消費税引き上げの話題に隠れてではあるが、「相続税増税」がひたひたと身近に迫っている。2023年度の税制改正により、相続税が増税されるというのだ。
今こそ、親が元気なうちにやっておけることを知ったり、相続についての最低限の基礎教養を身内に蓄えることを考えてみるべきではないだろうか。
ベストセラー『相続格差』は、相続専門税理士の天野隆氏が、これまで扱った2万件以上の相続例から分析した「モメない分け方」のコツや、円満相続の秘訣を伝授し、相続の幸福について考える1冊だ。
天野氏がたどりついた「相続で縁が切れる家族」「仲が深まる家族」の分岐点とは──。
3回にわたり、同書からの転載で紹介してきたが、今回はその最終回。相続に絡む夫婦トラブルを避けるためにも、「夫婦で共有しておくべき情報」について解説する。
互いの実家の相続はオープンにしておく
わが国では平均寿命が長くなったために、二次相続が発生するときの子どもの年齢は60歳前後が一般的です。つまり、その時期に、夫婦それぞれに親の相続が発生するわけです。
このときのコツとしては、相続の内容を隠さずに伝えることです。相続した財産をどう処分するか、どう使うかまでいう必要はありませんが、いくらもらったか、くらいはオープンにしたほうが、あとあとの夫婦関係にとってよい結果になると私は考えます。ついでにいえば、自分が亡くなったときの相続も、事前に夫婦で話し合っておくのが理想的です。
一流企業を勤め上げた私の友人なのですが、何人かで食事に行ったときに、どうも支払いが渋いということがありました。高給取りだったのに変だなと思ってわけを聞くと、奥さんが全部家計を握っているというのです。自宅もあって特別な出費があるわけでもないのに、自由に使えないらしいのです。
奥さんの実家で相続が発生したものの、奥さんは相続放棄をして、弟にすべて渡したとのこと。これを聞いて、私は内心「本当かなあ」と思いました。ある程度の財産をどこかに隠しているかもしれません。もっとも、解明する必要はありませんから、彼の自虐ネタとして笑って聞くだけでしたが。
私がそう思うのも、実際の相続の現場でこんなことがよくあるからです。遺産分割協議が済んで、それぞれの分け前が決まったとき、「うちの家族には伝えていないので、内緒にしてくださいね」と私にいう女性が結構いらっしゃるのです。へそくりを蓄えておく感覚なのかもしれません。
意外と少ない!?愛人が相続人になるケース
次はガラッと変わって、愛人がいるケースです。
贈与の相談で比較的多いのが、相続人以外への贈与です。婚姻関係がない愛人やパートナーは相続権がないために、遺言書に記さない限り、遺産を相続することができません。
そのため、相続が発生する前に生前贈与でお金を渡しておこうというわけです。守秘義務があるので具体的にはいえませんが、おそらく愛人だろうと推測できるケースはよくあります。
「愛人であっても遺言書に書いてあれば相続できる」とよく書かれていますが、実際にそうした例はあまりありません。存在を秘密にしているから愛人なのです。見ず知らずの女性の名前が遺言書に出てきたら、大騒ぎになってしまうでしょう。それを避けるために、生前贈与で解決するわけです。
個人の場合には、損益計算書や貸借対照表、キャッシュフロー計算書などは作成しませんので、生前贈与しても明るみに出ることはまずありません。
税理士としては、贈与をした事実は知っていますが、贈与の場に立ち会うわけではないので、相手がどんな人なのかはわかりません。税理士が立ち会っても意味がありませんので、そういう依頼をしてくる人はいないのです。
もちろん、愛人以外にも血縁でない人に対して、贈与することはもちろん、遺言に記すことで遺産を相続することはできます。多くの場合は、孫、長年世話になった家政婦さんですが、ときには目をかけている若者に対する学費支援も耳にします。
ところで、愛人に子どもがいると、どうなるのでしょうか。その場合、認知していればほかの子どもと同じく、相続の対象になります。ただし、相続の場面で認知した子どもが何人も出てくると、たいていモメます。私たち税理士は、故人の戸籍に認知した子が何人も出てくると緊張が走ります。
天野隆(あまの・たかし)◎慶應義塾大学経済学部卒業。税理士法人レガシィ代表社員税理士、公認会計士、宅地建物取引士、CFP。相続専門税理士法人として累計相続案件実績件数は24000件を超える。アーサーアンダーセン会計事務所を経て、1980年から現職。『やってはいけない「実家」の相続』(青春出版社刊)他、99冊の著書がある。

『相続格差』(天野隆・税理士法人レガシィ著、青春出版社刊)