アラ還・女性・単身・低収入。果たして家は借りられるのか?ずっと賃貸で良いと思っていた私が真剣に老後の住まいを考え始めた

アラ還・女性・単身・低収入。果たして家は借りられるのか?ずっと賃貸で良いと思っていた私が真剣に老後の住まいを考え始めた

  • 婦人公論.jp
  • 更新日:2023/03/19
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かつて女性の辛さは「女三界に家無し」と表現されました。しかし現代、「本当に住む家が買えない、借りられない」という危機的状況に直面するケースも増えています。そして男女雇用機会均等法で社会に出た女性たちが、会社勤めをしていればそろそろ一斉に定年を迎える時期に…。雇均法世代である筆者は57歳、夫なし、子なし。フリーの記者・編集者。個人事業主ではあるが、見方によっては「無職」。ずっと賃貸派だった彼女が、60歳を目前に「家を買おう」と思い立ち、右往左往するリアルタイムを、心情とともに綴ります。

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家賃が家計に重くのしかかってくる

このところの物価上昇で、家計簿を見直した人も多いのではないでしょうか。そこで質問です。あなたの家計で、最も多くの割合を占めているのは何費ですか? おそらく、住居費ではないでしょうか。

こんな調査があります。住宅費を支払った後の家計に「余裕がない」中高年シングル女性は、なんと6割にも及びました。当然ながら、年収が下がるほど、余裕がない人の割合は増えます。年収300万円未満では77.9%、200万円未満だと86.1%の人が、「あまり/全く余裕がない」と答えました。任意団体「わくわくシニアシングルズ」が昨年末にまとめた調査で、40歳以上のシングル女性2345人にアンケートした結果です。

この調査で、回答者らのコメントには、「家賃の負担が非常に大きい」「収入が大幅に減ったときに、家賃が払えるか」といった住居費の負担への不満と不安、また「年金生活者でも暮らせる単身者向けの公的住宅の拡充を」といった要望が並びました。でも、考えてみてください。

年収200万といえば、女性の厚生年金の受給額とほぼ同じです。働いてきた女性がもらえる年金の平均額は、2022年4月時点で約191万円 です。一方、家賃は、全国平均の最新値で月5万5675円(2018年) 、年間にしたら約67万円かかります。東京など首都圏や近畿圏などではもっと高額でしょう。年金暮らしになったら、家賃が家計に重くのしかかってくるのは目に見えています。

「恐ろしい状況」に自分自身がいる

住居費のやっかいなところは、削りたくても削れない、という点です。食費ならば、外食をやめるとか、業務スーパーを活用するとか、(わずかではあっても)削ることが可能です。美容院や服などのおしゃれ代も、コンサートや映画、本などの教養・娯楽費も、我慢すれば減らせます。ところが、家ばかりは、おいそれとは削れません。金額が大きいうえに、削るためには引っ越しが必須です。

しかも引っ越すにもお金が要ります。引っ越し代だけでなく、賃貸で住み替えるなら敷金礼金などで家賃の約4~5カ月分がかかります。購入するとなると、もっとまとまったお金が必要になります。ローンが組めたとしても頭金のほか、物件価格の約1割の諸費用も用意しなくてはいけません。でも、日々の生活費に汲々としていると、「先立つもの」を用意できず、引っ越しできず、家賃の負担を減らせない、という負のスパイラルに陥ってしまいます。

そのうえ、賃貸物件では高齢者差別があります。これまで、「女性」の単身者というだけで、保証人問題などで賃貸契約のたびに嫌な思いをしてきた人も多いのではないでしょうか。非正規の場合はなおさらです。さらに60歳を超えると、大家が「孤独死リスク」を恐れるため、「高齢者」という壁が立ち塞がると言われます。

――という八方塞がりの「恐ろしい状況」に自分自身がいる、ということに、私は最近になって、はたと気付きました。

もともと、私は、賃貸派でした。生涯ずっと、自分が住むのは賃貸が良いと思っていました。住み替えがしやすいからです。引っ越し魔の「住み道楽」で、新築物件を渡り歩いて来ました。社会人になってからの引っ越しはなんと12回。うち1回を除いて、ずっと賃貸でした。ほとんどが新築でしたから、その都度、最新の住宅設備の恩恵に浴しました(おかげで貯金が貯まりませんでしたが、苦笑)。

温水便座も浴室乾燥機もIHコンロも当たり前。かつては新築だとホルムアルデヒドが酷かったものですが、最近は未入居物件でも喉や目が痛くなりません。我が身で、日本の住宅性能のすごい進化を体感してきました。そして、部屋が古びて来たら、または飽きたら、次の部屋に引っ越すのです。煩わしいご近所付き合いもなく、ずっと新しく快適な家に住めます。

今後、部屋は借りられるのか

実は、投資用に不動産は持っています。でも、自分が住む家を買う気はありませんでした。購入してしまうと、その物件や土地に縛られるからです。設備が古びたら自分で取り替えないといけません。維持補修にお金がかかります。固定資産税も毎年払わなくてはいけません。

