トランプが最後に連発する駆け込みアクションの意味

トランプが最後に連発する駆け込みアクションの意味

  • JBpress
  • 更新日:2021/01/14
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米テキサス州ハーリンゲンのメキシコ国境の壁を視察した後、メリーランド州のアンドルーズ基地で専用機から降りるトランプ大統領(2021年1月12日、写真:ロイター/アフロ)

(福島 香織:ジャーナリスト)

トランプ政権の任期が残りわずか10日余りとなった1月9日、ポンペオ米国務長官は米国と台湾の交流制限撤回の声明を出した。この声明によれば、これまで国務省が課してきた外交官や高級官僚、公務員らの米台相互交流への制限がなくなる。

続いて1月12日には、ホワイトハウスが、2018年2月に制定された「開かれたインド太平洋戦略」の枠組みに関する機密文書を公開した。それによると、日本の尖閣諸島、台湾、フィリピンをつなぐ中国の防衛ライン「第一列島線」の中国側の空域、海域も米国が死守すると明記されていた。この機密文書は最初オーストラリアメディアが報じ、その後、ホワイトハウスが公表した。機密文書は本来なら少なくとも30年間は秘匿されるものであり、それが外国メディアにリークされてから公表されるのは極めて異例である。

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左の線が第1列島線(出所:Wikipedia)

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なによりも、こうした任期終了が迫ったカウントダウンのタイミングで、トランプ政権が日本を含むアジアの安全保障にかかわる重大なアクションを駆け込むように実行していることの意味を、日本人としてはいろいろ考える必要があるだろう。

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台湾との公的接触の自主規制を解除

ポンペオ国務長官は1月9日の「米国と台湾の公的交流制限解除」の声明で以下のように述べた。

「台湾は活力に満ちた民主国家であり、米国が信頼できる協力パートナーである」
「しかし数十年来、米国国務省が制定した複雑な自主規制措置により、外交官、公務員、その他官僚同士が互いに行き来することに制限があった。米国政府は一方的にこれらの措置をとり、北京の共産党政権に配慮してきた。今後はこのようなことはない」
「今日、私は宣言する。これら自主規制を解除する。国務省がこれまで国務長官名義で行政機関に命じた、台湾関係におけるすべての“接触ガイドライン”を無効にする」

そして、「米国在台湾協会(AIT)のほか、『外交事務準則』『外交事務マニュアル』にある行政当局および関連部門と台湾の接触に関する規則の部分は、すべて廃止する。台湾関係法が規定する行政当局と台湾の関係は非営利組織AITにより処理する」とし、声明を次のように締めくくった。

「米国政府は世界中の非公式パートナーとの関係を維持しており、台湾も例外ではない。我々2つの民主国家の共同の価値観は個人の自由、法治、そして他人の尊厳に対する尊重である。今日の声明では、米台関係は我々の恒久的な官僚機構の自主規制に束縛されず、また束縛されるべきではないと認識している」

台湾の駐米代表処はこの声明に関し、「台湾米国関係の強化と深みを十分反映しており、台湾政府も歓迎を表明する。台湾政府は米国務省に感謝を述べるほか、長期に台湾米国関係に関心を寄せてくれた米国国会両党議員に感謝を申し上げる」「我々は台湾米国パートナー関係が目に見える形で、将来持続的に強化し成長することを期待している」と述べた。

機密文書をなぜ今公開したのか

ポンペオ国務長官はこの2日前の1月7日に、米国のケリー・クラフト国連大使の台湾派遣を発表していた。国際社会は、1971年の台湾(中華民国)国連脱退以降、米国連大使の初めての訪台か、と驚いたが、訪台予定日(1月13~15日)の直前になって、台湾訪問は「新政権移行の準備のため」キャンセルとなった。新政権移行前の忙しさは最初から分かっていたはずであり、急なキャンセルの本当の理由は別にあるかもしれない。中国側は、米国連大使が台湾を訪問すれば「重い代償を支払わせる」と恫喝していたので、それに臆したのか、あるいは蔡英文政権側が臆したのか、あるいはバイデンサイドが妨害したのか。いずれにしても国連大使訪台キャンセルは非常に残念であった。

だが、その代わりというか、突然、米国の台湾や尖閣諸島に対する防衛姿勢が書かれた機密文書が公開された。1月12日に最初に報じたのは、オーストラリアメディア「ABC」だった。そのあと、ホワイトハウスが正式に発表した。

それは、2018年2月に制定された米国のインド太平洋戦略の枠組みに関する文書だった。米国の政府系メディア「ボイス・オブ・アメリカ」によると、ホワイトハウスは次期バイデン政権にトランプ政権の対中政策を継続してほしいという願いから、同時に米国の同盟国を安心させるために、異例の機密文書公開を行った、という。

オブライエン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)はこの機密文書公開について、「米国人民と我々の同盟・パートナー国に、米国は、インド太平洋地域の開かれて自由な状況を永久に守るために引き続き力を尽くす所存であることをわかってもらうため」と説明している。

およそ10ページの機密文書では、中国を米国の安全保障上の最大の懸案と捉え、同盟・パートナー国と協力して、インドの台頭を助けて中国を牽制することを1つの戦略としている。また同文書では、台湾の軍事発展と非対称作戦戦略を支援することで中国の脅威に抵抗することも強調されていた。

「自由で開かれたインド太平洋」戦略は、日本の安倍晋三元首相が提唱し、トランプ政権とともに練り上げた国防戦略だ。機密文書では、米国は軍事衝突の有無に限らず、尖閣諸島から台湾、フィリピンを結ぶ「第一列島戦」内の制空権および制海権を中国から守り、台湾を含む国家の安全を保護し、同時に第一列島線の外側を米国主導の作戦領域とすることも明示している。

