吉田、酒井、遠藤。サッカー五輪代表「オーバーエイジ枠」3選手の責任と葛藤

吉田、酒井、遠藤。サッカー五輪代表「オーバーエイジ枠」3選手の責任と葛藤

  • 日刊SPA!
  • 更新日:2021/07/22

◆オーバーエイジ3選手の存在感

コロナ禍の影響を受け、開催について右往左往した東京五輪がいよいよ開幕だ。7月22日に行われる男子サッカー日本代表の初戦は、U-24南アフリカ代表が相手となる。

7月の強化試合を振り返ると、12日のU-24ホンジュラス代表戦には3-1で勝利。続いて17日に行われた優勝候補筆頭に挙げられるU-24スペイン代表との試合も1-1と引き分けと、上々の調整結果を見せている。そのなかで大きな影響を与えているのはオーバーエイジ枠として選出された吉田麻也(32歳)、酒井宏樹(31歳)、遠藤航(28歳)で、この直近の2戦においても彼らが出場しているときとしていないときで試合内容は変わり存在感を示していた。

◆東京五輪のオーバーエイジ枠は3人

五輪における男子サッカーは、基本的に23歳以下の選手でチームを構成するというルールになっている。1年延期となった東京五輪に限り、その年齢制限は24歳以下(1997年1月1日以降に生まれた選手)に変更となった。

また、本大会にかぎり年齢制限のない選手を3人まで登録できるオーバーエイジ枠というルールもあり、東京五輪においてはこれまでに40以上のタイトル獲得数を誇るダニエウ・アウベス(38歳)がU-24ブラジル代表に参加し、世界トップクラスのクラブチームであるレアル・マドリードに所属するダニ・セバージョス(24歳)やマルコ・アセンシオ(25歳)がU-24スペイン代表に名を連ねている。

◆24歳以下の枠を取ることにプレッシャー

このオーバーエイジ枠というルールは他のどの大会どの競技にもない独特なルールで、選出された選手も特別な立場となり自ずと責任のある役割を任されるリーダーとなる。オーバーエイジの選手としてU-24日本代表に参加している酒井宏樹は、オーバーエイジ枠で選出された選手の実情について明かした。

「ロンドン五輪のときは正直オーバーエイジの選手を100パーセントで歓迎していませんでした。今回もそういう選手が少なからずいると思います。(24歳以下の選手の)枠を取ってしまっている以上、プレッシャーを感じています」(6月10日、代表合宿中に行われたオンライン会見での発言を抜粋、以下同)

続けて、その責任についても語っている。

「ピッチ内でもピッチ外でも引っ張っていかなければならない立場だと思います。でも、そういうタイプではないので自分の場合はピッチ内のプレーで示していかなければなりません」

◆強い抗議の姿勢は「マネージメント術」

同様にオーバーエイジ枠のひとりでキャプテンとしてもチームを牽引することになった吉田麻也も、その在り方についてコメントしている。

「何が足りないかではなく何をしなければならないかを考えて挑んでいきたい。よりベターになるようピッチ内外でまとめていけたらと思います」(7月5日、代表合宿中に行われたオンライン会見での発言を抜粋、以下同)

さらに、選出について「結果で恩返しするしかない」と感謝の気持ちを示し、良い結果を残すために必要なことを明かした。

「そのためには強く要求すること、お互いに高め合うことが必要。自分を犠牲にしてチームのために日本のために戦えるかは、自分がカギになると思っているのでうまく先導したい」

その吉田麻也は6月に行われたガーナ戦(6-0)で、とある行動をもってチームを先導した。U-24日本代表が5点をリードする展開で相手は集中力が欠如し荒々しいプレーが増えていた。その最中で田中碧が危険なタックルを受けてピッチに倒れ込んだ。それを近くで見た吉田麻也はタックルをした相手選手に激昂しながら詰め寄り、強い抗議の姿勢をアピールした。試合後にこの場面を振り返った吉田麻也は、マネージメント術であったことを明かした。

