W杯歴史的勝利を演出した森保監督の大胆采配と選手の奮闘「この日を想像しながら準備してきた」

W杯歴史的勝利を演出した森保監督の大胆采配と選手の奮闘「この日を想像しながら準備してきた」

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  • 更新日:2022/11/25
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後半38分、浅野拓磨(18)が決勝ゴールを決める(photo ロイター/アフロ)

サッカーのワールドカップ(W杯)カタール大会で、日本がドイツを逆転で下した。優勝、準優勝各4回の強豪から歴史的な初勝利。目標の8強入りに向けて好発進した。

【写真】ドイツ撃破へと導く決定的なゴールシーン!*  *  *

こんなドラマが待っていると誰が予想しただろうか──。

現地時間23日、ドーハのハリファ国際競技場で、日本(世界ランキング24位)はドイツ(同11位)に挑んだ。

前半はドイツがボール支配率を約70~80%と高め、優位に進めた。33分には何度もピンチになっていた左サイドバックのオーバーラップを防げず、GK権田修一(33)の反則からPKを献上。これをドイツに決められ、日本はほとんどチャンスを作れないまま、前半を0-1で折り返した。

流れが変わったのは後半だ。同30分、左サイドでMF三笘薫(25)が起点となり、MF南野拓実(27)が折り返すと、ゴール前に詰めていたMF堂安律(24)が豪快にドイツゴールのネットを揺らし同点。勢いづいた日本はさらに同38分、自陣からのフリーキックに見事なトラップから抜け出したFW浅野拓磨(28)が勝ち越しゴールを決めて、2-1と逆転に成功した。

■後半途中からの出場

三笘、南野、堂安、浅野はいずれも後半途中からの出場だった。角度のないところから世界最高のGKといわれる名手ノイアー(36)の牙城を崩した浅野は、試合後の興奮が残る取材エリアでこう述懐した。

「前半はベンチで試合を見ながら、拓実くん(南野)と律(堂安)と0-1ならいけると話していた。その3人がゴールに関われたのは、たまたまかもしれないけど、信じていた結果」

浅野は4年前のW杯ロシア大会で、最後の最後で落選し、バックアップメンバーとして大会開始直後までチームに帯同するなど悔しさを味わった。その後も思うような結果が残せず、今回のメンバー入りについては一部で疑問視する声もあった。それでも批判の声をバネにし、大一番で大仕事をやってのけた。

「(前回落選した)4年前から一日も欠かさず、この日を想像しながら準備してきた。恐らくほとんどの人が僕がゴールを決めるなんて思っていなかったでしょうし、奇跡と言われるかもしれない。ただ、そうした声など無視してやってきてよかった」

7回目のW杯出場で通算6勝目を挙げた日本だが、逆転での勝利は初めて。後半巻き返せた裏には、これまで「リスクを冒さない」「選手交代のタイミングが遅い」などと保守的と言われ続けてきた森保一監督の大胆な采配も見逃せない。

4バックでスタートした日本は、0-1で折り返した後半頭からMF久保建英(21)に代えてDF冨安健洋(24)を入れて3バックに。左右のウイングバックとなった長友佑都(36)と酒井宏樹(32)を含め、中央には冨安、吉田麻也(34)、板倉滉(25)とDF登録の5人が並び、まずは守備を安定させた。

■3-4-2-1への変更

そのうえで、後半12分に長友とFW前田大然(25)を下げて、三笘と浅野を投入。同26分にはMF田中碧(24)に代えて堂安、同30分には酒井に代えて南野と次々に攻撃的な選手をピッチに送り出すことで流れを手繰り寄せた。

布陣が4-2-3-1から3-4-2-1へと変わるなか、選手が代わるだけでなく、選手の役割も変わった。たとえば、トップ下で先発したMF鎌田大地(26)はトップ下からボランチへ、右MFの伊東純也(29)はシャドーストライカー、右ウイングバックと2度もポジションを変えた。これまで見たことのなかった“超攻撃的”布陣に、ドイツが混乱したとしても不思議ではない。

長友に代わって左ウイングバックのポジションに入った三笘は、「まさか後半の頭から3バックをやるとは思っていなかった」と大胆な布陣の変更に驚きつつもこう話した。

「正直、ぶっつけ本番のところはあったけど、決断した監督がすばらしい」

投入直後こそ攻撃が売りの三笘は守備に回るなど不安も見られたが、最終的には低い位置から前線に上がって仕掛けることで攻撃に厚みが出て同点ゴールにつながった。

■「前半のままなら後悔」

「前半は相手をリスペクトしすぎてしまった。後半は、負けているなか布陣を変えたことがハマり、相手が嫌がっていると感じた」

三つのポジションで奮闘した伊東がそう振り返ると、司令塔の鎌田はこう続けた。

「前半のまま終わっていたら、一生後悔した。森保監督が布陣を変えたおかげで、勇気を持ってプレーできたことがすべて」

前半に1失点したあとも、ドイツの猛攻は続き、最終的にシュート数は25対11と差をつけられた。相手のシュートがポストに当たるなど運が味方した場面もあったが、自らのミスで招いたPKで失点しながらも、その後は冷静なプレーで2点目を与えなかった守護神・権田はこの試合のマン・オブ・ザ・マッチに選ばれるなど活躍した。

「PKがなければもっと良かったんですけど……。とにかく勝ててよかった」(権田)

日本が枠内シュート3本で2点を取ったのに対し、権田はドイツから8本の枠内シュートを受けながら失点はPKの1点にとどめた。

「2点目を与えていたら、さらに苦しくなっていた。後半は布陣が変わったこともあるが、みんながアグレッシブにチャレンジし続けたことがよかった。ただ、勝って盛り上がるのはいいが、まだ何も(1次リーグ突破が)決まったわけではない」

権田はそう言って気を引き締めた。

W杯のような短期決戦では技術や戦術以上に、ときに勢いや結束が大切になる。日本は同点、そして決勝ゴールが生まれた際に控え選手も全員がベンチを飛び出し、ゴール裏近くまで走って得点者を称えるなど雰囲気のよさを感じさせた。

その先頭に立っていたのが、このドイツ戦でW杯出場12試合目と日本歴代最多を更新した36歳の長友だ。

酸いも甘いも知るベテランは試合前日に髪の毛を金髪から真っ赤に染めるなど、チームを盛り上げるためにできることは何でもやった。

「この髪の色には日の丸や、みんなの情熱を込めました。若手に伸び伸びプレーしてほしいし、W杯はいつもと違うと。ここまで来たら、大事なのは気持ち。みんなに喩えでサムライの話もしました。いくらすごい武器を作り、鍛錬して技を磨いても、目の前の相手にビビったらすべてが無駄になる。それはサッカーも同じで、ドイツ相手にも絶対に敵を倒す気持ちで向かっていこうと。今日は、ドイツよりも日本のほうが、戦う気持ちで勝っていたはず」

試合前から、

「コラージョ! コラージョ!(イタリアで勇気や自信の意だという)」

とチームメートに発破をかけ、チームをもり立ててきた長友は勝利の陰のMVPと言っていいかもしれない。長友は言う。

「過去と比べるわけではないが、チームの雰囲気は最高」

1試合が終わっただけ。27日にコスタリカ戦、そして12月1日(日本時間2日)にはスペイン戦を残している。ただ、この勢いはまだまだ続きそうだ。

(ライター・栗原正夫)

※AERA 2022年12月5日号より抜粋

栗原正夫

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