りして見せる、(4)ドラマの予算ショートで露骨な費用削減、(5)1人だけルールを知らない恋愛バラエティに放り込まれ空気を読み違い続ける――というカオスな番組を放送してきたが、この奇抜な企画はどのように発想したのか。キーワードは「テレビのテンプレートを崩して再構築する」だ。

「もともと大学時代に演劇の脚本を書いてまして、それも普通の演劇っていうより、“演劇でできる遊び”ということで作っていた作品が多いんです。今とやっていることは全然変わってなくて、最初はそれっぽい芝居をやってるのに、実はみんなイス取りゲームをしている…みたいな、1個ギミックとか仕掛けとか、もともとあるフォーマットを崩して再構築していくものを作っていたんです。そういう目線で、エンタメだけにかかわらず、食とか広告とか物を見てメモするということを無意識的に習慣化している状況だったので、それをテレビに変えて、“テレビをこう崩して、こういう遊びをしたら面白いのかな”っていうことでひたすら企画を溜めていました」

だが、入社1年目から積極的に企画書を出し続けたものの、「君の企画は難解すぎる」と、“分かりやすさ”重視の地上波テレビとマッチせず、なかなか通らなかった。

そんな中で、深夜のチャレンジ枠というチャンスが到来。信念を曲げずに作った企画を放送してみると、その思いは視聴者にも届き、「やっぱり、こういうことを面白がってくれる余白があるというのを認識できて、良かったなと思います。あえてめちゃくちゃ分かりやすくするとか、変におべっかを使うみたいなことがどこまで必要なのかという中で、こんな企画をやってもいいんだと思いました」と自信になった。

○■説明しすぎない×気づいてもらうバランスを探る挑戦

一方で、「決して、視聴者を置いてけぼりにするという意思は全くないですし、最初から最後まで見たら分かるというものを作るように心がけているんです」と強調。この説明しすぎない、かつ面白さを広く視聴者に伝えるということのバランスは、どのように考えているのか。

「これが言葉として正しいのかどうかは分からないですが、僕の中で、“右脳的な笑い”と“左脳的な笑い”のバランスを見極めることで、言語化できていない新しい笑いの感情につながるような気がなんとなくしているんです。構成を練るときに、いわゆる左脳的な構造の面白さ、説明しない面白さ、考察的な面白さでどこまで引っ張って、どこから右脳的なバカバカしさや画で笑える感じとか、いわゆるお笑いのテンプレートみたいなところを出していくのか。ここまでは視聴者にこう思ってもらって、ここで気づいてもらって、ここから加速して……みたいな視聴者目線での“感情路線”というのを、結構意識して作ったつもりではあります。今回の『ここにタイトルを入力』の見せ方というのは、そこのバランスを探るという挑戦だったような気がしているんです」

入社1年目で制作した『ハイパーハードボイルドひとリポート』では、「売れたくない」という劇団ひとりと、その不誠実な態度が許せない原田氏が取っ組み合いのケンカを繰り広げるなどして大暴れしたが、最後に「はいOKでーす!」の声から本番後の演者の素の様子を映すことによって、その番組がフィクションであることを説明した。今回の『ここにタイトルを入力』ではそれを入れない選択をしており、バランスを探った結果、より視聴者を信じて制作しているようだ。

●“テレビ研究会”のように夢中になった会議

『水曜日のダウンタウン』(TBS)演出の藤井健太郎氏がTwitterで「混ぜてほしい」と興味を示していた会議は、どうなっているのか。

ベースの企画は原田氏が考えつつ、この6回レギュラー放送に向けて、『山田孝之の東京都北区赤羽』(テレビ東京)や『光秀のスマホ』(NHK)など話題作を次々に手がける竹村武司氏、『トゲアリトゲナシトゲトゲ』(テレビ朝日)や『しもふりチューブ』(YouTube)などを担当する23歳のさかもと良助氏という2人の放送作家とともにネタ出しを敢行。

「ちっちゃい会議室にずーっとこもって、ひたすらネタを出していくというのをやってましたね。竹村さんから『テレビ研究会じゃないんだから』って冗談で言われるくらい、僕は楽しかったです」と夢中になった日々を振り返る。

その後も、他のディレクターを交えて大喜利のように、細かいボケや展開を考える作業を進める中で、「さかもとさんとは細かい部分を結構詰めていきましたね。それこそ2人でいくつの夜を越えたんだろうっていうくらい(笑)」と没頭。その案を竹村氏に相談すると、また違う角度から返ってくることが多く、「竹村さんはやっぱヤバいなと思いました(笑)」と圧倒されたそうだ。

○■テレビというメディアの特性を生かした6回の配置

6週連続の放送ということで、放送順は相当熟考したのだそう。まず、「奇数回は人のリアクションを見て笑う回にして、偶数回は逆に完全に制作の作り込みや設定ボケで笑わせる」と、構造の違う番組が交互に放送されるように振り分けた。

その上で、「ちゃんと6本全部違う笑いの角度になる企画を考えつつ、初回はとにかく話題になることが大事なので絵力の強いものを選んで、後半戦の一発目にめちゃくちゃ大きい変化球になるドラマで『こんな手札もあるんだ』というのを見せて、番組に慣れてきてもらったところで、『その恋、買い取ってもいいですか?』のような訳の分からないものを流す感じで順番を組んでいきました」といい、テレビというメディアの特性を生かした配置がされている。

