企業が従業員の健康を経営戦略と結びつける「健康経営」ブームを経て、最近は「人的資本経営」という切り口で、従業員の心身の健康が注目される時代になりました。
こうしたトレンドに沿うように、弊社は10年間、産業現場で起きる様々な“睡眠課題”に特化して取り組み、延べ2万人以上のビジネスパーソンの睡眠改善をサポートしてきました。
そうした中で多くのビジネスパーソンから聞かれるのが、「どれくらいの睡眠が必要でしょうか?」という適正睡眠時間に関する質問です。
「眠り」ではなく「日中への影響」で考える
厚生労働省のeヘルスネットには、以下のような「年代ごとの睡眠時間」に関するグラフが掲載されています。このように平均値で見れば、年齢を重ねるごとに適正睡眠時間は短くなり、同時に深い睡眠もレム睡眠も短くなります。

引用元:https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-02-004.html
一方、適正な睡眠時間というのは人それぞれ異なりますので、重要なことは自分と他人の睡眠を比較しないことです。
適正睡眠時間については、「日中に眠気を感じない睡眠」がその人にとって最適な睡眠とされています。つまり、適正かどうかは、眠りから決まるものではなく、日中の仕事や生活への影響度合いで決まるというのが重要なポイントです。
睡眠は人それぞれであるという結果、稀に、1日3時間の睡眠でも日中のパフォーマンスが良いという“ショートスリーパー”が存在します。割合としては100人に一人ぐらいでしょうか。寝ないで済んだら……と、ショートスリーパーを目指す方がいますが、後天的になれるものではありません。無理して睡眠時間を削るなどは、危険な行為ですのでやめてください。
まずは現状の把握から
産業現場では、労働安全衛生法で年に一度の健康診断が定めされており、その際には、睡眠について1つの設問がされます。
それは「睡眠で十分な休息をとれていますか?」というもので、その答えは、「はい・いいえ」の2択から選ぶことになっています。
従業員の方々が “十分な休息がとれている状態”を理解していない状況で、この設問に回答しても、実態を知るのは難しいでしょう。弊社が睡眠改善サポートしている企業に対して行う勉強会では、追加で以下3項目を聞くように提案しています。
1. 平日、昼間の眠気により集中力の低下や仕事に支障を感じるか?
2. 平日、起床時にすっきり感があるか?
3. 平日と休日の睡眠時間に2時間以上の差があるか?
睡眠時間が足りていないと、朝起きた時にスッキリしない、午後ランチの後に急激な眠気に襲われる、夕方くらいに眠気を感じて帰りの電車の中で眠ってしまう……。
その結果、夜の睡眠の質が低下して悪循環が始まる、週半ばからガソリンが切れたように疲労感や倦怠感が溜まってくる、休日にまとめて寝ようとするというような状態が発生して、私たちの健康に中長期的には悪影響を及ぼしてしまいます。
とはいえ、ビジネスパーソンが理想の睡眠時間をキープするのは簡単なことではありません。そこで、現実社会で実践できる3つのテクニックを紹介します。
1. 戦略的に仮眠をとる
日頃から睡眠時間が足りていないビジネスパーソンにとって、仮眠は生産性を上げる有効な手段です。一方仮眠の場合はその後起きて仕事をするということが前提になりますので、深い睡眠まで遷移しないことが重要です。
ポイントは3つ。長さは15分〜30分以内に収める。タイミングとしては本睡眠(夜の睡眠)の遅くとも8時間前にすませる。横にならずに眠る、です。
2. 週半ばに早く帰る休息日を設ける

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睡眠が足りていない日が連続してしまうと身体に大きな負担がかかります。それを避けるために、週半ば水曜日あたりにたっぷり睡眠を確保する自分の身体を労る休息日を設けてください。それにより木曜日から残り2日間頑張ることができます。
3. 週末の二度寝のリズムを作る
週末に二度寝や寝溜めをすると、平日と大きくリズムがずれてしまい、週明けにブルーマンデー症候群に陥るというデメリットがあります。
それを避けるために、週末も平日の同じくらいのタイミングに一度起床をして太陽の光を浴びてリズムを作ります。それにより脳にある中枢時計が整います。その後に二度寝をして疲れを癒やしてください。夕方以降まで眠ってしまうと夜の睡眠に影響するので、仮に0時に寝る場合は遅くとも16時には起床して活動をしましょう
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