「僕は(前A代表キャプテンの)長谷部さんみたいに優等生ではありません。かわいい後輩が削られたら、やっぱりそこは行かなければなりません。オーバーエイジなのに大人気ないと思われるかもしれませんが、これもゲームマネージメントのひとつです。特に、練習試合でのこのようなシーンは、次にやったら許さないという意思表示を出さなければなりません。実際に、あの後のプレーではほとんどラフプレーがなくなったように思います。ジャッジであったり、サポーターであったりを味方にするというのも試合をマネージメントするひとつの術で、そういうところをみんなに見て感じてほしい」(6月5日、ガーナ戦後のオンライン会見での発言を抜粋)

◆一体誰のための何のための大会なのか

五輪にのみ設けられたオーバーエイジ枠の選手は特別な選手であることを理解し、結果を残そうとあらゆる場面で自身の経験を生かした責任ある行動を示している。その姿勢は、組織における中間管理職のあるべき姿を示しているように感じる。

そのリーダーは、時として批判を浴びるとわかっていながらも、覚悟をもって自分たちの意思をトップへ示さなけれならないことが訪れる。吉田麻也も東京五輪の壮行試合となったU-24スペイン代表戦で、組織委員会などに向けて参加アスリートとしての意思を示した。

「この大会を開催するにあたって、国民の税金がたくさん使われていると思います。なのに、国民が見に行けないというのであれば、一体誰のための何のための大会なのかと感じてしまう。アスリートはやっぱりファンの前でプレーしたい。今日もそうでしたが、残り5分、10分の苦しいときにファンやサポーターのエネルギーが確実に僕らの助けになります。僕らはトップトップ(注:トップ・オブ・トップ)ではないので、その助けを必要としています」(7月17日、スペイン戦後のオンライン会見での発言を抜粋、以下同)

◆賛否両論の意思表示で得られたものが

さらに、かけがえない自身の経験談を用いて、未来を見据えた社会的意義を説いている。

「僕が2002年の(日韓)ワールドカップで経験したように、時差がなくオンタイムで試合を見られるというのはものすごく感動と衝撃を受けます。そのために五輪を招致したのだと思います。ソーシャルワーカーの方々が毎日命を懸けて戦っていることは理解していますし、僕らは五輪がなくならなかっただけで感謝しなければならない立場なのも理解しています。ただ、選手たちも毎日命を懸けて人生を懸けて戦っているからこそ、この場に立てていることを忘れないでほしい。マイナー競技で五輪に懸けている人はもっといます。家族もそうです。自分の五輪に出る姿ならリスクを背負ってでも見たい人はいるでしょう。家族もいろいろなものを犠牲にして我慢して、僕たちをサポートしてくれています。選手だけでなく家族も戦っている一員なのです。その人たちが見られない大会とは、誰のため何のための大会だろうというクエスチョンがあります。ですから、真剣にもう一度検討していただきたいと思います」

この意思表示は賛否両論を呼んでいるが、同じアスリートたちからは賛同する意見が多数となっている。同じく男子サッカーで出場するU-24日本代表の堂安律もSNSを通じてキャプテンの主張を後押しした。

残念ながら今回は最良の結果を生み出すことはできなかったが、これもマネージメント術のひとつと言えそうだ。吉田麻也本人は決して狙っておらず本心のみを口にしたのだろうが、組織のために力になると感じたサポーターの声援を欲してトップに対して主張した。要求した力は得られなかったが、リスクを承知のうえで矢面に立ち主張したことで思わぬ副産物を得た。それは、組織の結束だ。組織を代表して意思を示したことで組織に属する者たちからの賛同と信頼を勝ち取った。思うような結果は得られなかったが、それで得た力は本大会で効果を表して本当に臨むメダル獲得という結果をもたらす助力となることだろう。

本大会期間中も、このようなオーバーエイジ枠の選手によるリーダーシップが見られることだろう。組織に属する方々も彼らの一挙手一投足を見て学べるものがあるはずだ。

<取材・文/川原宏樹>

【川原宏樹】

スポーツライター。日本最大級だったサッカーの有料メディアを有するIT企業で、コンテンツ制作を行いスポーツ業界と関わり始める。そのなかで有名海外クラブとのビジネス立ち上げなどに関わる。その後サッカー専門誌「ストライカーDX」編集部を経て、独立。現在はサッカーを中心にスポーツコンテンツ制作に携わる

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