新型コロナ流出説が再燃、米国と中国の熾烈な「情報戦」が始まる

新型コロナ流出説が再燃、米国と中国の熾烈な「情報戦」が始まる

  • JBpress
  • 更新日:2021/06/11
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画像はイメージです(Pixabay)

(福島 香織:ジャーナリスト)

新型コロナウイルス感染症の猛威は一向に終息しないどころか、恐ろしい速さで変異して3波、4波の流行が世界各地を襲っている。「ウイルスの人類への適応能力があまりに早い」ことから「実験室流出説」「人工ウイルス説」が今、再燃。実験室流出説を信じてきたトランプ元大統領はかつて中国に対して最低10兆ドルの賠償金請求を行うつもりだったという。

ワクチン接種が広まり、とりあえず死者増加に歯止めがかかってきたこともあり、いよいよこの甚大な人的犠牲と経済的被害をもたらした新型コロナパンデミックの責任問題が国際社会の焦点になってきそうな気配だ。果たして実験室流出なのか、それは中国の武漢ウイルス研究所からの流出なのか。

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米国のコロナ対策トップへの疑念

米国エネルギー省傘下の生物防衛研究所の情報部門は、2020年5月27日に提出した機密レポートで、中国の“コウモリコロナウイルスにおける機能獲得(GOF)”研究の過程でウイルスが流出したと結論づけていた。そのレポートの存在を米シンクレア・ブロードキャスト・グループが独自ダネとして5月3日に報じたことから、実験室流出説が改めて注目を浴びるようになった。

その後、米国のコロナ対策トップである米国立アレルギー感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長のメールが情報公開請求に応じて公開されたのだが、その中で、意外な(あるいは予測された)事実が次々と判明していった。

注目を浴びたのは、免疫学者のクリスチャン・G・アンダーセンから2020年1月31日に送られたメールだ。アンダーセンは「このウイルスのゲノムは進化論から想定されるものとは矛盾している」と人工ウイルスの可能性があることを指摘。これ以降のファウチの関係者とのメールの流れから、ファウチが当初から武漢ウイルス研究所のコウモリコロナウイルスGOF実験と新型コロナウイルスの関係を知っており、そのうえで、当初は明確に実験室流出説を完全否定していたのではないか、と推測される。武漢ウイルス研究所のコウモリコロナウイルスGOF実験には、「コウモリ女(Bat Woman)」とあだ名されていた生物学者、石正麗のチームが関わっていた。

さらに、新型コロナウイルスのアウトブレイク当初、ファウチら関係する科学者が足並みをそろえて人工ウイルス説を否定したのは、米国がこのコウモリコロナウイルスGOF実験に関わっていたことを隠すためではなかったか、という疑念もでてきた。

ノースカロライナ大学で行われていた武漢ウイルス研究所チームとの共同のコロナウイルスGOF実験は、2014年の段階で「生物兵器研究の可能性がある」という批判を受けて米国からの資金援助が打ち切られていた。だが、国立衛生研究所は2014年から2019年まで、NPO「エコヘルス・アライアンス」を通じて340万ドルを武漢ウイルス研究所に送金していたことが明らかになっている。この資金は米国で継続できなくなったコウモリコロナウイルスGOF研究を武漢で継続させるために使われたらしいことがファウチのメールなどからも推察されている。ただし、ファウチ自身は、資金はサンプル収集のために使われたと主張し、メールの内容も曲解されて報じられていると主張している。

だがエコヘルス・アライアンス代表のピーター・ダジャックが2020年4月に、ファウチが自然発生説を支持したことについて感謝のメールを送ったことをみれば、やはりファウチには疑念が湧いてくる。ダジャックは科学界に大きな影響力をもつ人物だ。2020年2月19日に26人の科学者が連名で人工ウイルス説を非難する声明を出したが、その声明を出すよう働きかけたのも彼だった。

「新型コロナ=人工ウイルス説」の根拠

さらに、米国臨床バイオ製薬企業アトッサ・セラピューティクス創始者のスティーブン・クウェイとローレンス・バークレー国立研究所の元主席科学者のリチャード・ミュラーが米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」(6月6日)に寄稿し、「新型コロナウイルスは人工的に造られた怪物である」という根拠を2つ挙げた。

2人は、ゲノム編集でウイルスの特性を改善させるGOF研究は、感染力をさらに強めたり致命性を強めたりすることが可能であると指摘したうえで、次のように述べる。

「2個のアルギニン酸配列がウイルスの致死率を高めているが、この2個のアルギニン酸配列を連続生成できるのは、36のゲノムのうち、GOF研究で最もよく使用されるCGG-CGGだ。これはダブルCGGシーケンスとも呼ばれ、ほかの35のゲノムと比べて、使い勝手がよく、実験で最も頻繁にゲノム配列に挿入される。CGG-CGGのもう1つの利点は、科学者が追跡できる信号を作れるという点だ」

つまり新型コロナの致死率が高まったのは、科学者がゲノム編集でよく使うCGG-CGG配列が関係しているのだという。SARSコロナウイルスMERSコロナウイルスなどのコロナウイルスファミリーにおいてCGG-CGG配列は自然に発現したことはなかった。唯一、新型コロナウイルスのゲノム配列だけにあり、2人はこれを「新型コロナ=人工ウイルス説」の根拠の1つとしている。

