ナイキに学ぶ、本当に伝えたいことが伝わる「最適な媒介」の選び方

ナイキに学ぶ、本当に伝えたいことが伝わる「最適な媒介」の選び方

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2020/10/16
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2018年から2019年にかけて、全米を賛否両論の渦に巻き込んだ広告コミュニケーションがある。

ナイキが、同社のスローガンである「Just do it」導入30周年を記念して行った「ドリーム・クレージー」キャンペーンだ。このドリーム・クレージーは、カンヌライオンズ2019においてアウトドア部門グランプリ他を受賞し、高い評価を得た。

ドリーム・クレージーは、多くのスポーツ選手を起用。制作されたコンテンツも多岐にわたるのだが、キャンペーンの顔として起用されたのは、アメリカンフットボールの元スーパースターであるコリン・キャパニックだ。

「Nike - Dream Crazy (case study) Cannes Lions 2019 Grand Prix Outdoor + Entertainment For Sport」

この事例は政治問題ではない

キャパニック選手は、2016年プレシーズンマッチの試合前、国歌斉唱の際に、人種差別に抗議して膝をついたまま立ち上がらず、起立を拒否。世論を二分する論争を巻き起こした。これを契機に、所属していたフォーティーナイナーズとの契約を終了して以降、2年間プレーをしていなかった。

このキャパニック選手の起用をめぐっては、当初、反対派が自分のナイキのシューズを燃やしたり、トランプ大統領もツイッターでナイキ批判をしたりして、ナイキの株価は3%下がった。しかし、何人かの著名人が、テレビなどでナイキの姿勢を応援し始め、徐々に売り上げも回復、ついには過去最高の株価を記録するに至った。

この事例は、「ナイキが政治問題に手を出した」という文脈で語られがちだ。しかし、私からすると、ナイキはリスクを冒してまでも、自分たちのメッセージを最も効果的に伝えるための「最適な媒介」としてキャパニック選手を選んだのだと思う。

その伝えたかったメッセージとは、Just do itという形で示され続けて来た「困難に負けずに、(信じることを)やろう!」ということだろう。

ドリーム・クレージーでは、そのメッセージをコピー化した「Believe in something, even if it means sacrificing everything(何かを信じよう! たとえ、そのことですべてを失うことになったとしても)」を表現するのに、キャパニック以上の存在はなかったと考えるのが正解に近いのではないだろうか。

そのメッセージを伝えるのに「最適な媒介」は?

さて、この事例から、われわれが学び得るものは何だろうか?

それは、誰かとコミュニケーションを取ろうとする場合に、「最適な媒介」を一生懸命に探してみるということだ。

われわれは相手に何をメッセージするかについては、思いをめぐらしたり、時に「語りかけ方」を工夫したりすることはあっても、「媒介」を探してみることはほとんどしない。でも、実は適切な媒介を探すことができれば、メッセージは強力に伝わっていくのだ。

若い部下が何度語りかけてもこちらの意図を理解してくれない場合、彼が兄貴分として慕っている中堅に頼んでみるのは、有効かもしれない。あるいは逆に、上司に方針を変えてほしい場合、自分が直接アピールしても埒が明かない場合は、その上司の同期の人間を介したほうがうまくいくかもしれない。

子供たちとコミュニケーションを取ろうとする場合も、息子の好きなものが最近のミュージシャンであれば、そのミュージシャンの楽曲を経由することで何かが伝えられるかもしれない。娘の好きなものがネット上のゲームであれば、そのゲームの記事を読んでみて、ゲームの内容に擬えてメッセージを伝える努力をしてみるのもよいだろう。

もちろん、ナイキが炎上のリスクを冒してまで挑戦したように、媒介を使うにはこちらにもそれなりの覚悟や努力が必要だ。仕事で言えば、広範な人間関係を築く必要があるだろうし、家庭で言えば、イマドキのカルチャーを積極的に学習しなければいけない。

とにかく、直接的な語りかけがあまり上手く機能していない場合には、この媒介を使う方法を試してみる価値はあるのではないだろうか。

連載:先進事例に学ぶ広告コミュニケーションのいま

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