
第2次岸田改造内閣で内閣府副大臣(金融担当)を務めた藤丸 敏氏(撮影/門間新弥)
新NISAの立役者である内閣府副大臣金融担当の藤丸敏氏にインタビュー。「みんな裕福になってほしい」と話した。アエラ増刊「AERA Money 2023秋冬号」より。
※本記事の藤丸敏氏の肩書きは2023年9月15日現在のものです
2024年1月から新しいNISA(少額投資非課税制度。以下、新NISA)がはじまる。
制度改正が政府内で議論された当初、金融業界では「ゼロ回答やむなし」の雰囲気すら漂っていた。
それが、フタを開けてみると非課税保有限度額の大幅拡充や非課税保有期間の無期限化など、ほぼ「満額回答」であった。
藤丸副大臣に「新NISAを作ったのは、あなたですよね」と問うと、「いやいや、私なんて。一生懸命、いろんなところで言ってただけで」と謙遜された。
だが、この人の存在なしに新NISAは仕上がらなかっただろう。
■素案を考えたのは金融庁よ
「よくやれたな、ようやくここまでは来たな、というのが本音です」
藤丸副大臣は、新NISA開始の2024年を前に感慨深げだった。
株式や投資信託の値上がりや配当・分配金には原則として、所得税15%、住民税5%、2037年までは復興特別所得税0.315%と計20.315%の税金がかかる。
利益の約2割分が非課税になるNISAの強化は、税収減につながりかねない。
いくらNISAの「抜本的拡充・恒久化」と騒がれても、絵に描いた餅に終わるとの懸念が金融業界には漂っていた。
「素案を考えたのは金融庁よ。僕は『じゃんじゃん拡充しよう!』と、あちこち鼓舞して回ったんです。
いろんな意見があったけど、最終的に自民党の宮沢洋一税制調査会長も首を縦に振ってくださったわけで、本当にうれしい」
官僚と政治家の歯車ががっちりかみ合うと、いい政策ができる典型例である。
藤丸副大臣は福岡県南部の瀬高町で生まれた。実家は農家。1年間の浪人生活を経て、教員養成の名門・東京学芸大学に進み、教師として教壇に立っていたこともある。
「一旗揚げようと思って上京したんですが、大学はほとんど行っていません(笑)。
のちの自民党幹事長になる古賀誠先生の書生をしていたので。書生というほどかっこいいものじゃなく、実際は運転手。
古賀先生は高校の先輩でもあり、実家も近く、縁を感じます」

藤丸氏の後ろに映り込んでいる「つみたてワニーサ(NISA)」のぬいぐるみがかわいい(撮影/門間新弥)
当時、東京学芸大学の卒業に124単位必要なところ4年生までに取ったのが10単位だけだった。
裁判所事務官の試験をパスしていたので、そのまま就職する選択肢もあったが、「大学は出ておいたほうがいいという周囲のアドバイスを受けて、5〜6年生で体育も含めて残りの単位をそろえました」。
さらに大学院に入るため、経済と法律を一気に学んだ。
短期集中型で結果を出す藤丸副大臣のやり方には、このときの経験が生きているのかもしれない。
■普通の人がミリオネア
藤丸副大臣が政界の「長期投資応援団長」として知られるきっかけとなったのは、2018年のつみたてNISAの創設時だ。
「つみたてNISAの導入に向けて関係者をどう説得しようかと考えていたとき、誰かから『米国ではごく普通の仕事をしている、普通の人がミリオネアだ』っていう話を聞いたの。
401k(企業型確定拠出年金)が1978年に(内国歳入法に)追加されたでしょう。
そのあたりから30年以上、つみたてを続けてきた普通の人がいるわけですよ。
コツコツつみたてれば、投資のプロじゃなくても成功できるんだって。
『つみたてをしているアメリカ人はザラに1億持ってるんだ』って、自民党の会議で言いふらしましたよ。ザラにじゃないかもしれないけど(笑)」
ここで藤丸副大臣は「これ見て、ずっと使ってたやつなんだけど」と、取材陣の前にオリジナルの資料を広げた。
「1981年から、月100ドルを約40年で72万ドルなのね。
それを1ドル=140円で計算したら、毎月1万4000円を約40年で1億円を超えてくるわけ。
150ドル(2万1000円)だと多すぎるくらい。
このときのS&P500の40年間の平均利回りは複利でだいたい7%(配当なし、円建て)なの。
もうね、このグラフを見せて『だからつみたては必要なんだ』って説いて回りました」
藤丸副大臣は、米国株が上がり続けた理由の一つとして年金制度の移行もある、と語った。

