「資産形成」が高校の指導要領に登場 いま必要な金融教育とは?

「資産形成」が高校の指導要領に登場 いま必要な金融教育とは?

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2021/04/08
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この数年、「金融教育」に関する記事を目にする機会が増えた。その理由はいくつもあると考えるが、主なものを2つだけ挙げてみよう。

1つ目は、いわゆる「老後2000万円問題」だ。2019年6月に金融庁が発表した「高齢社会における資産形成・管理」という報告書の中で、(夫65歳、妻60歳から年金生活を送るとしたモデルケースで、30年後まで生きると想定すると)老後資金が約2000万円不足するという試算が示されたことで、国民的議論に発展した。

事実、証券会社に勤める知人たちに聞くと、この問題が報じられるようになってから、新規の口座開設数が急増したと皆が口を揃えて言う。自分で投資をして老後資産の一部をつくりなさいと言われても、日本では投資について学ぶ機会が与えられていないことから、そのような機会が全員に与えられるべきだと考える人が増えたのだろう。

2つ目は、2022年度から始まる高校の新学習指導要領において、家庭科の授業で「資産形成」の視点に触れるよう示されたことだ。このことで、ついに日本でも金融教育を受ける機会ができるのかと前向きにとらえる声も多い。

筆者自身も大きな一歩であるとは思うが、かなりしっかりとしたカリキュラムを組まないと、教える側が苦労するだろう。

以前、金融庁主催のイベントで、都内の家庭科の先生たちに金融教育の入門編のような講演をしたことがあるが、講演後に先生たちと話をしてみたところ、やはり何をどのように教えればよいのかを悩んでいる人が多かったのが、強く印象に残っている。

「うんこドリル」とも連携。官民で推進
このような世の中の動きのなかで、今年に入ってから官民両面から金融教育がさらに推進されている場面を多く見る。

たとえば、金融庁は、3月に文響社の「うんこドリル」と連携し、インターネット上でお金について学べる小学生向けコンテンツ「うんこお金ドリル」を公開した。

うんこドリルは、子どもたちから非常に強い支持を得ている強力なコンテンツで、小学生向けの国語や算数、英語のドリルや未就学児向けのシリーズなど、累計で820万部を発行している。金融教育と聞くと難しそうで気が進まないというのは大人も子どもも同じだと思うが、人気コンテンツとコラボレーションすることで入り口のハードルを下げたのは、とてもいいことだと思う。

また、民間企業も金融教育を推進し始めている。auじぶん銀行は、臼井朋貴社長が、3月8日に大阪府の東大阪市立英田南小学校で「お金の授業」という特別授業をオンラインで実施した。同行は子どもたちに向けた金融教育コンテンツとして、「auじぶん銀行劇場 金融昔ばなし」という動画教材もウェブ上に公開している。

クレディセゾンも、2019年12月から、中高生向けの金融教育プログラム「出張授業~SAISON TEACHER~」をスタートさせており、これまでに全国の中学校や高等学校で累計90回行われ、約4000名の生徒が学んでいる。

このように官民が揃って推進の流れに乗っているという事実は歓迎すべきことだが、これを機会に、あらためて金融教育の定義を考えたほうがいいだろう。仮に誤ったかたちで金融教育の流れが本格化してしまったら、非常に残念な結果になりかねないからだ。

都道府県金融広報委員会、政府、日本銀行、地方公共団体、民間団体等と協力して、中立・公正な立場から、暮らしに身近な金融に関する幅広い広報活動を行っている金融広報中央委員は、金融教育について以下のように定義している。

金融教育は、お金や金融のさまざまな働きを理解し、それを通じて自分の暮らしや社会について深く考え、自分の生き方や価値観を磨きながら、より豊かな生活やよりよい社会づくりに向けて、主体的に行動できる態度を養う教育である。

具体的な表現がないのでいまいち理解しにくいかもしれないが、金融教育とは、お金を軸に非常に幅広い内容を学んでいくことを指しているということはわかるだろう。しかし、ここ数年で目にする金融教育は、どれも「投資」に偏っている印象を受ける。

前述の高校の新学習指導要領での家庭科における金融教育もそうだ。何もしないよりはいいのだが、これでは金融教育といっても資産形成、つまりは投資に触れることが金融教育とされている。

当然、金融教育のなかに投資が含まれることには一切の異論はない。しかし、それ以外にも、経済や株式会社の仕組み、簿記などの企業会計、税務などの基礎知識も教えるべきであり、さらに言えば、家計に即した節約や貯蓄、詐欺から身を守る方法なども重要となるだろう。

金融教育にも「ゲーミフィケーション」の導入を
先日、知人から金融教育をテーマに議論している動画のURLが送られてきた。私が金融教育ベンチャー企業を経営していることもあって、興味があるのではないかと思い、送ってくれたようだ。

番組自体がバラエティ要素を含んでいたので、議論の内容に関しては賛同しかねるものもあったが、金融教育についてのより本質的な意見も散見され、全体的にはとても良い内容だった。

金融教育について議論する際に、意外と抜け落ちることの多い論点がある。それは「稼ぐ力」を身に付けさせることの重要性だ。

動画の中では、投資をする場合はある程度のお金がないと意味がないので、まずは稼ぐ力を身に付けることが優先されるべきという意見や、投資の知識を先に身に付けて実践しても、多くの人は損をしてしまうという意見もあった。

投資の勉強をさせても多くの人にとっては意味がないという論調になってしまっていた点は、少し行き過ぎた考えであるとは思うものの、確かに「どのように稼ぐのか」という観点を金融教育で教えるべきなのは間違いない。

残念なことに、日本の会社員の給料はこの20年間で伸びていない。そして、統計に基づけば、雇用者の約4割は非正規雇用になる。そのような厳しい環境下でお金を稼ぎ、暮らしに必要な費用を払った後に、どうしたら投資にまわせる原資を積み上げていくことができるのかという話を欠いてはいけないだろう。

とはいえ、ここまでやらなければいけないとなると、金融教育を現行のカリキュラムに導入することはますます難しくなる。実際、現場の声を聞いてみても、ただでさえ英語やプログラミングといった科目まで追加されたことで、これ以上の追加は先生にとっても生徒にとっても負担が大きすぎるという意見が多い。

このような現実を踏まえたうえで、正しい金融教育を浸透させるには、すべてを学校教育に押し付けるのではなく、やはり官民共同でプログラムを組み、子どもたちに余暇の時間を一部充ててもらえるような、彼らが飽きない仕組みを設けることが重要だろう。

海外では、すでに「ゲーミフィケーション」という取り組みがあり、受験勉強のような座学ではなく、ゲームをしながら学んでいけるような仕組みが用意されている。金融教育と言っても、従来の座学中心ではなく、対象年齢に合わせて、それこそスマホやタブレットでできるゲームや、実際にお店屋さんごっこのようなアクティビティを混ぜていくことも一考すべきだ。

連載:0歳からの「お金の話」
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