マンションならば管理費や修繕積立金がかかるし、区分所有なので他の住民と管理組合を作り、「みんなで」物事を決めなくてはいけません。一戸建てなら自分で全てを決められますが、その分メンテナンスも、自分だけでお金を工面し、実施しなくてはいけません。屋根や外壁、水回りなどの修繕を、計画だてて、実施する必要があります。でないと家は傷むからです。そもそも、東京では金額的に一戸建てには手が届きません。

つまり、購入してしまうと、縛られる上に、手間とお金が掛かるのです。だから、修繕も税金も大家に任せられる賃貸の方が得だし楽だと思っていました。自分の好きなように内装を変えられる購入物件への未練はありましたが、買うにしてもまだまだ先、「人生最後から二番目の家」まで取っておこうと、ぐっと我慢してきました。ちなみに、人生最後の家とは、健康寿命が尽きたあとに入る病院か施設になります。その前に住む家が、自分で選べる最後の家、「人生最後から二番目の家」です。

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ところが、です。ふっと気付くと、私はもう57歳。フリーの記者・編集者で、どの組織にも属していません。個人事業主ですが、見方によっては「無職」。売り上げがなければ収入はありません。事業収入はあっても不安定・不定期のうえ、恥ずかしながら、ごく少額です。独身で、夫もいない、子供もない。

「会社員でもない、定期収入もない、夫もいない、子供もいない」と、「ない、ない」づくし。世間的には、「女・単身・低収入」の三重苦。この三重苦だと、果たして今後、部屋は借りられるのでしょうか。借りられたとして、借り続けられるんでしょうか。借り続けるとして、何歳まで財力がもつのでしょうか。

自分で何とかしなくてはいけない

頭をよぎるのは、2020年11月に東京・幡ヶ谷のバス停で殺された女性の事件です。彼女は当時64歳、いまの私と大して変わらない年齢です。地方から上京し、単身で働き、直近は派遣などで販売員をしていました。ところが不安定な仕事のせいもあってアパートを追われ、コロナで職を失い、路上で暮らすようになったそうです。

それでも生活保護は申請せず、自力で何とかしようとしていたらしいです。彼女の事例は、不安定な立場の高齢女性が家を失うことの恐ろしさを象徴しています。無職・独身の女の末路を突きつけられたようで、とても他人事とは思えず、ショックでした。

とにかく家だけは確保しなくては。老後に、家を失って路頭に迷うことだけは避けたいです。ことに私は「フリー」の身。会社が守ってくれる会社員とは違います。年金で暮らす場合と事情は同じです。それに夫も子もいません。自分で何とかしなくてはいけないのです。

そして、はっと気付きました。いま私が悩んでいる老後の住宅問題は、同世代の単身女性たちが、遠くない未来、必ず直面する課題ではないでしょうか。1986年施行の男女雇用機会均等法の第一世代として、「初めての××」を切り開いてきた女性たちは、これから、初めての「大量定年」時代を迎えます。途中で会社を辞めた女性もいましたが、会社に残って頑張ってきた女性たちも少なくありません。結婚したり子供をもうけたりした人だけでなく、単身者もいるでしょう。

統計上は、独身の人に、私のようなバツイチを足すと、全国で50代後半の27.7%、前半でも29.9%がシングルです(2020年国勢調査から)。彼女たちは、会社を辞めた後の人生、特に住まいについてどう考えているのでしょう。国の統計によると、持ち家率は全国平均で63%ですが、50代の単身世帯の持ち家率はずっと低いです。50代女性の単身世帯では、東京都内では43%が持ち家ですが、全国平均では18%しかいません 。

「アラ還」の住まい事情

約8割を占める、全国の借家住まいの50代女性の多くはおそらく、今はまだ、目先の暮らしに追われ、老後のことなんて具体的に考える余裕もないのでしょう。早期退職する前の私がそうだったように、老後のことは老後になってから、ゆっくり考えればいいや、と思っているのではないでしょうか。

そんなご同類の女性たちに代わって、ひと足先にハッピーリタイアして「プチ老後」状態になっている私が、「アラ還」の住まい事情について調べようと思います。住宅の情報はほとんどが30、40代の若い人向けばかりで、老後の生活設計の中でどう考えるべきかは、誰も指南してくれません。老後は、借りていていいんでしょうか。買ってしまっていいんでしょうか?

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買うといっても、「老後の家」のための住宅ローンなんて、銀行は融資してくれるんでしょうか? 買えるとして、どんな予算感で考えれば、生活が破綻しないのでしょう。買わないのなら、老後になっても部屋を貸してもらえるものでしょうか。会社という後ろ盾がなくなり、保証人になれる身内もいない年齢になった時、シングル女性が家を借り続けることは可能なんでしょうか?

これから毎回、自分ごととして、調べていきます。どうぞ、お楽しみに。

(第1回おわり)

次回は、「公団へGO!~これぞ最後の頼みの綱、お金さえあれば何歳でも、単身無職でも借りられる!」をお届けします。

元沢賀南子

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