脱中国に本気のオーストラリア、AUKUS創設主導の狙いを詳解

脱中国に本気のオーストラリア、AUKUS創設主導の狙いを詳解

  • JBpress
  • 更新日:2021/10/15
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米海軍のオハイオ級弾道ミサイル原潜(10月1日撮影、米海軍のサイトより)

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「中国との本格的対立」の決意

オーストラリアは「中国との本格的対立」を決意した。

それは、フランスとの潜水艦共同開発計画を破棄し、国家存亡をかけて米英との新たな軍事同盟としての「AUKUS(オーカス)」創設を選択した方針転換に表れている。

オーストラリアにとって、中国は最大の貿易相手国である。オーストラリア外務貿易省2020年統計によると同国の輸出は、

①中国36.4%
②日本10.7%
③米国6.3%

輸入は、

①中国23.9%
②米国12.6%
③日本5.5%

の順となっている。特に、中国は毎年、資源大国オーストラリアの原材料(鉄鉱石、石炭、液化天然ガスなど)輸出の3分の1以上を買い上げる最大のお得意様である。

そのオーストラリアが、経済を大幅に依存する「中国との本格的対立」を決意しなければならなくなった理由は、中国の経済制裁による損失や様々な報復措置を考慮に入れてもなお、優先的に守らなければならない国益があるからだ。

その国益とは、中国による進行中の「浸透・影響工作」、いわゆる「間接侵略」から自国を守ることであり、また、身近に迫る軍事的脅威を未然に防止(抑止)することにほかならない。

まさに国家存亡をかけた重大な決断である。

「浸透・影響工作」の詳細は、 クライブ・ハミルトン著『目に見えぬ侵略 中国のオーストラリア支配計画 』(飛鳥新社、2020年)に詳しい。

ここでは、以下のような様々な工作によって、オーストラリアが知らないうちに中国共産党に浸食されている衝撃的な事実が明らかにされている。

・1970年代末から中国からの移民や留学生が急増し、2018年現在で130万人を超え、オーストラリア人口の5.2%を占めていること。

その結果、オーストラリアの大学や企業、経済界など多分野で中国人が主要ポストに就き、その多くが中国国内でも重要ポストを与えられていることから、企業秘密や研究成果が筒抜けになっている懸念があること。

・中国人が農地を買いあさり、その農地所有数は英国人に次いで2位になっていること(土地全体では英中で全体の25%を占めている)。

・孔子学院がオーストラリアの大学や学校などで、中国政府のプロパガンダと有害な影響を拡散する機関として活動していること。

・パンダハガーや中国による洗脳者、ハニートラップなどによって活動を強いられている者たちの工作によってオーストラリアの政界、財界、メディアが中国共産党の干渉下に置かれ、法や権利を明け渡していること。

また、それらの影響で同国の対中世論がコントロールされていること。

・2019年のオーストラリア総選挙では、中国の情報機関によると見られる議会へのサイバー攻撃や中国人の候補者擁立などの工作が行なわれたこと。

・ファーウェイやハイクビジョンのIPカメラの拡大で、情報が北京へ筒抜けになっていること。

・2014年に中国企業・招商局集団が世界最大の石炭積出港・ニューキャッスル港を買収、2015年に中国企業が安全保障上の要衝であるダーウィン港の「99年の租借権」契約を結んだこと。

2016年に投資家コンソーシアム(中国国営ファンド・投資有限責任公司が20%を占める)がメルボルン港を購入していること。

・中国国営企業の国家電網公司は「ビクトリア州の5つの電力会社の所有権と、南オーストラリア州唯一の送電会社の一部」を所有し、この送電会社の残りの所有権は香港の長江基建集団が握っており、電力もほぼ掌握してコントロール可能なこと。

そのうえ中国は、オーストラリア政府が新型コロナウイルスの発生源に関する独立調査を呼びかけたことに激しく反発し、オーストラリア産牛肉や大麦、ワインなどを様々な名目で高関税を課したり税関手続きを遅滞させたり、さらには石炭輸入の無期限禁止などの制裁措置を強行したりしている。

また、インド洋と南太平洋の間に位置し、両(大)洋へ直接アクセスできる「インド太平洋国家」を自認するオーストラリアにとって、南シナ海やインド洋、そして伝統的な影響圏である南太平洋島嶼国への中国の進出は、同国の安全保障上の重大な脅威となっている。

その結果、オーストラリアのシンクタンク、ローウィー研究所が毎年行っている世論調査によると、2021年、同国民の中国への信頼感は極度に低下し、中国を安全保障上の脅威と見なす人が、経済パートナーと考える人を初めて上回った。

