人間関係を深めるには何をすればいいか。人材育成コンサルタントの嶋津良智さんは「本音を話し合える関係性を作り上げるには徹底的な自己開示が必要だ。三流は自分を隠し、二流は自分を装うが、一流は『実はバツ2なんです』と自己開示し相手と共有している自分像を増やす」という――。
※本稿は、嶋津良智『話し方の一流、二流、三流』(明日香出版)の一部を再編集したものです。

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親友には「公開された自己」がたくさん存在する・関係性の構築
三流は、自分を隠し、
二流は、自分を装い、
一流は、自分をどう語る?
あなたにも親友がいますよね。その人とは、なんで親友になったのですか? あなたの周囲には仲の良い恋人やご夫婦がいますよね。なんでその二人は仲が良いのだと思いますか?
それは、相手も知っていて自分も知っている「公開された自己」が、お互いにたくさん存在するから、親友だったり仲の良い夫婦だったりするんじゃないでしょうか。
「ジョハリの窓」という心理学モデルがあります。これは、自分と他人の間で、どのような人物像を共有しているのか、あるいは共有していないかというものです。
私は、摩擦を恐れずに話をして、「開放の窓」をできるだけ増やすことが、好き嫌いにとらわれずにコミュニケーションを深める秘訣だと考えています。
以前、私のチームに、明らかに浮いていた人がいました。私も正直に言うと彼のことが苦手でした。このままではコミュニケーションを避けてしまうと思って、意識的に話をするようにしていました。
するとあるとき、彼は思いも寄らない話をしてくれました。自分には小学生の時に、両親に捨てられた過去があった、と。彼と弟は親戚の家に引き取られていじめにあい、弟は中学の途中で耐えきれず蒸発。彼は中学卒業と同時に、新聞配達で食い繋いできたといいます。
その話を聴いて私は
「今の話を聴かせてくれてありがとう。こういっちゃなんだけど、だから○○くんはひねくれてるのか。でも、これ、誉めてるんだよ。俺に話してくれて、ひねくれた理由も、ただの嫌なやつじゃないこともわかって、俺はお前のことを好きになったんだ。皆にもその話をしたほうがいいと思う」
その後、タイミングに恵まれ、彼は仲間の前でその話をしました。もともと良いチームだったのですが、そこに彼もなじめるようになったのです。
「僕、じつはバツ2なんですよ」と言えるか
この経験以来、私は新しいメンバーを迎えた時には、必ずその人のヒストリーを聴くことにしました。
縦軸に時間軸(小学生、中学生、高校生、20代前半、20代後半、30代前半、30代後半、40代前半、40代後半)を据え、横軸に勉強、仕事など/趣味、スポーツなど/人間関係、家族、友達、職場など/その他、住居、健康、資格、お金などを聞くマトリックスシートを作って、それをもとにチームに対して私が他己紹介をするようにしたのです。
こうして話を聴くと、仕事の話だけでは出てこない、意外な情報が出てきます。
「バスケで全国大会に出たことがあるんですよ」
という情報をきっかけに、自分との共通点を見出すこともできますし、お互いの「公開された自己」を極大化することができます。
しかし、一方的に聴き出そうとするだけでは、うまくいきません。本音を聴くためには、自己開示が必要です。
例えば、あなたが離婚を経験していて、そのことに引け目を感じていて人前で話したことがなかったとします。でも、もし相手が
「僕、じつはバツ2なんですよ」
と話してくれたら、あなたも
「じつは私もバツ1で……」