番組からは、「防犯カメラが至るところに張り巡らされた監視社会」「いつ誰に撮られているか分からない1億総カメラマン時代」(第2回)、「物事には曖昧な返事で臨んではいけない」(第5回)といった社会派メッセージが伝わってくるような気もするが、「あくまでゴールは笑いなので、それをメインにしてるつもりは全くないですが、企画を考えるプロセスでそういったニュアンスも含むことができるよね、程度では話していました」とのことだ。

●影響を受けたのは「シベリア少女鉄道」
奇抜な企画発想の背景を探るべく影響を受けたエンタメを聞くと、即答したのは、劇団「シベリア少女鉄道」。「あれを超えるものに出会ってないというくらい、めちゃめちゃ影響を受けていると思っています」と明かす。

幼少期はそれほどテレビっ子ではなかったというが、「フジテレビだと『トリビアの泉』はずっと好きで、本も全部買いましたし、テレ東さんの『ゴッドタン』もずっと見てましたし、『Peeping Life(ピーピング・ライフ)』とか、アニメ系も好きですね」という趣向。

また、くりぃむしちゅー・有田哲平とネプチューン・堀内健がタッグを組んだ『アリケン』(テレビ東京)も好きだった番組の1つ。この番組では、オープニングでディレクターが2人に企画説明するというのがパターンになっており、「人に言われて気づいたんですけど、今やってる演者さんとの打ち合わせから入るフォーマットは、『アリケン』の影響を受けているんじゃないかと、自分でも思いました」と話した。
○■テレビ離れ世代がテレビ局を志望した理由

特別テレビっ子でもなく、友人にもテレビを持ってない人が多い世代であり、演劇に打ち込んできた原田氏がテレビ局を志望したのは、どんな動機だったのか。

「演劇をやっているときも、僕の中では面白いものを作っているんだという思いはあったのですが、学生がやってる極小劇団なので、ロングランでやっても500人動員したら万々歳みたいな環境の中で、やっぱりもっといろんな人に見てほしいというのが、ずっと根っこにあったんです。そんな中で、演劇を続けたかったですし、大きなメディアであるテレビもやれる放送作家になればいいんだと思って、憧れの放送作家さんに弟子入りの手紙書いたりDMを送ったり、何かきっかけを探してフジテレビでアルバイトしたりしてたんですけど、そのうちにテレビ局に就職っていうのもあるのかなと思ってきて。シベリア少女鉄道を知ったのも、佐久間(宣行)さんがやってた『ウレロ』(テレビ東京)だったということもあったので、就活でテレビ局を受けました」

各局の入社試験を受ける中で、若手を積極的に登用するフジテレビの雰囲気に惹かれたという。

「バラエティの企画コンペで優勝した『99人の壁』の千葉(悠矢)さんが当時2年目だったというのを知って、若手の企画を見ていただける会社なのかなと思ったのと、インターンで『やっちゃえよ』みたいなノリの良さや底抜けの明るさを感じたんです。実際に入ってみて、『面白そうならちょっとやってみようか』という雰囲気になる会社だと思いますね」
○■テレビの発明“分かりやすく”も学びたい

SNSを中心に大きな話題を集め、業界でも注目される存在となった原田氏。今後の意気込みを聞くと、「本当に業界入ったばかりのペーペーの若手ですので、経験値も足りないですし、今回もどこまで笑いに昇華できたかというと、実は狙っていたところまでいけてない節もあったんじゃないかと反省している部分もあるんです。まだまだテレビでできる遊びもいろいろあると思いますし、いろんな番組に携わらせていただいてディレクターとしての経験値を積んで、自分の特性も何に向いてるかもまだ分かってないので、いろんなものに挑戦していけたらというところでございます」と謙虚に語る。

その上で、「“分かりやすく”というのは、テレビが長い歴史の中で積み上げてきた発明なので、ちゃんと学びたいと思いますし、そういうことだからこそできる番組も作っていきたいという思いもありますので、『ここにタイトルを入力』はこういう感じでご容赦いただければ(笑)」と呼びかけた。

6回シリーズの最終回となる16日の放送は、フットボールアワー・後藤輝基がMCを務める新感覚トークバラエティ『真夜中のおしゃべり倶楽部』と予告されているが、どんな展開が待っているのか……。

最近では、架空の国のテレビという設定で、架空の言語によって繰り広げられる番組『Raiken Nippon Hair』で「テレビ東京若手映像グランプリ2022」優勝を果たした大森時生氏(受賞時:入社3年目)など、独創的すぎる企画でSNSをザワつかせる若手制作者が頭角を現している。テレビがネットコンテンツに視聴者を奪われていると言われる中、彼らのような若いパワーで、テレビ発のコンテンツがより元気づくことを期待したい。

●原田和実1996年生まれ、静岡県出身。横浜国立大学卒業後、20年にフジテレビジョン入社。『ネプリーグ』のADを担当しながら、特番『567↑8』『ただ今、コント中。』でディレクター。企画・演出を務める『ここにタイトルを入力』がSNSや業界内で話題を集めている。

中島優

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