「阪南のタイガーバームガーデンや!」台湾新宗教が日本に築いた“巨大なカオス寺”が異世界すぎた

「阪南のタイガーバームガーデンや!」台湾新宗教が日本に築いた“巨大なカオス寺”が異世界すぎた

  • 文春オンライン
  • 更新日:2021/01/17

「ああ、台湾の寺ってあそこですね。たまにお客さんを乗せますよ。台湾人の信者よりも、工事関係者の日本人を乗せることが多いんですが──。あそこ、かれこれ10年ぐらい工事してますけど、いつ完成するんでしょうね」

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2020年12月上旬、私が乗ったタクシーの運転手はそう語った。南海本線箱作駅から1キロすこし、関西国際空港に離発着する飛行機を望む高台に位置するのが、私が目指す住吉山雷蔵寺だ。台湾の「真佛宗」という新宗教の日本最大の拠点として、知る人ぞ知る寺である。

チベット密教の法衣に身を包んだ静香さん

タクシーが到着すると、周囲に工事用車両が停められたままの山門には寺院名を彫った巨大な石碑が建っていた。さらに山を登ると左右には──、一言では説明が難しいほどいろんなものがあったが、詳しい描写は後にする。さておき、登りきった先には真新しい八角堂があり、その奥には今後に本堂を建設する予定だという空き地が広がっていた。

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八角堂の前で記念撮影する筆者(右)と、住吉山雷蔵寺住職の尼僧・静香さん。たいへん感じのいい台湾人のおばちゃんであった。

空き地で待っていたのは、赤いチベット密教の法衣に身を包んだ在日台湾人の尼僧である。彼女こそは蓮花静香金剛上師、すなわち住吉山雷蔵寺の住職だ(本来は「上師」と呼ぶべきだが、ひとまず本稿では静香さんと呼ぶ)。

ただ、寺と彼女について書く前に、まずは真佛宗について基礎的な説明をしておこう。

全世界の信者数は600万人

真佛宗は台湾嘉義生まれの中華民国軍元少校(少佐)・盧勝彦が、移住先のシアトルで1975年から説きはじめ、1982年に正式に教団を創始した教えである。

シアトル本部のほか、台湾中部の南投県草屯鎮に巨大な寺院を有し、香港や東南アジア・北米の華人社会に教えを広げている。2008年時点で世界の拠点は約300ヶ所(台湾国内で70ヶ所)。現在、全世界の信者数は公称600万人だ。

真佛宗の教義はチベット密教がベースとされ、そこに道教系の民間信仰や浄土信仰、さらに「活仏」である教祖の盧勝彦個人への崇拝が混淆した内容である。 台湾の宗教学者・丁仁傑が記すところでは「伝統仏教教団のきまりごとを受け入れず、教祖のイメージを突出して全面に出して」いるという新宗教だ。

中国大陸では「邪教」扱いだが……

事実、中国大陸において真佛宗(霊仙真佛宗)は、1995年から公安部によって「邪教」(≒破壊的カルト)とされ、法輪功などと並んで取り締まり対象になっている。地元の台湾においても、過去には『壹週刊』などの雑誌で、教祖の女性問題や金銭問題にまつわる複数のスキャンダルが報じられたことがある。

もっとも、中国国内における「邪教」認定とは、その宗教が中国共産党体制に不都合な存在だという意味でしかない。また、台湾のマスコミはかなり針小棒大なスキャンダル報道をおこなう。火のないところに煙は立たないとはいえ、台湾国内のゴシップ報道だけをベースに教団の性質を理解するのはフェアではない。

真佛宗は台湾国内では、国民党の韓国瑜(元総統候補)や呉敦義(元行政院長)、民進党の頼清徳(現副総統)など、与野党を問わず大物の政治家の訪問も受けている。政治家が選挙対策など目的として顔を出しても、社会的評価がマイナスにはならない対象、といった程度には、世間でそこそこ認知されている教団ということだ。

あくまでも私個人の感覚だが、オウムや統一教会のように本気で危険な破壊的カルトと十把一絡げにしてしまうのは、ちょっと気の毒な気もする。少なくとも日本国内の真佛宗については「台湾のちょっと変わった新宗教」くらいのイメージであり、危ない雰囲気は感じない。

混ぜるな危険!

では、真佛宗の日本最大の拠点、住吉山雷蔵寺の山内を詳しくご案内していこう。入り口の石碑をすぎると、左手にあらわれるのは巨大な観音像と石の獅子だ。

そして観音さまの右手の坂を登ると、なぜか弘法大師を祀った大師堂。その左手の石段には玄武・白虎・青龍・朱雀の四神(スーシェン)のレリーフがついた黄金の鳥居が三つ連なり、これらをくぐった先には、カナダのトロント市在住の香港人信者が寄贈したという黄大仙(広東文化圏で人気が高い仙人)と、媽祖や関帝といった道教の神々が祀られている。

さらに鳥居の左手には、ヒンドゥー教やチベット仏教の象頭神であるガネーシャが10体ほど祀られていた。あるガネーシャの前に供えられていたのは、日本の招き猫がプリントされた米俵。さらにガネーシャコーナーの奥には、巨大な仁王や不動明王の像もある。

謎の“台湾密教地蔵”

また、足を戻して大師堂の右手の坂を上がると、「福徳地蔵尊」という、もともとこの山に安置されていたお地蔵さまが祀られている。山中で荒れ果てていた小さなお堂を整備したらしく、新しい花と供え物があった。

その隣には十二支の石像、さらに近年完成した八角堂がある。堂内に入れてもらったところ、宇宙空間を模した天井には北斗七星とカシオペヤ座が輝いていた。

中央に鎮座するご本尊の正体は?