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というように、自分も自己開示していいんだなと思って打ち明けやすくなりますよね。だから本音を話してもらえる関係性を作り上げるためには、徹底的な自己開示が必要なんです。
というのも、自己開示には返報性があるからです。つまり、自分が開いたものと同じレベルのものを返そうと思う性質があるので、あなたが先に腹を割って話す、というのは相手の自己開示を促すための格好の方法なのです。
自分がしてほしいことと同じことをすればいい
自分が本音で話し、相手も本音で話してくれたら、次は、受け止めることが必要です。
「今日久しぶりに満員電車に乗ったんですが、すごく嫌な気分になりました」
と相手が言った時、「受け入れる」話し方は次のような言葉です。
「すごくよくわかります。満員電車は混んでて嫌ですよね。私もできれば乗りたくないと思っています」
でも、自分はちょっと違うな、と思ったなら次のように「受け止める」だけでいいのです。
「久しぶりに満員電車に乗って嫌な気分になったんですね」
「そういう人は多いかもしれませんね」
しかし、
「みんな同じ思いをしているんだから、そんなことを言ってもしょうがないですよね」
「乗らないで済むように、会社の近くに住むとか、自分で工夫をすればいいんじゃない?」
と、受け止めも受け入れもしないと、次は話す気になりません。
自分がしてほしいことと同じことをすればいいのです。
一流は、自己開示する
相手と共有している自分像を増やす
信用は人間性、信頼はアウトプットに起因する
・信頼関係の構築
三流は、信頼関係ができていると思い込み、
二流は、相手の顔色を見て話し、
一流は、どんな態度で話す?
コミュニケーションがあまり上手ではない人は、相手との信頼関係を築くことが上手ではない面があります。
「こんなこと言ったら怒っちゃうんじゃないか、傷ついちゃうんじゃないか」と思ってしまって、正しい指摘などができない人は、相手への信頼が欠如しているのです。
信頼があれば、「きっとわかってくれる」「何を言っても受け入れてくれる」という信頼のもとに、話ができるはずです。しかし信頼が欠如していると、「不愉快な思いをさせてしまうかもしれないから、言うのはやめとこう」となってしまうのです。
信頼関係ができていている相手に本音がいえるのは、「心理的安全性」があるためです。
一方、信頼が欠如していると心理的安全性がないので、「バカにされるんじゃないか」「怒られるんじゃないか」という不安が先に立ちます。
また、信用はしているが信頼はしていないという相手もいるはずです。嘘をつくとか事件を起こすとか、そういう心配がないのは信用です。でも、その人の行為や発言に対して、自分が心を開くことができなかった。
そうした状態は、あまり信頼できない状態です。また、相手が自分の行為や発言に心を開いてくれていないのなら、相手は自分を信頼してくれていない状態の可能性があります。
信用はその人の人間性、信頼はその人の行為や発言といったアウトプットに起因するのです。
「期待に応えてくれた」「自分のことを認めてくれた」といったアウトプットです。仮に心のなかでは相手を認めていても、示せなければ、相手には伝わりません。すると、信頼には結びつきません。
相手を信頼して、考えを素直に言い合うことで良いスパイラルへ
そして、相手から信頼されていないと、

嶋津良智『話し方の一流、二流、三流』(明日香出版)
「言っていることが矛盾しているから」
「頭にくるから」
など、受け入れない理由を探されてしまうのです。
例えば自分が信頼している人からほめられると、素直に「うれしい」と思いますし、叱られると「しょうがないな」「言う通りだな」と反省もできます。
でも、自分が信頼していない人からほめられると「お前にほめられてもうれしくないよ」と思い、叱られると「なんでお前にそんなこと言われなきゃいけないんだよ」と感じるかもしれません。
一流のコミュニケーションでは、相手との心理的安全性を得られます。自分が相手を信頼し、相手からも信頼される関係性を築いているからです。
心理的安全性は、お互いの頭の中をできるだけ多く共有することで築くことができます。ですから、相手を信頼して、考えを素直に言い合うことが、信頼をさらに強固にして、心理的安全性を強めるという、よいスパイラルをうむことができるようになります。
一流は、相手との関係性に心理的安全性を築く
相手を信頼して話すことで、相手からも信頼される
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嶋津 良智(しまづ・よしのり)
人材育成コンサルタント
日本リーダーズ学会代表理事。リーダーズアカデミー学長。1965年、東京都生まれ。日本唯一の上司学コンサルタントとして、講演・企業研修・コンサルティングを行う。著書に『怒らない技術』(フォレスト新書)や『だから、部下がついてこない!』(日本実業出版社)、『』(明日香出版社)などがある。----------
嶋津 良智