その割合は60%超で、2018年の18%から大きく拡大した。

スコット・モリソン首相は、「オーストラリアは開かれた貿易国だが、どこかに強制されて自分たちの価値観を売り払うことはしない」と発言し、中国との経済関係が悪化していることについて、「脅しには屈しない」と述べている。

オーストラリアの保守政権が「中国との本格的対立」を決意した背景には、その選択が貿易に影響が及んでいるものの、対中強硬姿勢を採っていることへの国民の確かな理解と支持が反映されているのである。

ファイブアイズを土台とした理由: 主題ではない仏との潜水艦共同開発

今回の米英豪によるAUKUS創設は、ファイブアイズという情報同盟を土台としており、単に、潜水艦共同開発計画の破棄・変更を主題とする問題ではない。

ウォルター・ラッセル・ミード(Walter Russell Mead)氏の記事「AUKUSは未来の『インド太平洋条約』」(WSJ、2021. 9. 28)によると、AUKUSの枠組みは豪政権の考えとイニシアティブが起点になった模様である。

中国の軍事力強化の規模とスピードを目にしたオーストラリアの国防計画担当者らは、国防戦略の見直しを強いられた。

すでにオーストラリアには日米印との4か国戦略対話としての「クアッド」が存在する。

クアッドは中国を刺激したくないインドに配慮するなど、いわば緩やかな安全保障戦略の共同努力・有志連合である。

具体的には、質の高いインフラ、海洋安全保障、テロ対策、サイバーセキュリティ、人道支援・災害救援をはじめ、宇宙やクリーン・エネルギー、人的交流といった包括的分野での取り組みを通じて「自由で開かれたインド太平洋」の実現を目指す。

オーストラリアは、中国の台頭を受けて、自国に対する間接侵略や軍事的脅威を抑止し対処する必要に迫られている。それにはクアッドでは物足りない。

「集団防衛」を掲げる北大西洋条約機構(NATO)のような、国防・軍事を前面に打ち出した枠組みがインド太平洋にも必要であるとの認識に立ち、より強固で実効性の高い組織を求めるようになった。

そこでオーストラリアは、自国の国防・軍事を保証できるのは、米国と英国女王を自国の元首として戴いている英国との関係緊密化だと結論付けた。

そして、米英を説得し、情報共有のパートナーシップであるファイブアイズ(米国、英国、カナダ、オーストラリアとニュージーランド)が第2次世界大戦以降数十年かけて築いてきた深い信頼を基礎として、新しい軍事同盟を創設しようと動いたのである。

この新たな軍事同盟の創設で犠牲になったのが、フランスとの潜水艦共同開発計画である。

米英などの「特別な関係」に比較して戦略的パートナーとしてのフランスに対する信頼感や絆の希薄さがもたらした、オーストラリアの止むを得ない選択だったと言えよう。

ファイブアイズは、前述の5つの英語圏民主主義国家間の機密情報を共有するための取り決めである。

それは、ソ連を監視し、機密情報を共有するためのメカニズムとして冷戦中に進化し、世界で最も成功した情報同盟(インテリジェンス・アライアンス)と見られている。

さらに、9.11以後のテロに関する情報共有から最近の中国をめぐる協力の間に、ファイブアイズの関係はかつてないほど強固になったと言われている。

今日、同盟内で共有される情報(インテリジェンス)の大半は、巨大な情報コミュニティーを有する米国から提供され、次の貢献者は政府通信本部(GCHQ)や秘密情報部(SIS)が有名で、かつ「グローバル・ブリテン」のスローガンを掲げる英国である。

つまり、ファイブアイズは、米国と英国を中心に英連邦を構成するカナダ、オーストラリア、ニュージーランドを加えた情報同盟である。

軍事におけるIDAサイクルを動かすのは、まずI(情報)であり、その中心的役割を務める米英に限定してオーストラリアが信頼できる戦略的パートナーに選んだのには、それなりの見識に裏付けられた必然性がうかがえる。

また、オーストラリアは、米国が原子力推進型潜水艦の機密技術を英国と共有したことを踏まえ、ファイブアイズのパートナーシップを情報分野から軍事研究開発および国防計画を含めるまでに拡大できると考えて米英にアプローチした。

それが今般、両国と原子力潜水艦の開発に着手するとの合意に結び付いたものである。

したがってAUKUSは、これを契機として機密情報の共有にとどまらず、量子コンピューターから人工知能(AI)、電子戦、ミサイル、サイバーに至る最先端技術の分野における軍事協力へと発展することが期待されている。

