キャデラック「初のEV」LYRIQに見た納得の出来

キャデラック「初のEV」LYRIQに見た納得の出来

  • 東洋経済オンライン
  • 更新日:2022/09/23
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キャデラック初のBEV「LYRIQ(リリック)」(写真:ゼネラルモーターズ)

先日参加したアメリカ デトロイトで開催されたGM(ゼネラルモーターズ)のインターナショナルメディアイベントは、プルービンググラウンドで日本未発売の車両に乗れたり、R&Dセンターで次世代テクノロジーについての講義を受けたりという非常に充実した機会となった。

今回の目玉となるモデルはキャデラックの新型車、LYRIQ(リリック)である。電動化に舵を切ったGMの急先鋒として、2030年までに車両をすべてBEV(電気自動車)化するとしているキャデラックの最初のBEVだ。

リリックは完全新設計されたGMのBEV専用アーキテクチャー「Ultium(アルティウム)」を用いて生み出された。リチウムイオンバッテリーはLGエナジーソリューションとの合弁会社であるUltium Cells(アルティウムセルズ)製である。

コバルトの使用量を大幅に減らし、ニッケル配分量を90%以上にまで高めたNCMA(ニッケル・コバルト・マンガン・アルミニウム)正極材を用いて低コスト、大容量を実現するこのバッテリーは、パウチ型と呼ばれるセルを積層してパックする形式を採る。

先進的なスタイリングで登場

枚数を自由に変更できることからパッケージングの自由度が高いのも、そのメリット。車体の側も搭載パック数を自由に設定でき、電気モーター搭載位置、容量などもフレキシビリティが高いことにより、小型車から大型ピックアップまでさまざまな車型に対応できる。

リリックは、この新アーキテクチャーの採用を機に、キャデラックの新しいデザイン言語を全面的に採り入れた先進的なスタイリングで登場した。

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わかる人にはわかるキャデラックさを残しながら先進的なデザインを体現した(写真:ゼネラルモーターズ)

BEVの特徴を生かしたロングホイールベース&ショートオーバーハングの、4ドア+リアゲートのSUVのフォルムに、縦型のシグネチャーライトとクリスタルブラック仕上げのグリルを組み合わせたフロントマスク、リアウィンドーの周縁をなぞるように配置されたL字型のLEDテールランプなどを組み合わせた外観は、わかる人ならすぐにキャデラックと判別できるアイデンティティを失うことなく、しかし完全に新しいものとされている。

ドアを開けてまず目に飛び込んでくるのは対角33インチの大型ディスプレイ。長いホイールベースを生かして前後席ともにスペースがたっぷり取られていて、まさにラウンジのようなくつろぎ感だ。

興味深いことに、このエクステリアを手掛けたのはBobin Kil氏という社内の30代の韓国人デザイナーである。うかがうと、先日お披露目されたウルトララグジュアリーBEVのコンセプトであるCELESTIQ(セレスティック)は、日本人の杉之下貴彦さんが手掛けているなど、他にもデザインチームにはアメリカ人、フランス人、韓国人等々、国籍も年齢も性別もバラバラの個性が集まって、新しいアイデアを具現化しているのだという。

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「LYRIQ(リリック)」の内装(写真:ゼネラルモーターズ)

「人種のるつぼ」アメリカを象徴

まさに多様な個性が集まり、それぞれが認め合う中から生まれたエネルギーが、このアグレッシヴなデザインに昇華したわけだが、改めて感心させられるのは、それがキャデラックという長い歴史を持つアメリカを代表するブランドの話だということだ。いや、アメリカとはもともとそういう国だと言われればまったくその通りで、ハッとさせられたという話である。

もちろんデザイン部門というのは、そうした部分でもっとも進んだ部署に違いない。異なるバックグラウンドを持つチームで、皆が各々のキャデラック観を持ち寄り、すり合わせていくうちに、より深く、世界に通用するキャデラックらしさが醸成される。きっと、そんなデザインだからこそリリック、あるいはセレスティックは際立った存在感を発揮し得たのではないだろうか。

さて、そのリリック。試乗したのは最初に登場した後輪駆動モデルで、電気モーターの最高出力は340hp(馬力)、最大トルク440Nm。パウチ型セルを使うアルティウムバッテリーは容量102kWhで、航続距離は502kmとされる。尚、すでに前後2モーターのAWDモデルも発表済みである。

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重くても速い(写真:ゼネラルモーターズ)

車重は約2.5トンにもなるが、動力性能は十分以上。いや、電気モーターならではの優れたレスポンスのおかげで、積極的に速いと評したくなるだけのものを持っている。それでも、アクセルを踏み込んだ瞬間に蹴飛ばされるように加速したりするといったことはなく、運転はしやすい。BEVだからといって過激に味付けたりしていないのは、BEVだろうと内燃エンジン車だろうと、作りたいのはキャデラックそのものだからだろう。

乗り心地も非常に柔らかく、これもキャデラック、あるいはアメリカ車に誰もが期待する通りの仕上がりだが、上下に揺さぶられるような道でも収まりは悪くないあたりは見事。コーナリングも安心感が高く、完成度は高い。

後輪駆動にしたのは「キャデラックだから」

気に入ったのは直線に向けてステアリングを戻しながら徐々にアクセルを踏み込んでいったときの挙動だ。軽く沈ませたリアから押し出していくような加速感は、いかにも後輪駆動らしく、クルマ好きなら堪らないものがあるだろう。

こうした味付け、そしてそもそも1モーターモデルを前輪駆動ではなく後輪駆動にしたのは、エンジニア氏によれば「キャデラックだから」だそうである。デザインの話と似ていて、すべて新しい技術でありながら“らしさ”はしっかり継承する。このさじ加減が実に巧みだ。

そう、デザインもこの走りも、そして技術的な面でも、多様性がいかんなく発揮され、伝統と革新が巧みに融合された、まさに今のアメリカらしいプレミアムBEVに、リリックは仕上がっていた。日本には2023年春の導入を目指しているということである。

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(島下 泰久:モータージャーナリスト)

島下 泰久

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