音響効果を計算して作られているらしく、声がよく響く。須弥壇(しゅみだん)の左右には台湾製の巨大な木魚と磬子(けいす)、中央には恰幅のいい金色のご本尊が鎮座している。思わず拝んでしまってから判明したが、ご本尊の名は根本上師蓮生活佛──。つまり教祖の盧勝彦氏であった。

先にも述べたように、八角堂の背後は広大な空き地となっており、やがて本堂が建設される予定である。空き地のさらに裏手、10メートルほど山道を登った上には、蛇神である白長大神(しろながおおかみ)が祀られた古い神社がある。

社殿は住吉山雷蔵寺の敷地外なのだが、やはり訪れる人が少なく森に埋もれていたところを雷蔵寺が間伐をおこない、参道を整備した。台湾の新宗教が、山に埋もれたお地蔵さまや古い神社を信仰施設として復活させているのは、日本人としてありがたく思うべきだろうか。

パワフルおばちゃん巨刹を作る

住吉山雷蔵寺はいまや、私が内心で「阪南のタイガーバームガーデン」と呼んでしまったほどの威容を誇る巨大な珍寺なのだが、まだ建設途中である。住職の静香さんによると、今後も「生命が続く限り」寺の建設や仏像・神像の設置を進めていく予定という。

かつて静香さんは若き日、開教間もない真佛宗に台湾国内で入信した後、日本に留学する夫とともに来日。いったん、留学生として学んでから日本国内で就職したのだが、求道の念は断ち難く、真佛宗の信仰は保持したまま高野山に登り真言密教の阿闍梨(あじゃり)になったという。山内に大師堂があるのもこうした事情ゆえだ(現在でも雷蔵寺の法要には、日本人の阿闍梨の友達が来て法螺貝を吹いてくれるらしい)。

やがて静香さんは2000年ごろに私財を投じて箱作のこの山の土地を買い、ゼロから開墾を開始。その後も私費と寄付によって山地を切り開き、特に2010年ごろから工事を本格化させた。

結果、いまや1200坪の山域の大部分を伽藍や信仰の対象物(仏像ほか)が占める、謎の巨大寺を築いてしまった。

静香さんは若き日に宝石会社に勤務し、社内で全国トップクラスの売り上げを叩き出した凄腕のセールスレディだったそうで、そのスキルと情熱を寺の建設に注ぎ込んでいるのである。住吉山雷蔵寺は、在日台湾人のパワフルなおばちゃんの腕一本で作り上げられたものと言っていい。

地域に溶け込む珍寺

静香さんは気さくな台湾人のおばちゃんである。日本で新宗教の取材をおこなっていると、浮世離れしすぎて一般人とのコミュニケーションが難しい人に出くわすケースもあるのだが、彼女にそういった雰囲気はない(ただし「中国大陸で邪教と呼ばれていることをどう思いますか?」と質問すると本気で怒られる)。

人当たりがよく営業上手な静香さんの人柄のためか、住吉山雷蔵寺はかなり地域に溶け込んでいる。寺の公式YouTubeチャンネルの動画を見る限り、正月などには地域の子どもたちを招いて餅まきもおこなっているようだ。寺が祀ったり整備したりしている福徳地蔵尊のほこらや白長大神の神社も、地域の老人から世話を頼まれたらしい。

雷蔵寺の熱心な信者の一人には、大阪府内に本社を置く某台湾系大企業の幹部がいる(信心深い人らしく、寺の建設にかなり貢献しているようだ)。また、寺の行事の際には、阪南市はじめ近隣自治体の市長や市議、さらに事実上の台湾大使館である台北駐日経済文化代表処の職員らがしばしば参加しており、大阪府南部地域と台湾の政財界を草の根でつないでいる。

日本側の要人たちが、真佛宗の中国国内や台湾国内での位置づけをちゃんと理解しているかは不明だが、事実としてこの寺は地域と台湾の貴重な架け橋の役目を果たしているのである。

阪南の台湾珍寺・住吉山雷蔵寺。コロナ禍によって海外に出られない昨今、身近な異世界スポットとして一見をおすすめする。

撮影=安田峰俊

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法輪功や全能神から、真佛宗やまともなプロテスタント系地下教会の一派まで。中国大陸で「邪教」認定されてしまった諸宗教と、洪門(チャイニーズ・フリーメーソン)をはじめとした秘密結社の現在を追う安田峰俊の新著『現代中国の秘密結社』(中公新書ラクレ)は2021年2月6日刊行です。

(安田 峰俊)

安田 峰俊

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