検証!『キングダム』の"でかすぎる"人気キャラ、当時の馬で耐えられる? 【マンガでひらく歴史の扉 4】

検証!『キングダム』の"でかすぎる"人気キャラ、当時の馬で耐えられる? 【マンガでひらく歴史の扉 4】

  • J-CAST BOOKウォッチ
  • 更新日:2022/11/25
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キングダム 1(集英社)

東京都駒込にある、世界最大級の東洋学研究図書館「東洋文庫」のマンガ大好き学芸員・篠木由喜さんが、イチオシ作品の学芸員的読み方を紹介してくれるシリーズ「マンガでひらく歴史の扉」。

第4回は、前回に引き続き、2022年10月5日(水)~2023年1月15日(日)まで東洋文庫ミュージアムにて開催されている「祝・鉄道開業150周年 本から飛び出せ!のりものたち」展から、同じくマンガが大好きな東洋文庫学芸員の児玉真起子さんとともにお送りする。今回のテーマは、「古代中国の馬」だ。

はじめに一つ、篠木さんから問題。

篠木さん:中国で、馬に乗って戦う「騎馬戦」が始まったのはいつ頃からでしょう?

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ロンドンからこんにちは! 現在の大英博物館の常設展では、手塚治虫『三つ目がとおる』の縄文土器が登場するページと本物の縄文土器を並べた展示があります。まさに「マンガでひらく歴史の扉」だ! と感動しました。

当時の馬はどんな馬だった?

篠木さん:中国で本格的に馬に乗って戦うようになったのは、戦国時代の紀元前4~3世紀頃です。日本にはまだ都すらない時代ですね。 そもそも「馬に乗る」って、けっこう技術が必要なんですね。足を乗っける鐙(あぶみ)とか、口にくわえさせる銜(はみ)とか、ああいう道具がないと、人間が馬に乗って戦うのは大変です。 そういった乗馬技術を開発したのは、中央アジアの遊牧騎馬民の人々。中国で戦国時代になるまで騎馬戦が始まらなかったのは、その知識が当時はまだ中国に入ってきていなかったからだと考えられます。 それに加えて、馬が小さかったんですよ。児玉さん:当時はサラブレッドみたいな馬じゃないんですよね。篠木さん:当時中国にいたのは蒙古馬だと考えられていて、頭の高さが130cmくらいしかなかったんです。今の私たちが乗ろうとしたら、下手したら、乗ったら足が地面についちゃう人もいそうです。児玉さん:まあ、人間もみんな小さかったんですよね。篠木さん:そう、当時は人間も小さかったんですよ。でもそれにしたって馬は小さい。しかも、鎧を着込んで馬に乗ろうとしたら、馬に負荷がかかりすぎます。 だから紀元前4~3世紀より前は、騎馬で戦うよりも戦車が中心だったんです。1頭で牽かせるのではなく、4頭立ての戦車です。『詩経』に収められている、紀元前11世紀の「牧野の戦い」を描いた詩の中には、「牧野は広々とし 堅固な戦車は燦然と煌めき 四頭立ての馬車は盛大である(牧野洋洋 檀車煌煌 駟騵彭彭)」という、4頭立て戦車の描写が残っています。

「130cmの馬」に乗れない、あのキャラクターとは

さて、そんな古代中国の馬が登場するマンガといえば......今年7月に2度目の映画化もされた、今大人気のマンガの一つ、原泰久さんの『キングダム』(集英社)だ。古代中国の戦国時代末期が舞台で、のちに始皇帝となる秦王・嬴政を支えた、武将・李信の活躍を描いている。

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原泰久『キングダム』(集英社)

篠木さん:『キングダム』の前半に、主人公が目指す秦の偉大な将軍として「王騎将軍」という大人気キャラクターが登場するんですが......この人、ものすごく大きいんです。

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16巻表紙の王騎将軍

児玉さん:主人公の倍くらい大きく描かれてるカットもあるよね(笑)。王騎将軍は実在の人物ですが、本当に大きかった記録とかはあるんですか?篠木さん:うーん、司馬遷の『史記』にはそんなに詳細な描写はないです。ただ、「偉大な人を大きく描く(異形化する)」という習慣は、もともと中国にありました。

たとえば、こちらの『万世師表図』。中央に描かれているのは儒教の始祖・孔子ですが、周りの人よりも明らかに大きく描かれています。

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『万世師表図』(1736-1795頃)

篠木さん:ちなみに『史記』孔子世家には、孔子の身長は九尺六寸(216cm)と記されています。圧倒的大きさ。さすが孔子先生。 『キングダム』の中の将軍の身長ですが、ファンの間では、他のキャラクターの身長やコマとの比較から、240cmくらいだと言われています。児玉さん:めちゃくちゃでかい(笑)。篠木さん:もちろん、孔子にしても数字盛ってるとは思いますけど!でもね、面白いからこのまま王騎将軍は240cmくらいだと仮定して、彼が130cmの馬に乗るとですね......完全に足がついちゃうんですよ。児玉さん:馬に乗ってる意味とは? って感じですね。篠木さん:多分馬の背骨折れちゃいますよ。今も、たとえばポニーに乗る場合には体重制限がありますよね。だから、馬が130cmくらいだとすると、王騎将軍が乗れなくなっちゃう......んだけど、華麗に騎乗して勇ましく戦っていらっしゃるので、じゃあ特異的にめちゃくちゃ大きい馬もいたんじゃないか? という妄想を進めていくことにいたしましょう(笑)

王騎将軍の馬はどこからやってきた?