この戦略に精通している安全保障専門家によれば、米国のインド太平洋戦略における台湾の描写から、米国は台湾を中国から攻撃されないよう牽制するだけでなく、必要であれば中国の侵攻を撃退するとしている、という。つまり、台湾を守るためならば軍事出動も辞さない、ということだ。

こうした機密文書をあえて今公開したのは、おそらくはバイデン政権が対台湾政策や尖閣問題、そしてインド太平洋戦略についてトランプ政権の方針を転換させるのではないか、という懸念があるからだろう。台湾接近とインド太平洋戦略はトランプ政権の揺るぎない政治遺産として残さねばならない、というわけだ。

中国政府とメディアの反応

ちなみに中国外交部の趙立堅報道官はこの機密文書公開について、「米国はインド太平洋戦略を利用して中国に圧力をかけ、地域の平和と安定を破壊しようという邪悪な動機がある」と批判している。

また「環球時報」など中国メディアは、ポンペオ長官の米台交流規制撤廃宣言について「ポンペオが理性を失って狂った」と表現し、「米国と台湾民進党当局にはっきり自覚させなければならないのは、もし彼らが大胆にもポンペオを任期終了前に台湾に訪問させるといった演出を行うのであれば、北京は山を動かして海を埋めるような反応をするだろうということだ」と威嚇した。

さらに環球時報は米ブルッキングス研究所のトーマス・ライターのコメントも引用して、「ポンペオの政治的動機は、バイデン政権誕生後の最初の数週間に中国との関係を膠着状態に陥らせ、バイデンの対中弱腰姿勢を変えさせることだ」と解説し、こうしたトランプ政権の駆け込み政策は次期バイデン政権への嫌がらせである、と論評している。

消えた「自由で開かれた」という表現

さて、バイデン政権が誕生すると対中政策が親中的になっていくのかどうか。

一部識者はバイデン政権の方がトランプ政権より対中姿勢が厳しい、という見方をしているようだが、私はやはりバイデン政権になれば、トランプ政権がこの2年ほどの間に進めた対中包囲網や対中デカップリング(切り離し)政策、そして対台湾政策やインド太平洋戦略は後退するだろう、と見ている。

理由は、たとえば台湾政策については、バイデンチームは選挙戦当時から「一つの中国政策」の堅持を主張しているし、両岸問題の平和解決支持を継続することが台湾人民の願いであり最大利益だという立場だ。これは、オバマ政権時代の現状維持政策と変わらない。

トランプ政権は現状維持から対台湾接近を進め、それがたとえ中国の軍事的威嚇を招きかねないとしても、台湾を守るために中国を撃退するという方針を決めていたことが、今回明らかにされた機密文書に書かれていたわけだ。

尖閣問題についても、バイデン政権の方針は不透明だ。菅義偉首相がバイデン候補の勝利を確信した段階で行った電話会談で「日米安保第5条の適用範囲である」という言質を引き出したので、安心だという人もいるようだ。だが、オバマ政権時代のバイデン副大統領は、中国が尖閣を含む東シナ海上に防空識別圏を設定した2013年12月、当初は「絶対に認められない」と言っていたにもかかわらず、訪中して習近平に会ったのちは、その設定をあっさり容認した。後になって、同時期に息子のハンターが経営に関わるヘッジファンドに中国銀行から多額の資金が振り込まれていたという“噂”が一部米国メディアや華人メディアで報じられ、バイデンはチャイナマネーと引き換えに「尖閣を売った」のではないか、と憶測を言う人も出てきた。

また「自由で開かれたインド太平洋」については、少なくともそのまま踏襲するつもりはないことも、その言動から明らかになっている。

菅首相がバイデン候補との初めての電話会談で「『自由で開かれたインド太平洋』の実現に向けて連携したい」と述べたことに対して、バイデン候補が「『繁栄し、安全なインド太平洋』の基礎として日米同盟を強化したい」と答えたことを、朝日新聞など日本メディアも報じている。それに引きずられてか、菅首相までも「平和で繁栄したインド太平洋」と表現を変えてしまっている。

「自由で開かれた」というのは、「閉じられた統制社会」である中国に対峙する民主的自由社会の共通価値観の象徴であり、その価値観を守るために日米インド、オーストラリアらとともに組み立てた安全保障の枠組みだ。こうした価値観を「繁栄」「安全」「平和」といった言葉にすり変えてしまうと、平和や繁栄のために、自由で開かれた社会を犠牲にしてもいい、という誤ったメッセージを中国に与えかねないのではないだろうか。つまり、中国が軍事力を背景に圧力をかけてきた場合、あるいはチャイナマネーや広大な市場を餌に譲歩を迫ってきた場合、「民主的自由主義的な価値観を犠牲にしてでも、中国の言う繁栄や平和を受け取りたい」と言っているも同然に私には聞こえるのだ。

日本は台湾ともっと連携を

もちろんバイデン政権が、一部の識者が言うように対中強硬姿勢を崩さず、台湾を民主国家の同盟パートナーとして関係緊密化路線を継続する可能性もあり、そうであることを強く期待している。だが、米国が中国との平和と安全を、日本や台湾との共通の価値観よりも優先するように変わっていくのならば、日本は今度こそきちんと憲法と国防の議論を行い、この米国依存体質から脱却する方法を考えるときかもしれない。

そして、おそらくは脅威の最前線に立たされることになるのは台湾だ。もし日本が台湾との複雑な歴史を振り返り、その絆の深さに思い至るならば、日本だけで怯えたり日和ったりするのではなく、同じアジアの民主主義国家、自由社会国家同士としてもっと連携し協力し、共通の脅威に立ち向かっていく方策を考えるべきだろう。

福島 香織

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