また、米海兵隊は、2012年以降、オーストラリア北部ダーウィン(陸海空軍基地)へのローテーション展開を行なっている。

これに加え、米空軍の「B-52」戦略爆撃機や「F-22」戦闘機などがオーストラリアへ随時展開するようになり、米軍が展開するダーウィンやティンダル(空軍基地)などの施設、飛行場および訓練場の増強も推進されている。

米航空機製造大手ボーイングは2021年9月、米国以外で初めて製品(軍用ドローン)の最終段階の組み立て作業を行う工場をオーストラリアに新設する計画を発表した。

同軍用ドローンは、ボーイングのオーストラリアチームが設計を手がけたと伝えている。

米国務省は10月、米政府がオーストラリアに攻撃ヘリコプター(MH60Rシーホーク)12機と電子戦機1機の売却を決定したと発表した。

このように、米英豪の新たな軍事同盟であるAUKUSは、覇権的拡大を目指し攻勢を強める中国に対抗するため、すでに活発に動き始めている。

日本のAUKUS参加の可能性

以上、オーストラリアが直面する危機的状況とその対応を見てきたが、それを「対岸の火事」視するほど日本も安閑としてはいられない。

中国のオーストラリアに対する「浸透・影響工作」あるいは「間接侵略」と同じこと、あるいは沖縄独立工作など、それ以上の活動が日本に仕掛けられているとの指摘もある。

現に、中国政府の船舶が沖縄県石垣市の尖閣諸島周辺海域に派遣され頻繁に領海侵入し、継続的にわが国への挑発的・侵略的行動を繰り返しており、その脅威を改めて深刻に受け止めざるを得ない。

そのうえで、日米豪印による4か国戦略対話「クアッド」が、このまま緩やかな安全保障戦略の共同努力・有志連合に止まるとするならば、中国の脅威に直接曝されているわが国としては、日米同盟を基軸として、より強固で実効性のある軍事同盟としてのAUKUSへの参加を目指すことも有力な選択肢として浮上しよう。

その際、AUKUSへの参加は、ファイブアイズへの加盟条件をクリアーすることが前提となろう。

AUKUSの土台となっているファイブアイズには、当事国の英国から日本の参加を促す発言が相次いでいる。

また、米知日派による「アーミテージ・ナイ報告」(2020年12月)でも、バイデン米政権と菅義偉政権が「安全保障上の最大の課題」である中国との「競争的共存」に向け、日米同盟を強化していくべきだとした上で、同報告書は「ファイブアイズ」に関し、日本を加えた「シックスアイズ」にする方向で日米が真剣に努力し、同盟協力を深化させていくべきだと訴えた。

英紙ガーディアンはオーストラリア議会にも同様の動きがあると報じている。

日本は、米国だけではなく英豪との安全保障協力を強化するため、情報保護協定を結んでいる。

日本がAUKUSに入れば、米中対立の最前線である東アジアに位置する地政学的特性を生かし、関係国の協力連携はより強固かつ円滑になろう。

他方、英国からは、ファイブアイズには「特別な一貫性(particular coherence)」があり、その考え方に沿って加盟国間で協議する必要があるとの姿勢が示されている。

また、米国では「ファイブアイズと日本などの第三国との協力は情報共有枠組みの堅牢性に影響を与えかねない」という慎重な意見も見られる。

国内では、2016年に施行された特定秘密保護法により機密情報共有に必要な環境整備が進んだが、スパイ行為を取り締まるスパイ防止法が整備されておらず、情報保護に不安が残る。

また、防衛省幹部の中には「ファイブアイズの5か国は英語圏だから、機微なやりとりができないのではないか」との意見もある。

さらに、2020年5月、ニュージーランドを除くファイブアイズの4か国が香港国家安全維持法(国安法)を批判する共同声明に参加を呼び掛けたが、日本政府は辞退した。

「ファイブアイズだけで突っ走ると、ドイツやフランスがついていけなくなる」(外務省関係者)と判断したからだという。

このように、国家間の複雑な手続きや国内外の意見の相違もあるが、日本のファイブアイズへの加盟を通じたAUKUSへの参加は、わが国の安全保障・防衛に係る死活的国益に大きなアドバンテージをもたらす可能性が十分に認められる。

さらに、日本が、インド太平洋の平和と安定の維持を目指す、NATO型の多国間枠組み作りに積極的に取り組む重要なステップにもなり得るものである。

そのため、対中戦略態勢を強化する上で、日米豪印による「クアッド」の役割や連携を高めつつ、AUKUSへの参加についても、時間的猶予はあまりないが、国内外関係者との実務的な調整・協力実績を一つずつ積み上げ、国民の理解を得て、その実現に向けての大いなる努力が望まれるところである。

樋口 譲次

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