篠木さん:じゃあその特異的に大きい馬はどこから来たのでしょうか。考えられることの一つは「たまたま見つけた汗血馬(かんけつば)を、偉大な将軍にあてたんじゃないか」という説です。 汗血馬とは、「血のような汗を流して走る馬」という意味の、教科書にもでてくる名馬の種類です。秦よりも後、前漢の王・武帝が、中国の馬は小さいし、戦でたくさん馬を失ってしまったから、西からやってくる匈奴という遊牧騎馬民に対抗できない。そこで、匈奴よりもさらに西側の、現在のウズベキスタン東部のあたりから、大きくて素晴らしい汗血馬と、交配用の馬をたくさん連れてきたというエピソードが有名ですね。そして、中国にもともといる馬と交配させて、何世代もかけてだんだんと大きい馬をつくっていったんです。 戦国時代の中国の馬は小さかったけれど、遊牧騎馬民は少なくとも中国の馬より大きくて騎乗に耐えうる馬に乗っていたので、王騎将軍にはたまたま商人が連れてきていたそういう大きい馬、たとえば汗血馬があてがわれたんじゃないかな......みたいな妄想を、私たちはしているわけです(笑)

劇場版『キングダム』ではどう撮られた?

『キングダム』はマンガだけでなく、実写映画も観に行ったという篠木さん。連載第2回の近況では、映画の戦車が出てくるシーンで「大興奮で叫びを抑えるのに苦労しました」と報告していた。

篠木さん:映画にも戦車が登場しました。めちゃくちゃかっこよかったんですけど、2頭立てだったんですよね......。4頭立ての大迫力戦車を観たかったとも思うんですけど、4頭の馬を操って、思い通りに走らせて映画撮るのってめちゃくちゃ難しそうですよね(笑)。実際の撮影がどうだったのかはわかりませんが。

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アンダ・ベルニエリ『中国の風景と風俗』(1820年刊)。開催中の企画展「本から飛び出せ!のりものたち」展では、古代中国の戦車の図版も展示されている。上は「戦車に乗った古代の皇帝」、下は「戦車」と、それぞれイタリア語で記されている。

児玉さん:これ、車輪が2つなんですね。バランスとるの難しそうじゃない?篠木さん:停車してる状態では、支えみたいなのをつけるみたいです。逆に、走ってる状態では車輪4つだと小回りがきかない。こういう車輪2つの戦車をチャリオットというんですけど、中国で馬の戦車といえばこのチャリオットを指します。児玉さん:確かに撮影には向かないかもしれない。130cmじゃなくて、今のでかい馬ですからね。篠木さん:あと、そもそもマンガの描写でも戦車は2頭立てなんで、原作に忠実な映画といえます。4頭も描いてたら作画コストやばいです......。児玉さん:コマが馬だけで埋まっちゃいますね。

実は、映画『キングダム』には、東洋文庫とのつながりも。中国史監修を担当したのが、東洋文庫の研究員の鶴間和幸先生なのだそうだ。

東洋文庫研究員の監修で、無理ない範囲で史実のエッセンスを組み込み、さらに王騎将軍役の大沢たかおさんも、ちゃんと巨大な体をつくって巨大に撮られていたという映画『キングダム』。原作ファンの篠木さんも、「たいへん面白い映画です。3も楽しみだな!」と太鼓判を押していた。

東洋文庫ミュージアム企画展「祝・鉄道開業150周年 本から飛び出せ!のりものたち」【会期】2022年10月5日(水)~2023年1月15日(日) 2022年は日本の鉄道開業150周年にあたります。鉄道は現代の私たちにとって、生活に欠かせない移動・輸送の手段です。 それでは、鉄道が誕生する以前はどのように人や物を運んでいたのでしょうか。 あるいは、遠くへ行きたいと望み、空を飛んでみたいと思う人々は、どんな乗り物を夢想したのでしょうか。 本展では、本のなかにみえる古今東西の様々な乗り物たちをご紹介します。公式サイト→http://www.toyo-bunko.or.jp/museum/exhibition.php

「のりものたち」展では、岩手県の小岩井農場に輸入され、現在の日本のサラブレッドの祖先となった馬たちがパネルで紹介されている。メディアミックス作品『ウマ娘 プリティーダービー』のブームなどで、今注目を集めている競馬。その歴史を感じることができる展示だ。

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〈小岩井農場の輸入牝馬とその子孫〉

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「ハルウララ」の祖先、「ビユーチフルドリーマー号」

〈東洋文庫〉 1924年に三菱第3代当主岩崎久彌氏が設立した、東洋学分野での日本最古・最大の研究図書館。国宝5点、重要文化財7点を含む約100万冊を収蔵している。専任研究員は約120名(職員含む)で、歴史・文化研究および資料研究をおこなっている。

BOOKウォッチ編集部

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