メーガン妃を逃して英国は大損?知られざる「発信力」と「経済効果」

メーガン妃を逃して英国は大損?知られざる「発信力」と「経済効果」

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2020/09/16
No image

暴露本というより釈明本

先月、世界同時発売され話題を呼んだ、ヘンリー王子とメーガン妃の伝記『Finding Freedom』。著者であるオミッド・スコビーとキャロリン・ディランが、メーガン妃とヘンリー王子の公務に2年以上にわたり同行する英王室ジャーナリストであることから、当初、暴露本なのではないかと噂されたが、蓋を開けてみたら、“暴露”というよりも“釈明”に近いものだった。

No image

ヘンリー王子とメーガン妃の周囲にいる100人以上の証言を元に、二人の出会いから王室離脱に至るまで物議を醸してきたニュースを二人の立場から紐解く内容となっている本書。“二人の立場から”といっても、二人の直接的な言葉は一つも記されていない。イギリス王室はロイヤルファミリーが公式の伝記を書いたり、誰かに書かせたりすることを禁じているためだ。

本書が特に強調するのは、イギリスのEU離脱「ブレグジット」をもじって「メグジット」と称された二人の王室離脱について、メーガン妃はあくまで“きっかけ”にすぎず、もともとヘンリー王子が王室に深い確執があったという点だ。王室の財布の紐を握るチャールズ皇太子が予算においてウイリアム王子を優遇し、ヘンリー王子が自由にチャリティなどの活動ができなかったこと、王室関係者がタブロイドに二人の情報をリークし、英メディアの攻撃から二人を守らなかったことなど、「王室からの離脱は致し方なかった」ということが切々と綴られている。

しかしその一方で、ヘンリー王子とメーガン妃が秘密裏に公式サイトで使用する名称「Sussex Royal」を商標登録しようとしていたことには触れていないし、キャサリン妃の7倍とも言われるメーガン妃の高額な衣裳代についても説明がない(※1)。それどころか本書の冒頭に、苦学して名門大学を卒業したメーガン妃は「質のよく長持ちする物を買う」賢いショッパーだという記述があり、正直、違和感を覚えてしまった。結局、ヘンリー王子とメーガン妃にとって都合のいいことしか書かれていないようだ。

※1 オンラインメディアの「TOWN&COUNTRY」の記事によると、ロイヤルファミリーの衣装代は、どうやら“プライベートな経費”としてチャールズ皇太子の私的収入から支払われているようだ。だから、本当は国民がとやかく言うことではないのかもしれない。チャールズ皇太子はけっこうなお金持ちで、2018年には約29億4,610万円の土地収入があったと言われている。

No image

いつも比べられていたキャサリン妃(左)とメーガン妃(2018年7月14日撮影)〔PHOTO〕Getty Images

ただ、『Finding Freedom』にはこれまでメディアであまり語られることのなかった、メーガン妃に関する興味深い内容もあった。それを読んだ筆者が改めて思ったのは、イギリス王室が逃した魚は大きかった、ということ。メーガン妃は、王室にとって“救世主”だったのかもしれないのだ。

スキャンダルの度に沸き起こる王室廃止論

本題に入る前にまず、イギリス王室の現在の立ち位置について説明したい。多くの国民に愛されているイギリス王室だが、実は王室廃止論者は一定数いる。故ダイアナ妃とチャールズ皇太子が離婚したときにイギリス王室の人気は低迷し、王室廃止論が湧き上がったが、最近でも3度そうした状況は起こった。

No image

チャールズ皇太子(左)と故ダイアナ妃(1986年5月3日撮影)〔PHOTO〕Getty Images

1度目は、昨年、性的人身取引で起訴・勾留されたのち自殺したアメリカ人のジェフリー・エプスティーン被告とエリザベス女王の次男アンドルー王子の関係が暴露されたとき。2度目は、今年の1月にヘンリー王子とメーガン妃が王室の高位王族から退くと発表をしたとき。そして3度目は、今年の3月末に、チャールズ皇太子が新型コロナウィルスに感染したとき。いずれのときも、メディアは王室廃止論に関する記事を報じた。このように王室の不人気やスキャンダルはすぐさま王室廃止論へと結び付けられる風潮がある。

だが、それでも英国王室は1000年もの長い間、生き抜いてきた。この理由は、王室が国民に寄り添い、時代の変化とともに変わってきたからだろう。伝記によると、ヘンリー王子が以前、とあるイベントで「私たちは、家族、奉仕、義務、尊厳という(英国の)普遍的な価値を伴う尊敬される機関の一部です」と語ったように、王室は英国の集団アイデンティティの象徴としての役割を担っているからこそ生き残ってこれたのだ。

英王室を救うポリコレ的存在

そんな王室にとって、メーガン妃は必要な存在だったのではないだろうか。

離婚歴、アフリカ系アメリカ人、庶民出身――過去にヘンリー王子が交際してきた上流階級出身の白人金髪美女たちとは正反対のメーガン妃だが、ヘンリー王子が王室から彼女の交際を反対された、とは本書のどこにも書かれていない。
強いて言えば、二人が交際から1年も経たずに結婚を決めたことをウィリアム王子が心配し、「必要なだけ時間をかけて、“この女の子”(this girl)のことを知るべきだよ」と言ったくらいだ。ちなみに、ヘンリー王子はこの“this girl”の声のトーンに、兄の尊大な態度を感じとり、これをきっかけに兄弟の関係がギグシャクし始めたそうだ(そして、チャールズ皇太子がコロナウィルスに感染したのをきっかけに兄弟の仲は改善したようだ)。

