愛ではなく、いい加減さが閉塞した世界を救う! 山本政志監督のトリップ映画『脳天パラダイス』

愛ではなく、いい加減さが閉塞した世界を救う! 山本政志監督のトリップ映画『脳天パラダイス』

  • 日刊サイゾー
  • 更新日:2020/11/26
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脳内一面に、ぱぁ~とお花畑が広がるような感じ。山本政志監督の久々の新作映画『脳天パラダイス』をひと言で説明すると、そんな感じ。頭の中に色とりどりのお花たちが咲き乱れ、楽しければもうそれだけで充分じゃないですか。もっと、みんな「いい加減」になりましょうよ。上映時間95分を、『脳天パラダイス』は“観るドラッグ”として楽しませてくれる。

主人公一家のお父さん・修治には、小説『想像ラジオ』が高く評価されたマルチクリエイターのいとうせいこう。恋多きお母さん・昭子には、『葛城事件』(16)などのシリアス演技から180度転換した南果歩。ニートの息子・ゆうたは、『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(08)で少年ゲリラを熱演した田本清嵐。大騒動の火種となる末娘・あかねに、オーディションで選ばれた小川未祐。また、山本政志監督が見つけたいい感じの外国人やミュージシャン、大道芸人らも多数出演している。プロとアマが渾然一体化したお花畑ムービーだ。

物語はいたってシンプル。東京郊外の大きな邸宅で暮らしていた修治(いとうせいこう)たち一家は、修治が株の投資に失敗したことで家を出ていくことになった。引越し当日、息子のゆうた(田本清嵐)は、庭をうろついているホームレスふうのじじい(柄本明)や野良猫を相手にのほほんとしている。シビアな現実を直視しようとしない父や兄に、末娘のあかね(小川未祐)はプチ切れ。ツイッターで「今日、パーティーしましょう。誰でも来てください」と投稿する。

あかねがふて寝している間にツイッターは広まり、男をつくって家を出ていった母親の昭子(南果歩)、結婚式を挙げたいというゲイのカップル、台湾から来た観光客の母子らが集まる。あかねの友達、運送業者も加わり、慎ましく始まった宴会は次第に盛り上がっていく。

ホームレスじじいがすでに息をしていないことが分かり、ゲイカップルの結婚式とじじいの葬式を同時に行なうことになる。屋敷の近くにはケシの花が植生しており、ノリのいいパーティーに気をよくした大麻愛好家がご焼香の代わりにマリファナを焚き始める。庭一面に甘~い匂いが立ち込め、かつてない空前のどんちゃん騒ぎへと発展する。常識と非常識、エロスとタナトス、愛と憎しみ……、性別も国籍もあらゆるものはボーダーを失い、呑めや歌えやのお花畑パラダイスが広がっていく。

顔はコワモテの山本政志監督だが、ストレスの多い現代人に「癒し」を与える映画を生み出してきた。前作『水の声を聞く』(14 )は、アルバイト感覚で新興宗教団体の巫女を務める女の子(玄理)が教祖に祭り上げられ、悩める人々に向き合う物語だった。

目には見えない不思議な力、宇宙規模のエコロジーをテーマにしていることも、山本政志作品の特徴となっている。ミニシアターブームの火点け役となった『ロビンソンの庭』(87)では廃墟で暮らし始めた女性が日々の生活の中で生命力を回復し、やがて大自然と一体化していくことになる。映像の美しさもあって、何度も観たくなる神秘的な作品だった。

その一方、五輪メダリストのベン・ジョンソンまで出場する世界最大規模の町内運動会を描いた『アトランタ・ブギ』(96)などのアッパー系のコメディ映画も得意としている。今回の『脳天パラダイス』は、ヒーリング系の作風とアッパー系コメディの両方のいいとこどり映画だ。古田新太、村上淳ら実力派俳優が無駄に出演しているのも、山本監督らしい。

いい加減な、いやデタラメなパーティーがきっかけで、それまで家に引きこもり気味だった長男のゆうたは変わり者の客たちをもてなすことの面白さに気づく。ええじゃないか、ええじゃないか。勤務中のはずの運送業者は、あかねの女友達と仲良くなって、エッチを始める。ええじゃないか、ええじゃないか。現役の女であることにこだわる妻・昭子に対し、修治は「一夫多妻制」の逆「多夫一妻制」を提案する。ええじゃないか、ええじゃないか。あまりにパーティーがにぎやかなので、すでに亡くなっているおじいちゃんおばあちゃんも幽霊になって参加する。よいよいよいよい♪

ミュージカル、コメディ、エロス、ワイヤーアクション、不条理ミステリー、怪獣映画……。さまざまな要素を呑み込みながら、物語は転がっていく。ストーリーの整合性は、まったく無視。山本監督ならではの結果オーライ、てなもんやお祭りムービーだ。そんな大騒ぎも夜明けと共にお開きとなり、やがて浮かび上がってくるのは家族の新しい在り方だった。それぞれの価値観の違いやつまらない見栄から、バラバラになってしまった修治たち一家だったが、どんちゃん騒ぎと一緒に余計な雑念も流れ去り、お互いにまっさらな気持ちでこれからの新生活に向き合うことになる。

細かい解釈は不要な映画だが、修治たち一家は今の日本社会そのものに置き換えることもできる。かつてない経済不況に見舞われているのに、いまだに高度成長期やバブル期のライフスタイルにとらわれ、身動きできなくなってしまっている。自分の抱えるストレスを発散させるために、ルール違反やマナー違反を犯した人間は容赦なくバッシングする。新しいものを生み出すことのできない、閉塞化した不寛容な社会となっている。

現状の政治体制や社会システムをすぐに変えることは難しくても、あらゆる無礼講が許される祝祭的空間があれば、一人ひとりが抱えている浮世の垢はきれいさっぱり洗い流すことはできるのではないだろうか。山本監督は、そんな祝祭的空間を映画『脳天パラダイス』の中に用意してみせた。理屈抜きで、みんなアホになって、今を楽しめばいい。万人を愛さずとも、自分も周囲の人に対しても、もっともっと脳みそのネジをゆるめて「いい加減」になればいい。

若いスタッフたちが生み出した祝祭的世界が、とても魅力的だ。撮影の寺本慎太朗、照明の渡邊大和、美術の木岡菜津貴は、本作が商業デビュー作になるそうだ。彼らがセッティングしたミュージカルシーンに、山本監督が作詞した「宇宙音頭」が気持ちよく流れる。

「いつかどこかで あなたに会える 銀河の海原さまよって ブラックホールを突き抜けて あなたに会えた喜びで 私の心は宇宙晴れ 私の心は宇宙晴れ♪」

きっと、あなたの心も宇宙晴れ。映画館のスクリーンで、ぜひ楽しみたい。

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『脳天パラダイス』
監督/山本政志 脚本/金子鈴幸、山本政志 撮影/寺本慎太朗 照明/渡邊大和 美術/木岡菜津貴
出演/南果歩、いとうせいこう、田本清嵐、小川未祐、玄理、村上淳、古田新太、柄本明
配給/TOCANA R15+ 11月20日(金)より新宿武蔵野館ほか全国公開
c)2020 Continental Circus Pictures
https://no-ten.com

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