WBCで熱狂!「野球実況」で英語を楽しく学ぶコツ

WBCで熱狂!「野球実況」で英語を楽しく学ぶコツ

  • 東洋経済オンライン
  • 更新日:2023/03/17
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大谷翔平選手(写真:CTK Photo/アフロ)

WBC(ワールドベースボールクラシック)で日本代表が準決勝に進出した。大谷翔平、吉田正尚、そしてラーズ・ヌートバーが大活躍し、最年長のダルビッシュ有が若い選手をフォローする姿に、改めてメジャーリーガーのすごさを実感した人も多いだろう。

もっとメジャーリーグベースボール(MLB)のことを知りたい人は、映画を通じてMLBの世界と野球英語を学びながら、アメリカでの準決勝、決勝をさらに楽しむ「二刀流」に挑戦してはいかがだろうか。

MLBを舞台にした作品は『メジャーリーグ』、『42〜世界を変えた男〜』など多くあるが、特にビジネスパーソン向けにお勧めなのは、球団編成のトップであるGM(ゼネラルマネジャー)を主人公に据え、統計学的手法をチーム作りに活用する「セイバーメトリクス」をテーマにした『マネーボール』だ。

2011年に公開され、アカデミー賞6部門にノミネートされたマネーボールは、ブラッド・ピット演じるオークランド・アスレチックスのGMとイエール大学経済学部卒の若いスタッフが、統計学を駆使してスカウトが見過ごしている “お買い得”な選手を集め、チームを強化する実話を元にした物語。

作品は2002年のシーズンを描いており、前年にメジャーに移籍し新人王&MVPに輝いたイチローが、貧乏球団オークランド・アスレチックスの手が届かない選手の象徴として、モニター画面に映る形で出演している。

何種類もある「ホームラン」

ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントと提携し、英語学習アプリ「abceed」で学習機能付きの映画コンテンツを公開しているGlobeeの田村凌コンテンツ開発マネージャーに、作中に出てくる野球実況頻出フレーズをいくつか挙げてもらった。

例えば「ホームラン」。一般人は“Home run!”がよく使われるが、実況では“It’s gone!”が一般的だという。

「典型的な言い回しは“It’s going, going, gone!!“で、日本語だと『伸びる、伸びる入った~!』という感じでしょうか。マネーボールでは実況が“That one is gone!”と言っており、これもよく言われます。また、“That baby is gone!” という表現もありますよ」

ちなみに「大谷、文句なしのホームラン」だと、“(Otani,) That’s a no-doubter”“No-doubter home run”となるそうだ。

満塁は“Bases loaded”。“load”は「積む、載せる」という意味だが、野球のシーンでは「全ての塁にランナーがいる状態」を指す。

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(注)田村さん作成

「2アウト ランナー1、3塁 3ボール 2ストライク」は“Two out. Runners at first and third. And the 3-2 delivery.”。“delivery”は「配達」という意味で最もよく使われるが、野球だと「投球」を意味する。

田村さんによると、動詞の“deliver”は「離れる」を意味する接頭辞“de”と、「自由にする」ラテン語の動詞“liberate”から成り立っており、“deliver a speech”(スピーチをする)、“deliver a baby”(出産する、赤ちゃんが母親から放れ独立した存在となるイメージ)、“deliver a result”(結果を生み出す)など、日本語にするとかなり広がりがある。

「“deliver a ball” も、ボールが投手の手元から離れて、捕手の元へ届けられるというニュアンスで理解するとdeliverの感覚がつかみやすいのではないでしょうか」(田村さん)

野球実況にはビジネス会話に応用できる言い回しも多い。

ビジネス会話に応用できる野球実況

“The Oakland A’s are completely out of hand at the moment.”(アスレチックス 手に負えません)のフレーズ。

「“out of hand”は直訳すると手の中に収めることができないとなり、日本語では手に負えないというニュアンスになります」と田村さん。

作品中のフレーズでは、絶好調のチームを表現しているが、ビジネスや日常シーンでは、“Let me know if things get out of hand.”(手に負えなくなれば教えてください)というように使える。

Globeeの幾嶋研三郎社長は元々英語が得意だったが、慶応義塾大学に入学後、帰国子女などの同級生と比べて会話力が低いことにショックを受け、動画配信サービスのネットフリックスを使ってリスニングや会話を学び始めたという。

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Globeeの田村凌コンテンツ開発マネージャー(左)、幾嶋研三郎社長(右)(写真:筆者撮影)

在学中の2014年に英語学習を支援するGlobeeを設立し、TOEIC対策は早くから人気サービスになったが、自身の経験も踏まえ「日本人の英語学習の課題は、高学歴で英語をきちんと勉強してきた人も会話に自信を持てない点」と指摘する。

そんな「ある程度単語や文法の勉強をした日本人」には、自分の好きなジャンルの娯楽作品で学習のハードルを下げ、実践的な会話力を身に付けることを勧める。

映画やドラマでの語学学習は上級者向けに感じるが、田村さんはデータを用いて「多くの映画作品はその国の小学校高学年から中学生が見ても理解できるので、語彙はそう難しくない。『マネーボール』はTOEIC600点、英検だと準2級~2級レベルの学習者のリスニング学習に最適です」と話す。

リスニング難易度の指標の1つであるWPM(1分あたりのワード数)で比較すると、「ネイティブの会話は約160、早口の人だと200くらい。TOEICは平均150台なのですが、『マネーボール』の会話部分は平均114です。また、映像もあるので聞いたことのない単語の推測の助けになります」(田村さん)。

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(注)田村さん作成

幾嶋社長は「最初は日本語字幕で作品を楽しんでほしい。何度でも見たいと思うような作品に出会えたら、英語学習は半分終わったようなもの」と言う。日本語字幕で響いたフレーズを真似したり繰り返したりし、リスト化すると効果的だ。

「勉強しているが伸び悩んでいる」「なかなか身に付かない」学習者には、さまざまな教材や学習法に手を出すことをやめて、「1本の映画を覚えるくらいまで英語で見てほしい」(幾嶋社長)。

あれこれ試して効果が出ない人は、知識やリスニング、発音が定着する前に見切りをつけている可能性が高く、「参考書でも映画でも、1つのコンテンツをやりこむことが大事」とのことだ。

「映画を1作品覚えるまで見ると、2作品目以降での学習が楽になり、10作品を叩き込めば日常会話はだいたい聞き取れるようになる」(幾嶋社長)。

今の日本人に刺さるフレーズ

最後に、『マネーボール』に登場する台詞で、WBCに夢中になっているすべての日本人に刺さりそうなフレーズを紹介したい。統計学に基づき選手を集め試合中の戦術も一変させたオークランド・アスレチックスのGM、ビリー・ビーンは、当初現場の猛反発を受けるが、チームは途中から波に乗り奇跡の20連勝を果たす。

そこでビリーが発したのが、“It’s hard not to be romantic about baseball”(人は野球に夢を見る)という言葉だ。

多くの選手が本業を持ち、有休を取ってWBCという夢舞台を満喫したチェコ代表、日本代表としてプレイすることを目指して来日したアメリカ国籍のヌートバーなど、私たちはWBCを通じてたくさんの野球に関する夢を知り、感動をもらった。ガチの野球好きもにわかファンも、共感できるフレーズだろう。

田村さんによると、“It’s hard not to (do)”「〜せずにはいられない」は、日常会話でも使いやすい表現だそうだ。

「“It’s hard not to sing in the bathroom.”(お風呂で歌わずにはいられない)といったように、さっそく取り入れてみてください」

(浦上 早苗:経済ジャーナリスト)

浦上 早苗

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