東京五輪の金メダル候補が守ろうとしている「海の小さな命」

東京五輪の金メダル候補が守ろうとしている「海の小さな命」

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2021/07/23
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いよいよ東京オリンピックが始まる。コロナ禍での大会とあって、命を守るための安心安全な運営が叫ばれているが、「海の小さな命たち」を守るため、海洋環境の保全活動に深く関わってきた2人の選手を紹介したい。

ニュージーランドのピーター・バーリング選手とブレア・トゥーク選手だ。東京オリンピックのセーリング種目は10種類あるが、ピーターとブレアは「49er級」と呼ばれる2人乗りの競技に出場する予定で、最も金メダルに近い1組と言われている。

2人は、世界選手権でも49er級で6つのタイトルを獲得し、アメリカズカップでは2度の優勝、地球を一周するヨットレースであるジ・オーシャンレースの2017-2018年の大会では表彰台に上ったセーリング界のレジェンドだ。

先日、ピーターとブレアに話を聞く機会を得た私は、彼らと世界の海洋環境について積極的に意見を交わした。

セーリング選手が海洋保全財団を設立した理由

世界を舞台に活躍する2人の原動力となっているのは、セーリングでタイトルを獲得することだけではない。2人とも海洋環境と海洋生物に対して熱い思いを持っており、「Live Ocean」という海洋保全財団を設立している。

セーリングの選手は漁師や船乗りと同様、海で起きている変化に直に触れているため、2人はこの財団を通して、海の健全性を回復させるために世界に向けて強いメッセージを発信しているのだ。

彼らが守ろうとしている種の1つは、アルバトロス(アホウドリ類)である。「アルバトロスたちは、南極海を旅する時の仲間です」とピーターは語る。

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アンティポデス諸島のアルバトロスのつがい(c)Charlie Bennett

「われわれが全身ずぶ濡れになって懸命にヨットを操縦している間、彼らは滑るように飛行しながら見守ってくれています。彼らこそ海の主であり、その大きさと、3.5メートルにも及ぶ翼で大空を飛翔する姿は、本当に見るものの心に残るものです」

ゴルフ好きなら「アルバトロス」と言えば憧れのプレーだろう。パー5のホールを2打でホールアウトするようなスーパースコアのことを言うが、それには相当な飛距離が必要だ。その長打を悠々と大空を長時間飛行するアルバトロスに例えて、名付けられたという。

日本ではアホウドリといういささか不名誉な名前で呼ばれているが、それは陸上で簡単に捕獲できてしまうことや、人間に囲まれて右往左往する姿などから名付けられたという説がある。

全世界的に見ても、19世紀末、羽毛目当ての乱獲によってアホウドリは激減し、その後狩猟法などで保護が試みられたが、絶滅の危機は避けられていない。現在日本で生息する種も、トキやコウノトリと並んで国の特別天然記念物に指定されている。

このアルバトロスの保護の問題はこれまで大きく扱われることがなかった。そもそも絶滅が危惧されるほどの数しか生息していないことに加え、ブレアは次のような理由もあるという。

「アルバトロスは海を住処とし、風を利用して驚くほどの長距離を移動するため、何年も海で生活することができます。そのため、ほとんどの人は彼らを見ることがないので、あまり問題として取り上げられることがないのです。それで彼らの存在に親しんでいるセイラーたちは、この喫緊の保護を必要としている鳥たちの問題をみなさんに伝える責務を担っており、私たちは協力し合っているのです」

混獲問題での日本とニュージーランドの接点

実はいま、世界のアルバトロス22種類のうち、15種類が絶滅の危機に直面している。主な脅威は、漁業の際に誤って捕獲される「混獲」である。タスマン海や太平洋南部ではマグロ類を狙ったはえ縄漁で混獲され、毎年2000羽以上のアンティポデスアルバトロスが、すべての漁船が混獲防止措置を取らなければ、30年後には種の存続が不可能となってしまうであろうとも言われている。

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「混獲」されたアホウドリ(c)Graham Robertson

ピーターとブレアが設立したLive Oceanは、絶滅の危機に瀕しているニュージーランドのアンティポデス諸島のアルバトロス種の採餌飛行の研究のため、追跡に使われる衛星発信機の購入資金を提供した。

「衛星追跡プロジェクトによって、このアルバトロス種が餌を獲る際に混獲の危険が高い海域で、どの国からの漁船が操業しているのかが分かりました」とブレアは言う。そして「つまりアルバトロス保護のためにニュージーランドがどこの国と協力するべきなのかがわかったのです」とも語った。

ブレアが指名した国の1つは、日本だった。日本はニュージーランド周辺の公海上で漁業を行っている国の1つで、海鳥の混獲のモニタリングと報告を、最も真摯に行っている国のひとつだという。

そして、日本が国際的なマグロ漁業管理組織に提出した報告書から、IUUと呼ばれる違法・無報告・無規制の漁業を含む漁船や船団で何が起こっているかを洞察することができるそうだ。

混獲の被害は漁業者の努力で回避できる。クロマグロ漁業で、世界で初めて国際エコラベルであるMSC認証を取得した、宮城県気仙沼市の臼福本店の臼井壮太朗社長は次のように語る。

「日本では漁業者が水産庁にどのような混獲回避措置をするか、事前に報告する義務があります。項目には、餌のついた釣り針が海鳥にとって見えにくい夜間にはえ縄を仕掛ける夜間投縄、釣り針を早く沈めるための重いおもりをつけて釣り針が速く沈むようにする加重枝縄、海鳥を遠ざけるためにはえ縄の上空に曳航する長いロープにすだれ状に紐を垂らすトリラインなどの吹き流し装置などがあり、混獲を防いでいます」

ちなみに、トリラインは日本人の船頭が考案し、いまでは混獲の効果的な対策として世界中で使われているという。またタスマン海と太平洋南部をはじめ、指定された漁場で操業する漁業国は、漁具を仕掛ける際に前述の3つの項目のうち2つを実施することが国際規則で義務付けされている。白井社長が続ける。

「日本船はこのような混獲対策を20年以上前から行っていますが、中国、台湾、東南アジアなどの船はいまだに大多数が行っていないのが現状です。それらの船から魚を買い付けることは、いま国連の主導で世界から撲滅しようとしているIUU漁業を援護する行為になります」

まさに日本には、世界有数の水産物消費大国として、今後もしっかりとした管理漁業を推進し、アジアや世界をリードする責務があるのだ。

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アホウドリのつがい(c)長谷川  博/東邦大学

いみじくもブレアが指摘したように、海鳥の混獲に関してニュージーランドと日本には大きな接点がある。また両国とも海に囲まれた島国であり、漁業は文化、食生活、経済の面で重要な意味を持っているので、民間ベースでも互いに良い理解者や協力者となりうるだろう。

ピーターとブレアは、オリンピックで操縦する彼らのヨットを、ニュージーランドの先住民であるマオリ族の言葉で「アルバトロス」を意味する「Toroa」と名付けた。

オリンピックは本来スポーツの祭典だ。主会場である東京がコロナ禍による緊急事態宣言下での開催だけに、賛否両論もあるだろうが、スポーツマンシップの爽やかな感動を期待している人も少なからずいるはずだ。

この機会に、ピーターとブレアのように、アスリートたちのパフォーマンスはもとより、真のスポーツマンシップから生まれる社会貢献、未来の地球への責任感に目を向けるのも、意義あることではないだろうか。

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