霞が関の「つみたて投資応援団長」といえば藤丸敏氏(撮影/門間新弥)
「米国では1980年代に、確定給付型年金(DB)から確定拠出型年金(DC)に移行しました。
DBは企業が責任を持つから、将来支払う年金を債務としてバランスシートに計上する必要がありますけど、個人が責任を持つDCだと負債計上は不要だから、企業に受け入れられたんです。
その結果、米国ではDCを通じて継続的に株式市場へ資金が流入し、成長を続ける企業を後押しした。この仕組みは日本にも必要だ、と」
つみたて投資の必要性を理解しても、日本には値下がり損を敬遠する雰囲気が米国以上に強い。1円でも損はしたくない––––。
■株価が下がっても泣くなよ
そういう人にはね、と藤丸副大臣はオリジナルの資料をめくった。
日経平均株価がバブル期最高値をつけた翌月の1990年1月から、仮に毎月1万円ずつ日経225のインデックス型投資信託につみたて投資ができていた場合の試算結果が。
「2022年4月末時点で、つみたて総額388万円が695万円になってるでしょう。
元本割れの時期もありますけどね。相場っていいときもあれば悪いときもある。
つみたて投資をしている人は、株価が下がったからって泣くなよと言いたいんだな、私は」
藤丸副大臣が何度も繰り返すのが「日本株も、買いを強くしたいんだ」。
米国株は浮き沈みがあってもトレンドは右肩上がり。
「米国は毎月の給料からDCを経由して市場にお金が入ってくる。
日本でもNISAとDCのお金が継続的に流入すれば、需要と供給の観点から株価が安定する」
もっとも、株式市場に資金を誘導するだけでいいとは、藤丸副大臣は考えていない。
目指すのは「右肩上がりの市場」の実現に向けた仕組み作りである。
「株価が多少下落しても、長期では右肩上がりのトレンドに戻っていく、日本経済は成長していくという前提にしなければダメです。
DCとか公的年金がもう少し株式投資を増やせるようになる前提として、経済や株価のトレンドが右肩上がりになっていないと、運用側もリスクを取れない」
そのためには、人気企業が出てこないといけない。
「株価は結局、企業の人気を表すものですから。東証には投資家を魅了する人気企業が生まれるような施策を、とお願いしています」
■みんな裕福になってほしい
岸田文雄首相が「新しい資本主義」の旗を掲げる前から、藤丸副大臣は「本来の資本主義」をやりたかったという。
「金融には銀行を通じて企業に資金を融通する間接金融と、投資家が株式を通じて企業とつながり、投資家にリターンがダイレクトに届く直接金融があります。
本来の資本主義は後者です。株式市場をフル活用する直接金融が進んでいる国が米国や英国なんです」
藤丸副大臣は「株価が上がれば多くの人が幸せになります」と強調する。
株価上昇で個人の資産が増え、企業が株式市場で調達した資金を投資や研究開発に充て、日本経済の成長をもたらす。株価上昇は年金問題の改善にも役立つ。
「みんなに裕福になってもらいたいと思っています」
剣道、柔道などの趣味に加え、ピアノやドラムもこなす藤丸副大臣だが、最近はプライベートがほぼない。
「NISAの次はDC。改革は道半ばよ」と意気込んだ。
「日本も米国のように、市場に確実に資金を供給するDCを中心にしたい。そのためにもっと魅力的な制度にしないと」
iDeCo(個人型確定拠出年金)を含むDCも大改革となったら喜ばしい。藤丸副大臣が趣味の時間を取れない日々は続きそうだ。
藤丸 敏(ふじまる・さとし)/内閣府副大臣(金融担当)。1960年生まれ、福岡県出身。1985年、東京学芸大学教育学部卒業。1988年、東京学芸大学大学院中退。1980年より不定期で古賀誠衆議院議員事務所の書生。立正中学校・高等学校、本郷中学校・高等学校の政治経済教師を経て、1996年から古賀誠衆議院議員事務所の秘書、2010年から公設第一秘書。2012年、自由民主党福岡県第7選挙区支部長(現任)。国政では2012年に第46回衆議院総選挙で初当選。2014年に2期目、2017年に3期目、2021年に4期目当選。2022年から2023年「第2次岸田第2次改造内閣」前まで内閣府副大臣(第2次岸田改造内閣、金融担当)
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編集/綾小路麗香、伊藤忍
※『AERA Money 2023秋冬号』から抜粋
大場宏明