また2人によると、SARS、MERSは人間の体に入ると次第に最適化し、最終的に最も感染力を強めたタイプが感染の主流となる。これは、自然発生ウイルスの性質だという。ところが新型コロナウイルスは、最初に観測されたときから極めて強い感染力を備えていた。これほど短期間で人類に最適化したのは前代未聞だという。

つまり明らかにウイルスは感染拡大が始まる前に、すでに人間に対する長い適応期間があったとみられる。現段階ですでに知られているウイルスの科学的な最適化の方法は「模擬自然演化」だ。ヒト細胞でウイルスを培養し、直接的に最適化させる方法である。これはGOF研究でも行われるという。

2人はこれらの証拠をもって、新型コロナウイルスが実験室由来だと主張した。武漢ウイルス研究所がウイルスの致死性を高めるGOF研究を行っていることはよく知られた話だという。

このほかにも、「DRASTIC」と呼ばれるSNSでつながった国際的アマチュア調査チームがネット上の様々な情報を持ち寄り実験室流出説を補強する根拠を示していることが、「ニューズ・ウィーク」など米国の大手メディアでも取り上げられた。

米国主流メディアが実験室流出説に変化した理由

こうした世論の変化もあり、米国のブリンケン国務長官は6月7日の上院外交委員会で、新型コロナウイルス感染症のパンデミックに関して中国が情報提供の責任を果たしていないと批判し、WHOにも、中国に責任を果たさせるよう迫った。

ブリンケンはこの委員会の前にネットメディア「アクシオス」の取材を受けて、米国が新型コロナウイルスの起源を徹底調査する決心をしており、中国の責任追及を行うつもりだということを明らかにしている。

ブリンケンは「中国は、国際専門家たちが必要としている透明性のある情報共有がいまだにできていない」「中国が責任ある国際的行為を行えば、次の感染爆発も防げるだろうし、少なくとも各国の感染拡大防止策を改善できる」と訴えた。

元大統領のトランプは6月5日の共和党代表大会に出席したとき、コロナウイルスの武漢実験室流出説を信じると述べ、大統領在任中は「世界各国とともに中国に少なくとも10兆ドルの賠償金を請求するつもりだった」と明かした。今後は、米国政府に中国製品の輸入関税を100%に引き上げるよう求めていくという。

これに対して中国側は、中国を中傷するフェイクニュースであるとして反論している。中国外交部報道官の汪文斌報道官は、6月7日の定例記者会見で「米国はウイルス起源を追求することで責任転嫁をしようとしている。『イラクが大量破壊兵器を保有している』との嘘を流したのと同じやり方だ」と批判した。人民日報系タブロイド紙「環球時報」(6月9日付)は「中国に汚名を着せるだけでなく、WHOまで脅迫している」「(一部の政治家や科学者たちが)この(パンデミックという)悲劇を己の政治目的の実現に利用しようとしている」と反論した。

WHOは6月8日、新型コロナウイルス起源調査中国パートのレポートを発表。レポートでは、新型コロナウイルスの実験室事故説について「ありえない」と結論づけている。このリポートは2021年1月14日から2月10日までの28日間、WHOほか国際機関から派遣された各国の専門家17人と中国の専門家17人が武漢で行った調査をもとにまとめられた。

真実がどこにあるかは依然、霧の中なのだが、もはや真実のありかよりも、イラク戦争時の「大量破壊兵器」情報がウソだったという前科がある米国と、情報隠蔽と捏造の常習犯である中国が、このパンデミックによって積み上がった犠牲と経済損失の賠償責任を押し付け合う本気の情報戦が始まった、という視点で見ることの方が重要かもしれない。

バイデン政権になって米国世論が急に自然発生説から実験室流出説に変化したのは、おそらく主流メディアがバイデン政権寄りであることも大きい。トランプ政権がいくら実験室流出説をほのめかし「チャイナウイルス」と主張しても主流メディアは「陰謀論」と一蹴していた。だが、バイデン政権が中国の責任を追及することを決断したので、メディアもその意向に沿った報道に切り替わった。

これはバイデン個人の意思というより、バイデンが決断力のない弱い大統領ゆえに、様々な勢力が活発化して暗闘したことが関係しているかもしれない。なにせ1984年から米国立アレルギー感染症研究所長を務め、6代にわたる米国大統領の感染対策顧問を務め(今も新型コロナ対策の陣頭指揮をとっている)、感染症研究・医療のトップに君臨し続け、おそらくはウイルスの軍事利用の裏表も知っていたであろうファウチを失脚させかねない情報が表沙汰になったのだ。諜報機関内部や議会内の対中強硬派らが派閥を超えて動いている雰囲気が伝わってくる。

どの勢力が情報戦に勝利するのか

さて、武漢ウイルス研究所が新型コロナウイルスの起源である可能性、米国が自国では倫理的に許されない生物兵器研究を中国の武漢ウイルス研究所に行わせるため資金援助していた可能性、科学者たちがそれを知ったうえで自然発生説の流布に加担した可能性──さまざまな仮説が飛び交う中で、このパンデミックの責任追及の着地点はどこになるのか。

それは、真実がどこにあるかというより、どの勢力が一番情報戦に勝利するか、ということだが、いずれにせよ、着地に失敗すれば、かつてのイラク戦争どころではない大きな泥沼に世界がはまりかねない。

ところで、仮に生物兵器研究のプロセスで生まれたウイルスであれば、自然界の原則・予測を超えるイレギュラーな変異や感染爆発が今後も十分に起こりうる。日本は、それに対応しながら五輪を行う覚悟ができているかを、今一度問うてみることも必要かもしれない。

福島 香織

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