話を戻すと、王室はメーガン妃のことを反対しなかった。それは、現在のイギリスが様々な人種が入り混じり、伝統的な家族の形も変化している、多様性に富んだ社会であることが背景にある。実際、エリザベス女王の4人の子供のうち3人が離婚をしているし、王室はポリティカリーコレクトでいるためにも、メーガン妃との結婚を反対できなかったのだろう。

No image

今年3月、コモンウェルス・デー(イギリス連邦加盟国の記念日)の式典にヘンリー王子と出席し、最後の公務を果たしたメーガン妃(2020年3月9日)〔PHOTO〕Getty Images

本書には記されていないが、筆者が読んで感じたのは、イギリス社会の多様性をアピールする他にも、王室はメーガン妃に対して社会的・経済的な期待も抱いていたのではないだろうか。

まず1つ目は、アフリカ系のルーツに加え、メーガン妃が結婚前にアフリカ支援の活動に関わってきた経歴が、アフリカやアジアなどの非白人圏のイギリス連邦国で支持されるだろうという期待。イギリス連邦国にはかつてのイギリス植民地だった53カ国が加盟しており、メーガン妃とヘンリー王子は結婚後、連邦関連の公務に力を入れることが決まっていた。ジバンシィが作ったメーガン妃のウェディングドレスのヴェールには53の連邦国の花が刺繍されていたぐらいだ。

No image

挙式後の祝福の中でキスをする二人。メーガン妃のベールに刺繍された花の模様に注目(2020年5月19日撮影)〔PHOTO〕Gertty Images

人気ブロガー&インスタグラマーだったメーガン妃

2つ目は、彼女のインフルエンサーとしての発信力。イギリスではそれほど有名ではなかったが、アメリカでは女優として人気が出る前の2010年から2012年までは匿名の売れない女優の視点でハリウッドの裏側を綴ったブログを、2014年からは大好きなワイン「ティニャネロ(Tignanello)」にちなんだ「The Tig」というブログを始めていた。「The Tig」を開始したときはすでにドラマ『SUITS スーツ』のレイチェル役で人気を博していたが、彼女はこのブログ上でグルメ、ファッション、旅行、男女同権を含む社会問題について発信していたことが本書に記されている。

No image

当時のメーガン妃(2017年1月21日撮影)〔PHOTO〕Getty Images

2017年の婚約発表前に閉鎖されたこのブログは、セレブのブログというよりは「ありふれた女の子の日々」を赤裸々に語ったものだったらしい。このブログは一般の女性に加え、セリーナ・ウィリアムズやプリヤンカー・チョープラーなどのセレブからも大きな支持を得ていたほど人気だった。

本書には、メーガン妃がアンジェリーナ・ジョリーを目標にしていたことも記されている。人生を女優業に捧げるのではなく、女優の活動で必要な生活費を稼ぎ、残りは「社会を変えるため」の活動に費やしたいと考えており、自身のブログやインスタグラムをプラットフォームにして社会的活動を展開したいと望んでいたようである。

メーガン妃にはヘンリー王子に出会う前から、インフルエンサーとしての発信力があった。彼女ならネット世代の若いロイヤルファンを取り込めるのでは、と王室に期待されていてもおかしくはない。

「メーガン効果」で潤ったイギリス

3つ目は経済効果だ。ロイヤルメンバーに人気があれば、バッキンガム宮殿を始めとする王室ゆかりの地に世界中から観光客が訪れる。そして、王室にまつわる数々のグッズや王室御用達ブランドが飛ぶように売れる。事実、キャサリン妃とメーガン妃が身につける衣装や装飾品はメディアに登場した途端、売り切れてしまう。とりわけフォトジェニックなメーガン妃には「キャサリン効果」と同等、いやそれ以上の経済波及効果が見込めたのだ。

No image

土産屋に並ぶ、ヘンリー王子とメーガン妃のグッズ〔PHOTO〕Getty Images

『ヘンリー王子とメーガン妃』の著者・亀甲博行氏によると、王室にかかる年間コストは約438億9000万円だが、彼らが生み出す経済効果は約2,651億5,500万円とおよそ6倍だ(※2)。一説には、2018年5月に行われたメーガン妃とヘンリー王子の結婚式は約1,269億円もの収入を観光業界にもたらせたといわれるほど、王室が稼ぎ出す収入はイギリス経済にとっては見逃せない(※3)。

だからこそ、ケンブリッジ公爵夫妻(ウィリアム王子とキャサリン妃)とサセックス公爵夫妻(ヘンリー王子とメーガン妃)をイギリスのメディアは「The Fab Four(ザ・ファブ・フォー)」と呼んでもてはやした。4人はあらゆる意味で王室やイギリスに新時代をもたらすビートルズのような存在になると見込んでいたのだ(ザ・ファブ・フォーの意味は、ビートルズの4人を指す)。

No image

「ザ・ファブ・フォー」と呼ばれていた頃の4人(2018年12月25日撮影)〔PHOTO〕Getty Images

しかし、王室が抱える問題や英メディアの執拗なバッシングによって、イギリスはこの経済効果を自らの手で握りつぶしてしまった。

自由を求めて(Finding Freedom)王室を離脱した二人は、“釈明本”に続いて、またも世間を驚かせている。先日、ドキュメンタリーやTVシリーズ、子供向けの番組などを制作する会社を設立し、Netflixと3年にわたる、およそ160億円の大型契約を結んだことが報じられた。メーガン妃の自己プロデュース力と発信力は王室に収まるものではなかったようだ。

※2 文春新書『ヘンリー王子とメーガン妃 英国王室 家族の真実』亀甲博行 著
※3Meghan Markle: Wedding to Prince Harry earned $1.2 billion for U.K. as royals failed to protect her – Mercury News

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

  • このエントリーをはてなブックマークに追加